第3話冒険者試験1

 冒険者ギルドは六階建で最上階が大きなドームの形をしているのが特徴だ。一階は飲食が出来るフードコートを含め、A級までの依頼を受けられる掲示板と受付の窓口がある。

 二階はS級から最上位ランクのSSS級まで依頼を受ける事が可能だが、二階専用の階段を上がり冒険者カードを提示しないと中に入る事は出来ない。

 三階は情報を取り扱う情報屋とか武器、防具、魔道具などを販売している冒険者には欠かせにスペースとなっている。四と五階はギルド職員の仕事場で冒険者が気にする必要はないので飛ばし、最後の六階は特殊な結界が貼られた冒険者昇格試験場となっておりここでは最初のC級からS級までの昇格試験を受けられる。世界各地にある冒険者ギルドは大体同じような構図で出来ているが、街の規模や人口によっての差は存在する。


「少し休むとしましょ。何だか疲れました」


 フードコートのラウンジに腰を下ろし、一息つくルシウスにノアがずっと疑問に思っていた事を口に出す。


「ところで兄様。何故冒険者ギルドへ?」

「いい質問ですよ、ノア。冒険者として活躍し影響力を得られれば、内側から崩す際に役に立つと思っています」

「さすが兄様!頭いいね!」


 頭より口が先に動くレオとは違い、ノアの頷ける話ではあるけど完全には納得出来ないという表情に、ルシウスが話を続ける。


「気持ちは理解出来ますよ。私も実際そのような使い方が出来るのか確信は持てていません。しかし、使える手札は一枚でも多い方が良くありませんか?」

「確かに…そこまでは考えが及びませんでした」

「それに先日の事で一つ気付いた事があります」


 ルシウスは鬼童丸と兵士達の一戦を思い出し、二人にもその時の感想を聞いて見る。


「数では優位に立っていたのに力の面では差があり過ぎた気がいたします。あとは…申し訳ございません…他に思い浮かぶところはありません…」

「良いでしょう。レオはどう思いましたか?」

「俺も殺したかった。でも、メフィ…兄様が許可してくれなかったからちょっぴり残念だった」


 ノアの感想は聞きたかった内容とほぼ一致している。だから正解と言ってもいいが、レオは主観的過ぎる本当の感想に過ぎない。


「ノアの言った通り数は何十倍も多かったですが純粋な力では相手になりませんでした。二人とも、後半を思い出してください。敵わないと知るや、数の優位など関係なく逃げ出しましたよね?」

「そういえば、そうだったね!」

「私はその一戦でとても大事な事を学びました。力の関係は両者ともある程度平等でないと遊びとして面白みに欠けると。人間にどれ程の強者がいるかはまだわかりません。それを知るためには戦うことを業とするで冒険者を通じて学んで行くのも悪くないでしょ」


 ルシウスは長い間隔離された空間にいたため知らない事が多すぎる。情報や知識を増やす事から始め、世界に慣れるリハビリが必要だ。


「それでは冒険者資格を習得する前に装備の点検でも受けましょうか。我々は装備を特に気にする必要はないと思いますが、見る目のある人間がいたら恥をかくことになりかねませんからね」


 三人が身につけている装備は昔、ルシウスに嫌の経験をさせた人物との戦闘で意図せず入手したものだ。

 気が遠くなる程の間、手入れもせずに放置していたことから状態が良いはずはない。それに、装備の中に金が入っている袋もあったため点検の費用も一応持っている。

 ルシウス達はギルド会館に入り二階に続くことなく三階に繋がる階段を上がると鍛冶屋をさがす。


「いらっしゃい!」


 適当な鍛冶屋に入ると気さくに挨拶する店主に要件を伝える。


「装備の点検をお願いしたいのですが」

「いいぜ。ほら、見せてみろ」


 まずは、レオが背負っていた漆黒の大きな大剣を手が怪我しないよう手袋をはめた店主に手渡す。


「これ…っ」


 店主は自分より筋肉がついて無さそうなレオが、軽々しく渡した大剣を一秒も持つ事が出来ず、地面に大きな金属音を響かせ落としてしまった。


「すまねぇ!なんじゃこの大剣は?鍛冶歴二十五年。今まで色んな武器を扱って来たが、このサイズでここまで重いのは初めてだよ」


 武器を落とした事に申し訳なさそうな表情を浮かべながらも興味深いという表情もしていた。


「おっさん。運んでやろうか?」

「あ、ああ…こちらまで頼むよ」


 店内の一番奥側の鉄の扉を開けると熱気が押し寄せてきた。そこには煮えたぎるマグマのようになった鉄が、かまどの上でブクブクと泡を立てている。


「熱いだろう?ははっ悪いね。店のテーブルじゃ、大剣の重さに耐えられそうになかったからね。それにしてもあんちゃん、見た目よりずっと力持ちだな?ふっはっはっは!」

「ええ、弟は故郷で一番の力持ちだったわ」

「そうだっけ?」


 大剣の重さを気にしたことは一度もなかったが、普通の人間が持つには重過ぎると判断したノアがフォローを入れる。


「お客さん達、兄弟か?」

「はい。私が長男で彼女二番目、彼は末っ子です」

「そうか!兄弟はいいよな。俺も七人兄弟でよ、親が共働きだったから一番上の姉貴に育てられたようなもんだ。いっけね、何だか姉貴に会いたくなっちまったよ!ははははっ!」


