第5話 闇属性と聖属性
今だニヤニヤが止まないメーテ。
メーテの魔法に対する思いや考え方を聞いて、素直に尊敬させられたというのに、この落差である。
正直、色々と台無しだったし、言いたいこともあったのだが……
メーテの思いや考え方に触れ、尊敬させられたとう事実は間違いでは無いので、この際ニヤニヤ状態には目を瞑る事にした。
それから程なくして、ニヤニヤ状態が落ち着いたメーテ。
「んっ」と咳払いした後、何食わぬ顔で話を再開させた。
「先程の説明で【基本五属性】と【素養】がどういうものであるか、大体理解して貰えたと思う。
では、次に教えるのは残りのニ属性、【闇属性魔法】と【聖属性魔法】なんだが……この二つの属性は【基本五属性】とはまた毛色が違うからな。
今はどのような魔法が使えて、どのような事が出来るか? それを頭に入れてくれるだけで良い。
さて、まずは【闇属性魔法】から説明していくことにしようか」
「はい、わかりました」
僕が返事を返すと、メーテは説明を始める。
「端的に言うと【闇属性魔法】というのは、重力操作の魔法だ。
例えば、自分の体を軽くしたり、または相手の動きを重くしたりする事が出来る。
まあ、他にも出来る事はあるんだが……まだまだ謎が多く、未だ解明が進んでいないというのが【闇属性魔法】というものだな。
では何故? 解明が進んでいないかというと【闇属性魔法】を使用出来る者、又は【闇属性魔法】の素養持ちが極端に少ないというのが原因として挙げられる訳なんだが……」
そこまで口にして、言葉を詰まらせるメーテ。
僅かな間をおいた後、溜息混じりに言葉を吐きだした。
「……これは私の罪なのだろうな」
耳に届いたのはそんな言葉で、メーテへと視線を向けてみれば、憂いを帯びた表情を浮かべている事に気付く。
普段のメーテであれば、決して見せないであろう表情。
今まで見たこともないメーテの姿に驚きを憶えてしまい、それと同時に心配になった僕は、メーテの顔を覗きこんで声を掛ける。
「めーてだいじょうぶ?」
「アル、ありがとう。……私は大丈夫だ」
僕が声を掛けると、いつものように優しい笑顔を返すメーテ。
しかし、そんなメーテの笑顔は……
何処か悲しげで、何処か寂しげな……そんな笑顔だった。
「よし! 気持ちを切り替えて、次は【聖属性魔法】の話をしよう!」
場の雰囲気を変えるかのように声を張るメーテ。
パンと手を打つと、強引に話を再開させる。
「先程も言ったとは思うが【聖属性魔法】という魔法は毛色が違う。
まず、他の魔法と違う一番の特徴が【聖属性魔法】を使用する為に【加護】が必要になるという事だ。
知識を蓄え、厳しい修練を積んだとしても【加護】が無ければ使用出来ないのだから意地が悪い。
そして、この【加護】というヤツなんだが……
先天的に授かっている者もいれば、教会などで祈りを捧げることによって、後天的に授かる者もいる。
かといって、祈りを捧げたからといって必ずしも【加護】を授かる訳ではないのだから、やはり意地が悪い。
【聖属性魔法】を身につけたいと考えるのであれば、生涯を祈りに捧げても【加護】を授からない者もいる。という事を念頭に入れておくべきだろうな。
【加護】が無ければ使用出来ないが、【加護】さえあれば誰でも使用できるようになる。それが【聖属性魔法】というヤツだ。
それでだ。この【聖属性魔法】を身につけることで、何が出来るようになるかというと――
傷や病気といった、身体の異常を治療する所謂【回復魔法】というものが使用できるようになる。
まあ、他の属性でも使用方法によっては【回復魔法】の真似事も出来るが、【聖属性魔法】と比べると、歴然とした差があるという事を覚えておいて欲しい」
僕は成程と頷く。
要するに【聖属性魔法】というのは回復に特化した魔法で、その使い手というのは、医者にあたる存在なのだろう。
そのように考え、一人納得している間にもメーテは話を続ける。
「今までの話で【加護】が必要だというのは分かって貰えたと思う。
しかし、【加護】無くても【聖属性魔法】を使用出来る者が居る。それが素養持ちという存在だ。
要は、【加護】が無くても素養を持って生まれさえすれば【聖属性魔法】を使用出来る訳なんだが……
その中には更に例外――例外中の例外といった存在が居る。
それが、【加護】と【素養】持った者――【祝福者】という存在だ。
私も以前、遭遇したことがあるが、あれは中々に異質だぞ?
