風呂の後の
「……で、ここにきた、と」
「ようやく分かってくれた」
「ようやくって何だよ。一度にこんな色濃い話されたら俺の頭のキャパシティ、どう考えても足りないよ」
「それじゃあメモリ増設してよ」
「死んで出直してこいってこと!?」
「うそうそ、冗談だよ」
風呂上がり、俺はハルカから、今の状況やフェティスのこと、契約について説明を受けていた。
先ずは、今の状況について。
「それじゃあ、僕はこのままいつも通りの生活を続けてればいいんだな?」
「勿論。というか、変な動きをすると目をつけられるよ?あの『グランマ』に」
「…それも、そうだな」
グランマとは、俺たち「コクトク」が弁護士ならば、奴らは検察の様なもの。要するに、僕らからすれば敵対組織である。
最近の政権交代により、表には出ていないがグランマとの繋がりが深い人物が5人も閣僚入りしてしまったお陰で、今の政治的権威はほぼグランマに取られてしまっているといっても過言ではない。
「あーでも、今後いつ晴也が襲ってくるか、分からないぞ?」
「それはわたしがいるから安心して。側に居る限り、君には指一本触れさせないと誓うわ」
「……心強い」
更にハルカ曰く、こちらの動きは敵方のスパイの手によってだいぶ漏れていて、そのスパイがなんと晴也だと言う。しかし、俺はその事を既に知っていて、尚且つ自分の持つ情報と遜色ない事に安心感を覚える。
(あの時書類に目を通しておいて、正解だったかもな)
実は、俺はコクトクが開示してくれた情報とは別に、機密事項の書類もいくつか目を通していたのだ。実際は、ハルカが机の上に起き忘れていたのをたまたま見れただけなのだが。
しかしその中には、ハルカやその上の上層部しか知らない、もしかしたら上層部すら知らない極秘情報が、所狭しとファイリングされていた。その中には、グランマについての記述もあった。
そもそも、俺に資料を全て読ませた原因は、数ページに散らばっていた『宇治晴也』の文字だった。
奴とグランマの関係から、グランマの背後関係まで、一体どうやって調べたのか、普通の人は知り得ない個人情報が事細かに記載されていたのだ。
「でも、俺がこうやって現状を維持していても、敵は待ってくれない。今俺が置かれている所は、ただ回復を待つだけで勝てる様な、脳無しでも出来るゲームでは無いだろ?」
「そうではあるけど、ここは花織が帰ってくるのを待つべきよ。もっとも、貴方一人でグランマやフェティスの軍団を相手にして、生きて帰ってこれるならの話だけど」
「………」
「戦力が足りない以上、こちらはまともに動くことは叶わない。それは宗一も解ってるはず」
「でも……」
「宗一、まだ分からない?」
「っ………」
こんな自分でも少しなら出来る、などという浅はかな俺の考えを、ハルカは一言で押し潰した。
その言葉に込められた想いは、冷静さを失った俺から力を奪い去るのには十分過ぎる凄みを持っていた。
「…すまん」
「解ったのなら良し」
我に帰った俺を見て、安心したのか柔和な笑みを浮かべる彼女からは、聖母の様なオーラと、どこか懐かしい感じがした。
「それじゃ、今日は色々あったし、明日のためにも寝よっか」
「おう、そう………だな?」
そういうなり、彼女はその場で光り出した。……は?
「え、ちょっと待って、ハルカの体が光って!?どうなって!?」
「どうなってって、着替えてるだけなんだけど?」
「いや着替えてる様には一ミリも見えないんですが!?」
「うるさいわよ、騒ぐとあなたの家族に怪しまれるわよ?」
「残念でした!今日はこの家僕一人でーす!?どれだけ何しても問題ないんだぞっ!?」
と、俺が高らかに宣言した瞬間、ピタッと張り付いた様にハルカの動きが止まる。
そして、彼女を包み込んでいた光が消えて、そこから現れたのは、薄ピンクのパジャマだった。
「……」
「……」
そして、そのままお互いに押し黙ってしまう。
(うわぁ、よく考えたら女の子の前、夜、二人きりであのセリフ……)
完全にやっちまった。
「そ、その……、ごめん。取り敢えず、もう寝よっか?」
「ッ!!??ちょっと!?いつまで変態なのよ!?」
「え?…………っあ」
何だろう。もう俺が何を言っても悪い方にしか進まない予感がしてきた。
「す、すまん、その、誤解だ!俺は寝るから、おやすみっ!!」
「え、あっ、ちょっと!?」
俺はそれだけ言い残すと、足早に自分の部屋を去ったのであった。
〜〜〜〜
(はぁ……。これからどうしたものか)
リビングのソファーに寝転がりながら、俺は静かに溜息をついた。
グランマに気をつけろ。フェティスに気をつけろ。じゃあどうすりゃいい?気をつけるって、一体どのようにすればいい?そんな、ぐちゃぐちゃな思考が、俺の頭を濁流となって流れていく。
(もしかしたら、俺明日死んじゃうかもしれないんだよな)
交通事故や通り魔。明日以降俺の脅威になる物は、そんな生ぬるいものなんかじゃない。
捕まったら最期、その瞬間、僅かでも生き延びれる可能性は、無くなる。
(でも、ハルカが俺の事を守ってくれるらしいけど……)
正直、女の子に守ってもらうなんて……という気持ちは微塵もない。俺は、強い奴に対抗できる奴に守ってもらえるんだったら、正直誰でも良かった。だって、怖いから。
でも、守ってくれるのがハルカ、というだけで、謎に安心できるこの感覚は、一体何なのだろう……。
そこまで考えて、俺はソファーの上で深い睡魔に襲われた。
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