第22話
遡(さかのぼ)ること30分前、あまりのマンションで、城田は全員を前にして言った。
「モモちゃんは、バンダイの犬ではありません。
あまりさん!あなたの犬です。そうですね!!」
城田に指差されたあまりが、きょとんとして頷く。
「そうよ、別に隠してなかったけど」
城田の方が動揺する。
「え、なんで驚かないんですか?
あなた、モモちゃんの飼い主だって今、カミングアウトしましたよね」
「正確には元飼い主よ。三か月前にモモをバンダイに譲渡したから」
「そんなの聞いてないですよ!!」
城田は全力で反論した。
「だから、俺が推理したんですよ。俺が!
この部屋に2匹分の犬の気配を感じたんです!
なにより、バンダイの家には、トイレをはじめ、犬用品がほとんどなかった。
バンダイの他に飼い主がいるんだと考えました。
それは、モモちゃんの死にあんなに動揺した、あまりさん、あなたしか、
いない!」
あまりは呆れたように答える。
「だから、さっきからそうだって言ってるじゃない。
そんなの警察なんだから調べればすぐわかるでしょ?
バカみたい。
モモはもともと私の犬よ。
でもモモをバンダイにあげたあとは、新しくラブを飼い始めたから、
今は、モモの飼い主いじゃないわ」
モモという言葉に、目を細めて城田が言う。
「毛を見つけました。ラブちゃんは
フラットコーデットレトリバーですね?」
「そうよ。やだ、言ってなかったっけ」
あまりが、そう言う。
「初耳です!」
城田がそう言った時、九宰が城田の肩を叩き、衝撃の事実を伝えた。
「俺とラビットは、あまりがこの部屋に最初に来た時に、モモは、もともとあまりの
飼い犬なんじゃないかと目星をつけていた。
すでに色々調べもついている」
「え!」
「モモは成犬で、よくしつけられていた。
にもかかわらず、爪が切られていなかった。
それに、中古のエアコンを30万でオークションに出品するほど金に困ったヤツが、
食費もかかる高級な大型犬をわざわざ購入するとは思えん」
九宰の言葉に、がっくりと膝をつき、うぉおおーと吠えんばかりの
城田に、ラビットが謝った。
「ごめんね、城田君。
早く教えてあげればよかったね」
いえ、いえ、俺なんて、(ぐっすん。)
と犬好きの風上にもおけないと、自分を責める城田をしり目にラビットは、
アイパッドを開くとあまりにつきつけた。
「ねえ、バンダイがモモを引き取った理由はこれでしょ?」
アイパッドには芸能人用のオークションサイトが立ち上がっている。
出品者名は板倉バンダイになっている。
商品名は「犬出し ☆ 女優:工藤あまりの愛犬ゴールデンレトリバー(♀)」とある。
商品画像には、あまりがマンションの部屋でモモを抱いてうっとりしているプライベートショットがつけられている。
商品名を活舌よく読み上げたラビットに赤間が
「獣姦AVのタイトルけ?」
と正直に言う。
このオークション情報もバンダイ流のふざけたギャグなのだろう。
落札価格は驚くべきことに200万という高値がついていたが、入札者も50人近くいて、さらに更新されていた。
しかし、オークションの最終日は2か月前の日付だ。とっくに過ぎている。
「どういうことなんですか?
モモちゃんは、バンダイのマンションにいた?落札されていない・・・」
城田の問いに、
「どーせバンダイの気が変わったんだろ?
このモモのオークションは途中で取り下げられている」
ラビットが代わりに答えた。
はーっとため息をついて、あまりは言った。
「あの人ね、自分がモモをしばらく飼って、ハクをつけたら、さらに値段が
上がるんじゃないかって言うのよ。
でもモモがバンダイに慣れなくて、ご飯を食べないっていうから、とりあえず
ラブのエサをわけてあげて、バンダイにはいろいろ飼い方やしつけの仕方も
教えたわ」
「ラブは子犬ですか?」
城田の言葉に、あまりが頷く。
九宰があきれるぜと言わんばかりの冷たい声で続けた。
「よく愛犬のモモを、バンダイのようなヤツに差し出したな」
「仕方ないじゃない。好きなんだから。
バンダイね、FXで儲かったら、あまりには3億円、やるからなって
しょっちゅう言ってた」
「一体どこがいいんだ、あんな微妙クラスの芸人タレントの」
江藤社長も呆れたように言う。確かに売れっ子女優に、グルメリポーターのバンダイは釣り合わない。
あまりも言う。
「いいところ、、、ないわね。全然」
浮き沈みの激しい芸能界だけに、男女の仲は、そういうことでは片づけられないものらしい。
「別れたいのにね。
でもモモがバンダイのそばにいると思うと、心配で別れられなくて。
そういうこともバンダイにはお見通しで。
ちょっと一口、いいですかあ、どころじゃないわよね。
バンダイに骨までしゃぶられてる感覚だった」
突如として始まった女優の愛と苦悩の独白モード。
昼ドラ、第二部のスタートだ。
それを打ち消すように
「それは殺人の動機の告白と取っていいのか」
と九宰が言う。
その瞬間、赤間がさっと手をあげる。
「九宰さん! あのあのあの俺、今、真相がわかるますた!」
えっと城田が飛びあがる。
「待ってください! 俺の推理を聞いてくれないでしょうか」
城田が言うと、九宰はラビットに向かって、ニヤリと笑った。
「蜂須賀も事件の謎が解けたと、連絡してきた。
全員の推理を聞こう。
ただし、続きはバンダイのマンションでだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます