お風呂


………なんでこんな事になってしまったのだろう?

俺は、いつどこで選択を誤ったというのか。

正直、五体満足でピンピンしてる事自体が奇跡なのかもしれないが、いやだとしても、だ。


「……なんでお前がこんな所に!?」

「お前じゃなくてハルカだよ」

「じゃあハルカ。なんで……」

「?」


(なんで同じ風呂に入ってるんだ……!)


……そう思うも叫べない俺。なんでこんな事になったのだろうか。

事は、数分前に遡る――――





〜〜〜



「……ただいま」

俺は、閑散とした家に向かって、一人言をいつもの様に吐いた。


(そういや、今日も出張だっけ。社畜かよ)

俺の両親は俺が中学の時から共働きだ。最近は、もう顔すら見ていない。どこにいるのかはおろか、何の仕事をしているのかすら知らないのだから、相当だと思う。


もうかれこれ十年近くほぼ一人暮らしの様な生活を送っているせいか、もう家事はほぼ完璧。相手が居ないから本や漫画を読み耽り、ゲームもやるのは専らFPSばかり。

そんな俺は、今日も作業の様に家事をこなしていく。


まずは夕飯だ。


学校から帰りがてらスーパーで買って来た食材を袋から出して、包丁で素早く切る。人参は銀杏、インゲンは筋を取り、半分に切る。レタスは千切ってそのまま皿に乗せておく。

今日特売だった卵をといて、そこに牛乳と胡椒を少々入れたら、和風だしの元を投入。

更に鶏の胸肉を一口大より少し大きめに切り、置いておく。


ここまでは下準備が済んだら、次は味噌汁の用意。

予め出汁パックを入れて作っただし汁に、人参とゴボウのささがきを入れて、5分程度火にかける。

人参達が少し柔らかくなったタイミングで、里芋、予め湯がいておいたコマ切れの豚肉を投入し、火を消して味噌を溶かす。これで豚汁の完成。


そしたらフライパンに油を敷き、人参、鶏の胸肉、インゲンの順に入れ、火が通ったら卵を投入する。

固まらない内に火を消して、後は余熱で卵をお好みの具合に調整して、和風卵とじの完成。


サラダは、レタス、豚汁の豚肉の残り、もやしにごまドレッシングをかけて、豚しゃぶサラダ。


ここまで手早く終えた俺は、一人寂しく夕飯を食べながら、テレビをつけた。

しかし面白い番組は特になく、今日の戦闘で精神的に疲労していた俺は、夕飯を食べ終えると今日はもうお風呂に入って寝ることに決めた。


そして風呂が沸くのを待たずして、体と頭をささっと洗い、お風呂にドボン、と浸かる。

……ああ、生き返るぅ〜。全身の力が、毒気を抜かれたようにスーッと抜けていく。


「お湯加減はどう?」

「ああ、極楽極楽。疲れが一気に吹き飛ぶな〜……」

「そう、良かった。じゃあ、私も入る!」

「おー……う!?」


え?女の子の声!?だよな今の!!

じゃあ私も入るって言ったよね!?え、ちょっと待ってそれ以前に誰なのというか家には鍵してるし窓も閉まってるからどうやって中に入っt


「おじゃま〜っ!」

「うわわわあああぁぁっ!?」


ガラァッ、と扉を開け放って、一人の女の子が真っ裸で入って……ちょっ!?はだか!!??


膨らみかけの張りのある双丘、艶やかで無駄なものが一切ない下腹、そしてその形はさながら桃のような……って、何をじっくり観察してるんだ俺!?今はそれどころじゃないだろ!?


「それじゃあ早速湯船に〜、どぼーん!」

「ぶっふぉ!……ちょっと!?かけ湯もせずに入るなんて……じゃなくて!」

「?」

「はてな?じゃない!なぜ裸でこの家のどこから入って来たんだ!?」

「……うーんと、何言ってるのか分からない、かな」


俺は、色々パニックになって、自分でも訳の分からない言葉を口走っていた。でも仕方ないね、俺こういうのとは無縁だったから。


取り敢えず、深呼吸して落ち着こう。すー、はー、すー、はー。

……よし。


「まず君は誰?」

「覚えてないの?ハルカよ」

「っ…」

そういえば、よく見るとあの時の白銀の天使の顔をしていた。


「…あの、えっと……。あの時は守ってくれて、ありがとう」

「うん、どういたしまして。それから、ここには禁装を使って来た」

「えっ?禁装!?」

「目的は、貴方をフェティスとの『契約』から守るため。つまり護衛だよ。どう?」

「……えと、うーん、まあ、状況は分からないようで分かった」

「……どっちなの?」


……正直、薄々俺も分かりつつあった。要は、俺をみんなが取り合っている、ということだ。ここで重要なのは、ハーレムはハーレムでも、囲まれてるのが全員もれなく怪物なのだ。人間の形をした、な。


これまではなんともなかった。でも、思えば花織と出会った時から、俺の日常は劇的に変化しつつあった。


謎の怪物との邂逅、高校入学と同時に宇治晴也と敵対し、さらには教室で花織が晴也と戦った。まあ、今回も謎の少年少女から『契約』を迫られ、ザインに殺されかけた訳だが、しかしまさかお色気シーンが待ち受けているとは、全く予想していなかった俺である。


「取り敢えず、風呂出て話そう?俺、のぼせそう」

いろんな意味で、な。

「……えとね、今になって恥ずかしくなってきたから、先に出てくれると嬉しい、な……」

「ほんっとに今更だな!?」



俺は、暴走しそうな息子を宥めつつ、彼女に背を向けるようにして足早に風呂場を去ったのだった。


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