 目的とは関係ない話題に一人で盛り上がっている鍛冶屋のオヤジを急かし武器に集中させる。

 皮製のエプロンのポケットからルーペのような物を取り出し、じっくりと大剣の刃の部分や表面を観察する。

 鍛冶屋のオヤジは観察している間ずっと奇妙な声を上げながら苦しんでいる様子だったが、結論が出ないのかお手上げのポーズを取る。


「この大剣は俺を二度も驚かせやがるな、まったくよ!」

「何か問題でもありましたか?」

「いやーそれがよ。最初に見たときは表面の損傷が激しいのかなと思ったが、よく見ると全体的に表面が鋭く粗い!俺には込んだ手の込んだ武器はつくれねぇ」

「どういうことですか?」

「大剣本来の攻撃力と表面にも数え切れない程の小さい剣がついている武器と思えばいいかな?ただの剣で斬られるより、傷口やもっと奥の肉もえぐり取って行くから攻撃力が段違いだ。結論をいうと修理は必要なし!素晴らしい武器だ、はっはっ!」


 鎧も異常は見つからず、ローブは専門外ということで点検はしなくても良いという方向で結論づけた。

 鍛冶屋に来たついでに武器を持っていなかったルシウスはスタッフを、ノアはワンドをそれぞれ購入した。

 支払いは持っている金貨を使用する予定だが、昔の金貨とは言えないため遠い国の金貨とだけ伝え、偽金貨を見分ける鑑定機に掛けさせる。鑑定の結果、形が違うだけで今の金貨と差はないということでそれで代金を支払い店を後にした。


「人が多いですね…いつ出番が来るかはわかりませんが、待つとしましょ」

「はい…冒険者とはかなり大変かも知れません」


 一階では仕事に出かけようとする冒険者で、受付カウンターは賑わっていた。

 勝手を知らない三人がただ待っていると、職人の一人が最初から見ていたのか番号札の存在を教えてくれた。

 教えてもらった通り中央にある番号札機の中から一枚引くと、自分の番号と待っているの人数まで書いている事に地味に驚きを覚える。


「ふむ…これはどういう仕組みなんでしょ?人間は面白い物を作る」


 自分の番号が点灯したカウンターに行くと笑顔の職人が出迎えてくれた。


「今日はどんなご用件でしょうか?」

「冒険者の試験を受けたいのですが」

「その件でしたらこのカードに名前を記入した後、それを持って六階の受付に行ってください。そこでカード用紙の代金と試験料を支払ってください」

「なるほど、ありがとう」


 言われた通り三人はギルドの支部名が書かれている白いカードの名前の欄に自分たちの名前を記入して六階に向かう。

 ミスをしてないかレオのものだけ確認して見たところ案の定、本名を書いていたのでそれを書き直した後受付嬢にカードと代金を支払う。


「扉の向こうが試験会場となります。また、試験内容は階級に合わせた内容にまります。試験を始める前に必ずカードを試験管に提出してください」


 試験会場は闘技場のような作りで、狭いが観覧席には八組程待機している冒険者が戦っている冒険者にエールを送っていた。


「あんたら何級だ?俺らは今日A級に挑戦する」

「くぅぅ!緊張するぜ!」

「そうですか。まだ冒険者にもなれてない私が言うのもなんですが、頑張ってください」


 ルシウス達が観戦する場所から一番近くにいた冒険者に声をかけられたが、見ている限り緊張する程強そうな敵には見えない。


「シールドバッシュ!」


 戦っていた冒険者の前衛役が技名を唱えると、オーラが盾に集まりに倍以上の大きさに膨れ上がる。

 そのオーラはジャンプし飛びかかる魔物に飛んで行き弾き飛ばす。


「今だ、ハーバー!エンチャントを頼む!」

「わかった!マイト!ウィンドウォーカー!アーキューメント!」


 体勢を崩し魔物に前衛役の後ろで隙を伺っていた近接攻撃役と魔法攻撃役が強化魔法をもらいトドメを刺しにかかる。


「トドメだぁああ!アッパースラッシュ!」


 最初に近接攻撃役がオーラを纏った剣で魔物を切りつける。そして、すぐさま距離を取り合図を送る。


「やっちまえーーー!!」

「我が美しき燃え盛る炎で黒焦げとなるがよい!フレイムストライク!」


 二人の渾身の一撃を受けた獣の姿をした人型の魔物ジラットは胴体を切り裂かれ、炎に炙られて動かなかくなった。勝利を確信した四人は強敵を倒したという達成感と激しい戦闘の疲れでその場に倒れ込みガッツポーズを取る。


「さってーとっ!次は俺たち番だ。先輩の勇姿をその目によく刻んでおけよ!」














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