第32話

1カ月後―

渋川達也監督作品「羅紗の門」の主演女優が工藤あまりに決定した。


他の出演者はまだ決まっていないが、工藤あまりのフルヌードによる体当たりの演技が、国内外から高い注目を集めている。



警視庁刑事部捜査一課の一室で、工藤あまりの映画出演のニュースを見ながら、蜂須賀が感心したように、「女は強いな」と呟く。


城田が、「とにかくらん丸が幸せになってよかったよ」と目を細める。


事件後、工藤あまりは、殺人罪で逮捕された三船ウタの愛犬、らん丸を引き取っていた。

今、ラブとらん丸の兄弟犬は、あまりのマンションで二頭、仲良く暮らしている。


赤間は突然、


「映画なのに、女優さんのハダカが見れるなんて、なんだかすっごくお得だっぺ!」


と言って、スパーンと九宰に頭をはたかれた。



ちなみに事件に関連して、あまりが引き取ったものはまだある。

一つはモモの遺体。

これはあまりの手で丁重に供養され、荼毘にふされたという。


それから、もう一つは、バンダイの手書きの遺書だ。


「死にます。死にます。」


「これは、バンダイの遺書じゃなくて、私あてのメッセージだから、返してほしい」


とあまりは言った。


九宰がその理由を問うと、あまりは頬を染めて


「このセリフは、ベッドでいつもバンダイが私に向かって言っていたの」


と小声で言った。



なんでもラビットの情報によれば、「羅紗の門」であまりが演じる花魁「春日」(おいらん かすが)の、名セリフは「死んじゃう、死んじゃう、死んじゃうーーーーーっ」というものらしい。

これが、台本を読んだあまりが出演を決めた理由だという。



いずれにしても、この秋の新作映画「羅紗の門」は、工藤あまりの魂のこもった熱演で、日本映画に新たな風を巻き起こすだろう。


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食いしん坊、バンダイ殺人事件 真生麻稀哉(シンノウマキヤ) @shinnknow5

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