雨の日

@maisenrin

第1話 雨と水

 雨の音が辺りに響いている。空から無数に降り注ぐ雨粒がコンクリートを叩きつけている様を見つめていた。雨粒が溜まり、水溜まりが出来ていく様を見つめていた。そんな自分を第三者のように見つめていた。

「ねぇ」声をかける。声は、雨の降り注ぐ音で消えてしまうぐらいにか細い声だったが、声は届いていたようだ。傘も差さず雨に打たれている自分が振り返る。「誰、ですか・・・?」雨に打たれながら、雨に打たれる自分の声を聞いていた。

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 グラスに付いた水滴が流れ落ちていく様を見ていた。これは自分によく似ている。食べるだけ食べ、膨張し、肥え太り、最後には流れ落ちていく。何かに引っかかることもなく、意外とあっけなく、簡単に滑り落ちていく。「はぁ・・・。」ふと、ため息をつく。最近の事、いや、もう過去の事だろう。過去になってしまった日々の事を思い出していた。「いつまでそうしてるんだ?」突然、自分に声がかかった。誰か確認しようと思ったものの、顔を上げるような気力は無かったのでそのまま返事をした。「気が済むまで。」声の主は私にも聞こえるように大きくあからさまにため息をつく。「そう言っていつもここに来てるじゃねぇか。」そうだっただろうか。もう、なんだか日付の感覚すら忘れていた。「たとえそうだったとして、あんたに何の関係があるっていうの?」そうだ。誰だかよく知らないし、見てないから分からないけれど、これは自分の心の問題だ。誰かにあれこれ指図されるものではない。声の主は黙ったままだった。いや、もしかしたらもう帰ったのかもしれない。いづれにしても、自分には関係のないことだ。「私は私の事でもう、手一杯なんだから・・・。」だから、自分の事だけ気にしていればいい。自分の言葉で誰かが傷つこうと傷つくまいと、どうだっていい。「まるで、自分は悲劇のヒロインです。とでも言いたげだな、オイ。」まだいたのか。この、人の気持ちが理解出来ない奴は。さっさと帰ればいいと思い黙り込む。「昔と、変わんねぇな・・・。」声の主は一言だけ残し、足音を立てながら去っていく。「昔と、変わらない・・・?」声の主の残していった言葉を思い返す。馬鹿にしているのだろうか?変わっていないわけがない。昔から背も伸び、髪も伸ばし、人付き合いもよくするようになったし、オシャレも人並みにしている。「何が変わらない、だ。」言葉の意味を考えてみたがやはり、声の主は私を馬鹿にしているようだ。ならば、いい。もういい。「今度来ても、絶対に声なんか返してやらない・・・!」そうだ、声など返してやるものか!あのような人間に声を返す必要など、無い。「最低最悪人間だな!まったく。」少しの間、怒りが込み上げてきていたが怒りが冷めた後、再びやってくるのは落胆だ。「はぁ・・・。」再びため息をつき、目を閉じる。こんな気持になっているぐらいなら寝ていたほうがマシだろう。私はゆっくりと迫ってくる眠気に身を任せ、眠りにつく。どうせなら、永遠に覚めないで幸せな夢を見せ続けてくれと願いながら。

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