第29話
しかし、モデルガンから手を離した九宰は言った。
「死ね」
「ほへ?」赤間が目を見開く。
「バン!!」口で九宰がそう言うと、
「ひゃうっ!」と赤間が悲鳴を上げた。
九宰は言った。
「お前はもう死んでいる」
このセリフ、どっかで聞いたことあるようなという全員の感想の中、九宰が続けた。
「即死だ。床に倒れろ」
「はい!」
赤間がリビングの床に倒れこむ。
バンダイの遺体と同じ場所、同じポーズ(仰向けて右手を腹部にのせている状態)だ。
「城田! こっちへこい。」
九宰が城田を呼びつける。
城田は、ラブとらん丸のリードをリビングの椅子にかけ、赤間と九宰のそばに行く。
九宰が言う。
「城田、お前がモモ役をやれ」
「え!」城田がびくりとする。
九宰は片頬で笑っている。
「喜べ、お前の大好きな犬役だ」
「はい!」
城田は床に四つん這いになった。
185㎝の城田犬、テカい。
そこでラビットが、あまりに向き直った。
「ベッドルームの鏡台から押収したあんたの化粧品のボトルに、二頭の犬の歯型と
DNAがついていたよ。
DNAはモモとこのラブだった。
あんた、バスルームで化粧品を使うとき、持ってこさせるように、この二頭を
しこんでいたんだろ?」
あまりは頷いた。
「そうよ。それくらい、簡単にしつけられる。
女優だもの、入浴中のマッサージやパックは欠かせない。
いちいち持って入るのもめんどいし、その日の気分で何を使いたいかも
変わるしね」
「バンダイは、モモのその芸を知って、銃をこの部屋から出すトリックに
使ったんだ。
そして、それに協力したのが、あまり、ウタ、あんたたち二人だ。
まあ、見ててよ」
名指しされたあまりとウタの二人は、わずかに顔をひきつらせた。
九宰が言う。
「城田、赤間にのしかかって、犬のように顔を舐めろ」
「ええっ!!それは…」城田が悲鳴を上げる。
「なぜ、しゃべる? お前はもう犬だ」
「それだけは勘弁してけろー!!」
バンダイ役の赤間が、床でじたばた抵抗した。
「なぜ、しゃべる? なぜ、動く? お前はもう死んでいる」
5分後―
75キロの城田が、赤間の体にのしかかった。
九宰が言う。「舐めろ」
しかし、城田犬は赤間を見つめたまま、動かなかった。
「無理です!!! 」
「舐めろ」
「どうしても舐めれません!」
「何故だ」
「こいつ赤間のくせに、なんかすごくいい匂いするし、
美形すぎて、のしかかってるだけで、体が勝手に女子と錯覚します!!
助けてください!
俺の中のアブナイドーベルマンが目覚めそうです!!!」
赤間が頭をかいた。
「そったらこと言われたら、照れるっぺ」
ラビットが、勘弁してあげなよと九宰をとりなす。
チッと九宰が舌打ちをする。
「仕方ない。舐めるのはふりだけで勘弁してやる。
城田、赤間の胸を両手で強く押せ。
死んで動かないバンダイを揺り起こすような感じでやれ。」
城田は言われた通りにした。前足がわりの両手で必死に押す。
笑いを噛み殺した乱堂の解説が響いた。
「この時に、モモの長い爪で服がバンダイの衣類が破れたんだな」
城田に体重をかけて押された赤間が、もだえる。
「おっふ! そったらことしたら、さっき飲んだコーヒーが出る出る出るっぺ!」
「出せ」九宰が言う。
「やだっぺーーー!」
「なら、これが替わりだ」
次の瞬間、九宰の手で
ビシャッと赤間の顔にクリアコーヒーがかけられた。
ラビットが解説を添えた。
「飲んだ直後に絶命したことと、モモの体重が横隔膜に強くかかったことで、
バンダイの胃の中のクリアコーヒーは、すぐに口から溢れたんだ」
乱堂が、遺体所見との合致に声をあげた。
「なるほど、バンダイの顔を舐めてその肉を食べた犬は、数十時間後に多臓器不全で
死亡したってわけか」
乱堂に、九宰が言い添える。
ちなみに死亡時バンダイの胃の中はほぼ空だった。
おそらく酔って狂言自殺するのは避けたかったんだろう。
あまりの家で出されたワインやオードブルには手をつけなかった。
赤間にのしかかった城田犬も相槌を打つ。
「顔の肉を食べた後から、モモちゃんは唾液の滴下が激しくなった。
そして、このあと、モモちゃんは・・・」
城田はモモになりきって、移動し、バンダイ役の赤間の手にあったモデルガンを口にくわえた。
九宰が頷く。
「そうだ。そのまま、玄関に行け」
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