第百四十三章 橋元組
城下町は縄張りがきまって屋敷を建設するつち音があちこちから聞こえてくる。建物が完成するまで暫く移住はできない。積極的な投資が行われるので、越後の国ぜんたいとして活気がよみがえってきた。他国からの人や物資の往来が活発になってきている。
胎内川改修工事は測量が終わり設計に入っている。半月前ほどから掘削した土砂を運搬する右岸と左岸の二箇所に仮橋を架設すべく取りかかっていた。左岸の橋は最終的に堤防ができて不要となる。右岸側は、完成した後の川は用悪水路用に使われる。川幅は激減するので橋は中央部分だけ残ればいい。
土砂運搬の効率を図るため運搬用の馬車は互いにすれ違う幅が必要になる。日本軍が終戦までつかった一頭の馬が曳く荷馬車の基準がある。荷台の長さが一メートル八十センチ、幅が九十センチ、車輪の直径が一メートル二十センチ、空荷で百五十キロの重さがある。積載重量こみで三百七十キロとしているので、積める積載量は二百二十キロほどになる。
一般的な地山の単位重量を 一立米あたり 1.7 トンとする。掘り起こすと空隙率があがって三割ほど体積が増える。すると掘削後の土の重量は一立米あたり 1.3 トンになる。積載量が二百二十キロなので、0.17 立米の土を積載できる荷台を作れば良い。
胎内川が分流した先の川幅が八十メートルほどあっても、本流部分は二十メートルもない。深さは一メートル五十から二メートル程度である。残りは水深があさく澱んで湛水している。
支持杭は丸太杭とする。樹種はスギやカラマツの針葉樹とする。支持地層までの深さなど杭を打設しなければ分からない。本流部分は長さを二十メートル、他は十五
メートルと見込んで製作する。皮をはぎ先端をけずって尖らせる。頭は面取りして打撃で割れないようにする。
木は常時水に浸かっていたり地下水位が高いところは腐らない。濡れたり乾燥したりする箇所に木材腐朽菌が発生して、内部へ繁殖して腐らせてゆく。
橋脚の間隔は十メートルとする。橋の幅を五メートルに設定したので、橋脚部分は一メートル間隔に五本うちこむ。橋の全長が八十メートルなので九列・四十五本を調達した。
打ちこむ方法は三脚をくみ頭に滑車をつけてロープで引っ張りあげ、重りを落下させて打設するしか方法がない。慣れぬ者が危険なしごとに手をだして死傷者でも出たら大事になる。プロの技能集団に発注するか技術者を雇い入れるとの結論になった。
幸いといってなんだが、直江津の中心街をはしる関川に架かる
現地を視察し工事費の概算を見積もってくれた。ただ胎内川の工事を控えているなか、二つの工事を平行して行うのは財政的にきつい。とくに新造銭でなく従来の銭貨で支払いを要求されて交渉が頓挫してしまった。このまま帰すわけにゆかない。
こんな
九郎殿が中心となって総合商社をたちあげる構想はいぜんから議論している。胎内川改修工事の人夫をあつめるための組織はすでに立ち上げ、いまフル回転で動いている。募集だけでなく労務管理をてがけ定着率を高めるくふうをしている。
すでに道路建設にくわしい者や港の造成に精通した技能者にわたりをつけていると明かしてくれた。さらに橋の専門家がグループに入ると願ったり叶ったりである。説得は九郎殿に一任することとなった。事業の継続的な発注による長期経営の見通し、経営の独立性の担保、領国の拡大による業務の発展など利をといて口説きおとすから安心してくれと別れた。
さすがと言うべきか九郎殿は説き伏せて、橋元組を立ち上げた。職人なので苗字がなかったが、組織の名前は好きに名乗れる。安直さを感じるが本人が納得していれば端でとやかく言うことでない。
軍師殿が現地で親方と完成後の河川断面を説明している。上端の河川幅は
四十代はじめの橋元組長は、連れてきた三人の組員と、垂木の水杭と貫とよぶ薄くて長い板をつかって丁張りをかけ始めた。堤防が完成した姿を現場で目に見える形で確かめる作業である。堤防のたかさ、法面の頂点である
軍師殿は測量で手許につかった隊員から十名を選抜して現場に貼り付かしている。率先して作業を手伝い、技術を盗めと厳命した。お前たちは今後、橋の工事に関する専門家として独り立ちしてもらいたい。橋の設計と工事費の積算そして工事現場の監督と検査など第一線で活躍する人材として育ってほしいと訓示した。
かくして本工事の開始まえに仮設工事からプロジェクトが動き出した。
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