第14話
蜂須賀は、ゴーグルを嵌(は)め、バンダイの部屋で青い鑑識服で、証拠検出用のライトALS(特殊工学機器)手に、床にはいつくばっていた。
ALSは何を探すかによって、光の色を調節する。
赤、オレンジ、黄色などのカラーゴーグルまたはカラーフィルターと組み合わせて、使用するのだ。
光の違いは波長の違いだ。
多くの物質は特定の波長で発光する、その性質を利用したもので、鑑識には欠かせないレーザー機器だ。
現場では、光源を変えながら慎重に探索をする。
ある波長(色)では見えなかったものが、波長を少し変えると浮かび上がることもあるからだ。
しかし、マンション内にある犬の唾液痕をすべて採取したいと、相談した乱堂の答えは、つれないものだった。
「そりゃブルーライトを当てるしかないが、無理だ。
死ぬ前の錯乱で、犬はいろんなとこを歩き回っている。
唾液痕もその足で踏みにじっているさ。
いいか、遺体発見はバンダイが死んで、16時間後だぞ。
甲子園の夏の大会のグラウンド並みに、荒らされてるだろう」
元高校球児の蜂須賀は、あまりにもわかりやすい乱堂の例えに
苦笑したものだ。
蜂須賀は、電灯を消した室内で、紫がかった藍色のALSライトを手にしていた。
この色は染料や染み、体液(血液、精液、汗)や尿に反応する。
まず、バンダイが倒れていたリビングの床に当てる。
そこにはおびただしい量の唾液が反応していた。
バンダイの遺体の頭があった部分、そのまわりをぐるりと囲むように唾液のしみが広がっている。
滴下痕(てきかこん)、それに舌で舐め広げた痕のようだ。
こういう時に、犬好きの城田がいりゃな、と蜂須賀は思う。
これを見ると、どうやら犬はバンダイの顔を食いちぎったあと、周りの床に散った肉片を舌で丹念にすくって食べたらしい。
さて、飼い主を食ったあと、犬はどこに行くか・・・、
バンダイの顔周りの唾液痕に、蜂須賀は丹念にライトを当てて探す。
顔周りで塗り広げたような唾液痕は、首の近くから滴下痕となり、そのままバンダイのカラダのそばにまで落ちて続いた。
この唾液痕は、何かがおかしい。
鑑識員としてのカンが、何かを訴えている。
だが、俺の目じゃダメだ―。
蜂須賀は迷わなかった。まっすぐに最短で最善を選ぶ。
携帯電話を取り出して、城田に電話する。
「城田、頼む。俺を助けると思って、今すぐ現場に来てほしい」
蜂須賀がそう言った瞬間、城田の声が鼓膜をうった。
「助かったよ!
蜂須賀、今行く、すぐ行く、5分で行く!」
それだけで、通話はプツリと切れた。
蜂須賀は何が何だかわからない。
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