第25話

「トゥルルルルル」


部屋の静寂を引き裂くように、部屋の中の固定電話が鳴った。


あわてて、佐々木が出ようとする。


が、それより、早く赤間が電話を取った。


「はい、警視庁でず」


警視庁です、じゃねーだろ。

全員が即座にツッこんだ。


「ああ、はい、ええ、宇治川病院(うじがわびょういん)

 はあ、美人淫行課(びじんいんこうか)

 淫行、淫行、、あんた、18歳未満け?

 そったら少年課にまわすますね。

 あれ? 内線ボタンがねえっぺ」


赤間、天然にもほどがある。


「替わります!」


あわてて佐々木が電話をひったくる。


「スピーカーホンにしろ」


九宰に言われて、佐々木はすぐに回線を切り替える。


「すみません。板倉が不在なので、私が対応します。

 えぇと、どちら様ですか?」


情けない佐々木の声に対して、女性の声が流れ出す。


「あの、宇治川病院の事務の宮川(みやがわ)と申します。

 昨日、耳鼻咽喉科(じびいんこうか)で入院予定だった板倉万代(いたくらまよ)

 様がいらっしゃらないので、お電話させていただきました。」


「えっ、入院ですか」


佐々木は、聞いていないという顔で首を振る。


「はい。で、板倉様は今、どちらにいらっしゃいますか?」


病院は病院でも、バンダイは遺体になって東京都監察医務院にいる。


「入院期間と入院理由を聞け」と九宰が言う。


佐々木が言われた通りに、尋ねる。

ご家族の方ですよねと宮川が言うので、佐々木は、身元引受人です、と答える。


わかりましたと言って、宮川が答えてくれた。


「板倉様は3週間の入院予定で、花粉症のレーザー手術の予約を受けております」


「そうですか、ありがとうございます。

 でも入院はキャンセルします。すみません、行けない事情があります」


佐々木がそう言って電話を切ろうとすると、赤間がハッと、何か思いついたような顔で、


「解剖所見を見ますた! 病院に聞きたいことがあるます!」


と言って、受話器を奪った。


「バンダイは、2年前にも蓄膿症手術受けてまずよね?」


「はい」


「そのときに、何か変わったことはあるますたか?」


「特には・・・」


「思い出してください!」


「私は受付なので、そう言われても。


言いにくいですが、板倉様が看護婦にセクハラして怒られていたくらいしか…」


「なるほどでず」と頷く赤間に


「こんなのいつものことです」と佐々木が言う。


「本当に他には何もないでずか?」


「そう言われましても・・・」


答える受付嬢、宮川の声は、明らかに湿っている。

知らぬうちに赤間のイケボに酔っている!


「あ…」


宮川が何かを思い出したように声を漏らした。


「退院日に、切除した自分の蓄膿をクーラーボックスに入れてお持ち帰りして

 いました」


その言葉に佐々木が、手をあげて答える。


「ブログを上げるネタのために持ち帰ったんですよ」


「あの…もう、いいでしょうか」


宮川の今にも腰が砕けそうな湿った声が受話器を伝った。


「はい! ありがとうございますた!」


赤間が電話を切った。



その横でラビットが、九宰に囁く。


「宇治川病院っていえば、ゴージャスな個室を完備してて、芸能人の出産や手術が

 多い病院だよ」


そうか、と九宰が頷く。


「入院予定だったなら、自殺の線は完全に消えたな」


「そうだね。ところで、九ちゃん」


「なんだ?」


「明日の芸能トップニュースが決まったよ」


そのセリフに、フッと九宰が笑った。


このセリフこそ、ラビットが事件の謎を解き明かした時の決めゼリフだった。



九宰は、パンと手を叩いた。


「おい、赤間、城田、蜂須賀!、

 お前たちの集めた証拠、見た物をすべて残らずラビットに報告しろ」



「ピンポーン」


その時、チャイムが鳴った。


誰だ? 部屋全体を走った衝撃に、ラビットが頬をゆるめて言った。



「僕が頼んで連れてきてもらったんだ、この事件を解いてくれる、重要参考犬さ」


城田が走って、ドアを開ける。

そこには、真っ黒でつややかな犬、フラットコーデットリバーがいた。

ウタのそばにいる「らん丸」とどこからどう見てもそっくりな。


玄関の犬はウォンと吠えて、ウタに駆け寄ってしっぽを振った。

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