第18話

バンダイのマンションの玄関で這(は)いつくばって、ASLライトを当てていた蜂須賀は、シューズラックの下から、7センチほどのバネを見つけた。


何かの部品なのか、ひどく固いバネだ。


玄関に集中していたモモの唾液痕と何か関係あるのか―。

バネだから指紋の採取は難しい。


「なあ、城田、これなにか、わかるか?」


ピンセットでつまみあげたバネを証拠袋に入れて、蜂須賀はリビングにいる城田に声をかけた。


その城田は、リビングをくまなく捜索している。

その目がひどく厳しい。


「おい、どうしたんだよ」


蜂須賀が声をかけると、固い声が返ってきた。


「モモちゃんの血統書がどうしても見つからない」


「それ、そんなに大事か?」


「大事だ。」城田はきっぱり言った。


「犬用の爪切りも、犬用のシャンプーも、ブラシも、のみとり首輪も、

 骨ガムもない、犬用トイレもない」


まさか、城田は、飼い主の風上にもおけないと、バンダイに腹を立てているのか。


「そもそもあの、ドッグフードからして、変だった」


蜂須賀にはさっぱりわからない。


「何が、変なんだ? 毒は入ってなかったと乱堂先生が言ってたぜ」


「粒が小さい、栄養価が高い、子犬用なんだ。」


「たかが、ドッグフードだろ、そんなに違うもんなのか?」


「違う」、城田はきっぱり言った。


「だから俺にはわかった。」


「何がだよ」


「モモちゃんは、バンダイの飼い犬じゃないってことが」


「あ? 何言ってんだ?」


「飼い犬じゃなかったんだ。

 だから、与えられたエサも食べずに、すぐに死んだバンダイの顔の肉を

 食べたんだろう」


自信たっぷりにそう言う城田は、刑事ドラマに出てくる捜査官のようだ。

いや、実際に警察官だ、ドラマの刑事よりルックスがやや微妙なだけで。


「謎はすべて解けた。飼い主でないなら、モモちゃんにとってバンダイは敵だ。

 きっと、モモちゃんはバンダイに誘拐されたんだ。

 その本当の飼い主にバンダイは殺されたんだ。

 どうやって殺されたかも、俺にはもうわかった!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る