第三十三話「幼女みたいな先生」

「何故能力を勝手に使ったのですか!」




唐突に出てきた雪月怜華に手首を掴まれ、エルシーがいない場所にへと連れていかれると、雷が落ちたかのような大声で怒鳴りつけられる。




「いや、だって……」


「だっても何もありません! ありえません! あなたは自分の能力アビリティがどれ程危険なものなのか分かっていないようですね」


「危険? これだけ強い能力を持ってれば危険処か安全すぎるだろ」


「愚かですか! あなたの能力は強すぎるが故にばれれば周囲の人間から警戒される訳です、そうなるとどうなりますか? 危険な思想の人間があなたを研究したいがために攫われるかもしれない、あるいは暗殺を計画する組織まで現れるでしょう」




どこまで大袈裟なんだとは思ったが、どうやら彼女の虫の居所はとても悪いようだ。だが僕は自分でした事が決して間違いだったとは思っていない。あのままだとエルシーは頭のおかしい学生達に襲われる可能性もあった訳だ。僕だって能力無しで倒せていたのなら近接攻撃だけで倒したいた、そしてこの力を使った後は本当にあっけなかった。能力を使わない状態が本当の自分の実力なのか、能力を使った状態が本当の自分の実力なのかは分からないが、差があまりにも開きすぎている。




「僕が悪かった……」


「分かればいいんです、ですがもし危険が迫った場合は次からこれを押してください」




そう言うと、彼女から渡されたのは円の中に丸いボタンが付いている金属製の小物だ。これが何なのかは分からないがボタンを親指で押し付けてみると「ウィイイイイイイイン!!!!」と彼女のポケットから伝わる爆音が鼓膜に響き渡り、それと同時に雪月怜華の太ももは小刻みに震える。




「これが電波で発信する信号発信機です、まだ世に普及はしていませんが特別に試作品を総統からもらいました」


「へえ~」


「科学技術は進歩しているのです、能力を持ってるからって無関心な人が多いですがね」




ポケットから彼女も僕が持ってる丸いスイッチと全く同じ物を取り出す。スイッチを押すとその震動は止まるみたいだ。




「では私はこれで」




彼女は建物の方にへと帰って行く、あれだけの騒ぎはあったが誰一人として僕達の争いを見た者はいないようだ。それにしてもどうやって僕が能力を使用していると分かったのだろう、まさか隠れた位置から監視している訳じゃあるまい。僕からすれば能力を発揮する都合が出来たのは良かったが、彼女がそれを邪魔してくるのはあまり都合が良くないのだ。何としてでも彼女から目を離し、能力を存分に発揮する方法を考えなければならない。


さっきの戦いで特に疲労のようなものは無かった、この力はひょっとするとまだまだ予想もつかないくらいに限界が幅広いようだ。一旦自分がクラスになる教室まで向かう事にした、2年と言っていたのでさっきの3人組は教室にいない事になる。エルシーがもし2年なのだとしたら気の毒だが、その時は一個上である怜華さんが守ってくれる事だろう。




教室に入った時だ、扉に視線が集まったのは僕が遅れて教室に入ったからだろう。人数は前情報では123人、これが一クラスに全員集まっているのだから、席は階段状で後方に行く度に高くなっている。


席に座っている学生達を見回してみた処、一人の女の子が小ぶりに手を振っていた。一目見てすぐに分かったが、さっき助けたエルシーである。同じ1年なのは都合が良い、それに雪月怜華からの監視から目を離すにはできるだけ多くの協力者が必要である。


エルシーに手を振り返し更に教室を見回すと、目に入ったのはまたしても見覚えある人物である。


それは自分で自分のスカートを捲りあげていた女の子だ、正確に言えば僕が上げさせたのだが。その水色の髪と目が特徴の短髪というので直ぐに分かった。彼女の鋭い目と僕の目が合うが決して彼女の表情が変わる事はない、彼女は僕の事を知らないのだ。


もう二度と会う事は無いだろうから乗り気になってしまったが、まさか同じ学校の同級生とは、もう少し幼いと思っていた。見なかった事にしよう、これがばれたと同時に僕の学校生活が破綻してしまう。




「こら! どこを見ているのですか!」




すっかり学生の方に目を奪われいた僕は、教卓に方に目を向ける。目を向けた正面先には誰も立っていなかったが、「こっちですよ! こっち!」という声を探って、視線を下に落とすと立っていたのは紛れもない子供。僕も子供だが、この子はまだ二桁の年齢にも満たないくらいに低年齢だと思える。髪は銀で碧眼というあまり見ない組み合わせだったが、一体何で子供がこんな処にいるのだろう。




「あ、ひょっとして君も同じクラスメイト?」




幼い見た目とは裏腹に、もしかしたら幼く見える同級生なんじゃないかという可能性も考慮しての質問だったが、返ってきたのは教室に響く程の激しい怒鳴り声。




「違います!!! せんせーはせんせーなのですよ!」


「へえ~そっか、君はごっこ遊びが好きな年齢なんだね」


「何を言いますか! せんせー君の顔覚えましたからね!」


「ははっまたまた、ほら、もうすぐ先生来るからお家に帰ろうね」




幼女の頭をなでなでし、手を握って連れて行こうとすると学生がいる側から一人の学生が席を立ち「あの!」と手を上げる。手を上げたのはエルシーだった、この子の事を知っているのなら助かるなのだが。




「その人本当に先生です、だから手を離した方が……」


「え?」




手を離すと小刻みにプルプルと幼女先生は震えている、最初はジョークかと思ったが飛び級もある事だ、とんでもなく頭の良い幼女なのかもしれない。




「先生は20歳です!!! 大人を子供扱いしちゃ駄目なんですよ!」


「す、すいません!」


「許しません! だからまずはあなたから自己紹介するのです!」




まさか彼女が20歳なんて、もしそれが本当なら世も末である。チラチラと幼女先生の方を見ると目からはメラメラと謎の炎が沸きあがっていた。ここで目を付けられたら学校が自分の敵だ、ただでさえ監視が厳しい怜華さんがいるのだから能力を発動する条件が益々厳しくなる。ここは言う事を聞くしかないか。




「ああ、えっと執行遠矢です! 能力は何もありませんが仲良くしてください」




やむを得ず自己紹介をしたものの、教室は一瞬の間ができたように静まり返る。一番辛いのはこれだったが、能力を隠せとは予め雪月怜華に言われているのだ。それに能力が無いなんていうケースは決して無い、だからこそ全員驚きと同時に無言になっているのだろう。僕の能力を目の当たりにしたエルシーは眼をきょとんとしていた、彼女は何としてでも丸め込まなければならない。




「い、いいでしょう! 勇気のある自己紹介に拍手!」




教室にいたほぼ全員から拍手が喝采する、確かに恥ずかしくはあったが先生の口からはあまり言っては欲しくないものだ。自分の席がどこか分からないので適当に座っていいものかと思い、一番前の席に座ると、今度は先生の自己紹介が始まる。




「せんせーの名前はロッテ・エーゼット! さっきも言いましたがせんせーを子供扱いしたら許しません! エーゼットせんせーと呼んでくださいね! よろしくお願いします!」




エーゼット先生の自己紹介は終わり、次の学生に今度はしてもらおうとしていたが、ここで一つの疑問が浮かびあがる。




「先生!」


「なんでしょう、執行くん」


「エーゼット先生の能力は何ですか?」




僕達は決して敵ではない、だからこそ都合が良かったのだが一か八かだ。ここで能力を言わなければその流れが学生にまで及んでしまう、そうはさせないがために僕はその隙を逃さなかった。

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