初めてのお仕事 ~Part2~
「さて、今日も昨日もやるか」
花織に見回り等の仕事を任されて、2日目の夕方。今日も、手順書を見ながら、的確に仕事を進めていく。
よし、防犯カメラのデータ回収は終わり、と。
防犯カメラの映像のデータ回収は、専用の機械を使ってやるのだが、これが技術力の塊。
なんと、レーザーポインターの様な物を防犯カメラに当てるだけで、データの回収から送信まで全部やってくれる。
なので、俺はというと自転車で防犯カメラがあるところを回って、レーザーポインターを向けるだけ。超簡単。
データ回収が終わったので、次は見回り。とは言っても、既に防犯カメラの映像回収で、大半の見回りは住んでいるので、あとは行けていないのは俺の通う城南高校だけ。
日が落ちかけ、濃いオレンジ色に染まった校舎を歩く。
もう部活動も終わり、残っているのは図書館を利用している人くらい。
取り敢えず、俺は花織に指定された場所を回る。
先ずは放送室。
「お邪魔しまーす…」
扉を開けるも、誰も居ない。不審な形跡もなし。よし次。
次は、この学校の七不思議の一つ、動く人形の目撃地である科学実験室。ここも異常なし。
お次は、1年生の教室。何でも、花織が少女と出会った場所なのだとか。ここも異常なし…。
…………………。
……………………………。
……………………………………………。
ミノタウルスっぽい禍々しい怪物と、その肩に乗る少女から、視線が外せなかった。
怖いとか特段思ったわけでもない。だが、不思議と、まるで見えない力に吸い寄せられるかの様に、彼女たちに釘付けになっていた。否、させられていた。
先に口を開いたのは、少女の方だった。長く透き通る様な紫色の髪の毛が、風でたなびく。
「…お前が契約者か」
「け、契約…?」
彼女は、その人形の様に整った表情を変えず、続ける。
「…まあ良い。お前が今日ここに来ることは分かっていた。お前ほど、器に適した者はいなかろう。さあ、契約の契りを交わすのだ」
契約…?器に適している…??ここに来ることを知っていた???
分からない。自分に何が求められているのか。
考えて、ふとあることを思い出す。
そうだ、コイツが花織と戦った奴か。
ミノタウルスを使役し、端正な顔立ちの年端もいかない少女。
しかも、とてつもないオーラを身に纏っている。俺は今、逃げようとしても体が動かない。まるで、何かに縛られているかの様に。
「…目的は何だ?その、契約ってヤツをすると、どうなるんだ!?」
少女は俺の質問を聞くと、ミノタウルスごと動けない俺に近づいてきた。
「…この世界には、お前の知らない裏の世界がある。例えば、このように、『フェティス』と人が名付けた生物の世界」
そして、目の前でミノタウルスから降り、背伸びして俺の耳元で囁く。
「…そして、主より授かりし聖なる法具を司るもの、またはその法具をその身に宿すもの」
「…!」
「今この瞬間をもって、お前は私の契約者となる―――――」
そういうと、彼女は反射的に逃げようとする俺を抑え、そして唇に自分の唇を近づけ……。
ヒュッッ。バコオォォォン。
そのまま、目の前から轟音と共に消えた。
「え…!?」
飛んで行った少女と怪物は、教室の黒板に垂直にブッ刺さっていた。
駄目だ、俺の目は遂におかしくなったか…。
目をこすって、もう一度見る。
やはり、少女とミノタウルスは画鋲のように黒板に刺さっていた。
やばい、やばいやばいやばい。何か、とんでもない事に巻き込まれている。
そう思った俺の頬を、冷たいものが伝う。手足が、制御を失ったように震える。
気付けば、教室を背にして逃げていた。
でも、廊下をただひたすらに走ったせいだ。まだ入学して間もないこの学校の校舎は、ろくに歩いていないせいで全然覚えられていなかった。
廊下の突き当たりで、振り返ると少年がいた。
手に赤黒い炎を纏い、小さな体とは似ても合わぬ、紫色のオーラを発しながら、彼は俺を見下ろし、こう言った。
「汝、我と契約せよ」
契約…!またかよ!なんなんだよ、契約って…!
そこで、逃げようとしたのが、俺の失策だった。
動く俺は、謎の力に動きを封じられた。というより、体を乗っ取られた感覚。
またかよっ…!くっそっ、体が勝手に…!
少年のかおを真っ直ぐに見られる体制にさせられると、流石の俺でもわかってしまう。
(そうか、キスが契約の方法をなんだな…!)
生憎だが、俺はゲイではない。なんか男にしては可愛く、王子様って感じがするが、そんなんはどうでもいい。
俺は、契約なんざするつもりはねぇ!
そう思うのは幾らでも出来る。しかし、彼の束縛から逃れる術は、神は俺に与えてくれなかった。
少年の唇が俺に近づく。クソッ、やめろ、離せッ…!
そう、最後の猛攻とばかりに全身に力を入れた、その瞬間。
「…おわっ!?」
全身の拘束が解けたと同時に、目の前にいた少年が、俺から遠ざかった。
そして、俺の目の前には、白く、包み込むような、そしてどこか懐かしいオーラを身に纏う、少女がいた。
少女は俺を見ると、にこりと微笑んで、直ぐに少年と向き合う。
「…契約なんてさせない。貴方達に、宗一をいいようにはさせない」
そう言った彼女は、オーラをさらに高めた。それに呼応するように、彼女の身を包む白いドレスが淡く光り、そして背中には透明な翼が広がった。それはまるで、何処かのお城に住む、妖精のようだった。
「…邪魔をするものは、このザインが排除する」
そう言ったと同時に、ザインと名乗ったその少年は、赤黒い炎を全身に纏い、そして炎弾を放ってきた。
しかし、眼前に迫る炎弾には目もくれず、目の前の妖精少女は俺に優しく微笑み、言った。
「大丈夫、あなたは、私が守る」
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