普通の人間の身体は、限界以上の力を発揮すると体が悲鳴を上げてしまい、痛みという形で危険であることを教えてくれる。
しかし【祝福者】という存在は並はずれた回復力を持っていてな。
【回復魔法】を継続使用することによって、痛みを強制的に排除し、限界以上の力を発揮するのだから、その力の程は、推して知るべしといったところだろう。
まあ、努力差によって錬度に差が出来る訳なんだが……
それでも、光を纏った剣やら、光の多重障壁やら、【聖属性魔法】特有の攻撃魔法まで自在に扱うのだから実に質が悪い。
それに加え、過去に英雄などと呼ばれていた者たちの多くに【祝福者】が多く見られる事をとっても、【祝福者】は異質だという事が分かって貰えると思う」
メーテの話を聞き。
『まるで物語の主人公のような、とんでもない能力を持っている人も居るんだな~』
などと考えていると――
「先程も言ったが、魔法というものは奥が深い。
確かに【祝福者】という存在は異質だが、過去に英雄と呼ばれた者達の中には、【祝福者】以外の者も数多く存在して居る。
素養の差……というものは確かに存在するし、有無によって辛い思いもするかもしれない。
それでも――努力する事。そして、想像する事を決してやめないで欲しい」
メーテはそのような言葉を口にすると共に、真剣な視線を向けた。
そして、そんな真剣な視線を向けられた僕は、察しが悪いなりに理解する。
残念な事だけど……僕は素養を持ち合せていないのだろう。
だからメーテは、魔法を学ぶ上で高い壁が立ち塞がった時。或いは躓いてしまった時。
その時に自分の力で立ち上がれるよう、こうやって何度も、努力と想像する事を諦めないで欲しいと伝えてくれているのだと思う。
そして、そう理解すると同時に、メーテの気遣いや優しさというものが伝わってきて、思わず頬が緩んでしまう。
だからだろう。
メーテの優しさに応えたい。そのように思うと、自然と返事が大きくなる。
「うん! そようなくてもがんばるよ!」
僕が返事を返すと、それが嬉しかったのだろうか?
メーテは優しく微笑み、そして――
「いや? アルは素養あるぞ」
「へ?」
台無しだった。
なんか色々と台無しだった。
まあ、僕が勝手に都合の良い解釈してたのは否めないが……
会話の流れからそう受け取ったとしても責められないと思う。
そして、何の素養があるのかを聞いてみれば。
「それはまだ、ヒ ミ ツ だ」
そう答えると、ちょっと下手なウィンクまで披露するのだから尚更だ。
その言い方に、少しだけいらっとするものを感じてしまったが、それをグッと堪えると秘密の理由を尋ねる。
すると、教えてくれたのが、子供の内から自分の素養を知ってしまうと、その属性を強く意識してしまい、他の属性が伸び悩んでしまうという事だった。
他の属性の成長を妨げない為にも、ある程度魔法の基礎を覚えた上で、自分の素養を知り、そこから素養と並行して成長させて行くのが効率的に良いようで、伊達や酔狂で「ヒ ミ ツ」なんて言い方をされた訳では無いことに少しだけホッとした。
その後も魔法の授業は続き、ふと周囲を見渡せば、空は茜色に染まり始めていた。
「陽も落ちてきたし今日はここまでだな。
次の授業からは実技も交えていくから覚悟しておくんだぞ?」
どうやら今日の授業はここまでのようで、メーテは紙束をトントンとテーブルで整える。
「はい、めーてせんせーありがとーございました」
「せんせー。くふっ」
「わふっ!」
僕が授業のお礼を伝えると、メーテはニヤニヤとした表情を浮かべ、ウルフはなにやら催促するようにわふっと吠える。
「うるふせんせーもありがとう?」
「ワォーーーン!」
どうやら選んだ言葉は正解だったようで、満足気に吠えるウルフ。
まだ魔法というものを知ったという段階ではあるものの、取り敢えずは僕にも素養がある事が分かった。
これからどのような授業をしていくのかは分からないし、不安が無いといえば嘘になるだろう。
それでも。魔法を学んでいく日々を想像すると自然と胸が高鳴る。それは嘘では無い。
そして、それは僕だけでなく、メーテとウルフも同じような気持ちなのだろう。
玄関へと向かう僕達の足取りは、心なしか、いつもより軽いように感じられた。
――後日談ではあるが。
『素養があるからと胡坐をかかず努力しよう』
という事をメーテは伝えたかったようだ。ご尤もである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます