第三十一話「能力の悪用にご用心」
自分のスカートを自分で捲った少女は耳鳴りがする程の悲鳴を上げ、顔を赤らめながら辺りをジロジロと辺りを見回していた。僕達の今いる場所は丁度建物と建物が挟んだ処に入れるくらいのスペースが少女の視界から外れる壁となっており、総統と共にそこに入り込む。
「一体なんなんですか!? 今のは!」
「うむ……それがお主の能力じゃ、絶対的支配力アブソリュートディレクション、お前さんを中心軸にして100mの円の中でそれが生き物なら何だって操れる能力じゃ」
「100m先の生き物を何でも操れるですって? そんなの反則といいますか、敵がいないじゃないですか!?」
「そうじゃ、だからわしはお前を操れるか操れないかで天界の運命は大きく変わると考えておる」
「でも弱点は? リスクとかあるんじゃ……」
「心配性じゃな~何も無いよ」
あまりの奇天烈さに状況は上手く呑み込めない。僕が望んでいた能力はもっとこう、スライザーのように10倍の全運動能力が上がるものだったり、顔を赤らめている彼女のような重力を操るごく普通の能力だ。それがまさか人をただ操るだけの能力だとは、ひょっとして今ここで能力ちからを使ってしまえばここにいる総統も殺っちまえるという事か。
当然だがそういった悪意のある事をする気は更々ない、ただこの能力を完全に操れるようになった時どのくらい強くなれるかは気になりはした。そして天界ここで平和に生きるためにもまずはこの総統のいう事を聞く必要がある。中には老いぼれとバカにする者もいるが、彼は天界じゃトップの存在なのだ。
「どうすればいいですか? 僕が天の門ヘブンゲートの兵士として力を使えばいいのですか?」
「その必要はない、君は学校に通っているだけでいいんじゃよ」
「はあ」
「明日が入学式だったな? お前さんの家に見張りの子が迎えにいく、君より一つ年齢は上だが学校の生徒じゃ」
僕より一つ上という事はまだ子供、あまり頼れそうじゃないが友達が作れるならそれはそれで一石二鳥だったりするだろう。総統は仕事があるからと言い、天の門ヘブンゲートの要塞へと戻る。
扉を開け家に帰った数分後、今度はスライザーが僕の家に訪ねに来る。
「おう、どうだ調子は?」
「え? あ、そこそこだけど」
「そ、そうか、それは良かった。あのな遠矢、俺だって敵と戦う時は能力は極力使ってないんだ、素の自分で戦った方が実力が分かるからよ」
「ん? 何の話?」
「いや、だからお前も頑張れよな……ははっ、体術の方は俺がみっちり教えてやるからよ」
スライザーは僕が能力を使えないと思い込んでいるのだ、しかし学校で能力は使うなって言われてるしもしかしなくても他言無用だよな。それにスライザーは彼なりに励ましてくれているみたいだ、ここは弟子として一つ演技でもしないといけないだろう。
押し入れの中から木刀を二つ取り出し、一つをスライザーに渡す。本当ならいつも自前のをスライザーは持ってくるが今日はできる状態じゃないと察知したのだろう、ならば剣術のトレーニングをしてもらう事こそが最も元気だというアピールになるだろう。
「付き合ってよスライザー」
「お前……もう大丈夫なのか?」
「その様子だと僕が一発食らわされる日も今日になりそうだな」
「っへ、よし分かった、俺だってやるからには手加減はしねえよ」
結局の処今日一日スライザーに自身の能力を教える事なく一日は終わる。剣術のトレーニングは言わずもがなフルボッコにされ、全身ボロボロの状態の状態で家に帰り眠りにつく。もし僕が能力を使えなければこの仕打ちは一生立ち直れないくらいの傷になっていただろう、相変わらず容赦の無い男だ。
しかしそれと同時に能力を使えるという事に対する楽しみというものはあった、勿論制御はされるのだろうがその見張りとやらがずっと僕に目を配っている事はない筈だ。それが同級生ならともかく一個上の年上ならクラスも別々という事になる。正直この頃は下心というものしか芽生えておらず、夢にまで出てきたものだったが、そんな望みが砕け散ったのは後の祭りということになる。
これは夢だ、それは分かっていた。たまに夢を夢だと分かってしまう事は誰にでも一回はある筈だ、最近ではそれが明晰夢というのが僕達の間では流行っている。更にはその夢の中で異性が出てくるのだとするならば何としてでもこの夢だけは操りたくなるだろう、現実でそんな事が起こる筈は絶対にないのだ。ならば夢で存分に堪能しようじゃないか。彼女の大きい胸に左手をさし伸ばす、そう、この少女は昨日自分で自分のスカートを捲りあげパンツを周囲の人間に見せつけていたあの時の少女だ。初めに言っておこう、これは夢だからこそやる行為なのだ。夢なのだとしたらその子にどんな変態的行為をしても文句をいうものはあるまい、ここでは僕こそがこの世界の支配者なのだから……。
―――ムニッ。
妙にリアルな感触だった、これはひょっとして現実なのか?
しかし目前にいる少女はその水色の鋭い瞳に涙を溜めて頬を赤らめている、中々にエロい。これに興奮するとは僕も中々の変態属性があるのかもしれない、だが次の瞬間。
―――パンッ!
それは僕が彼女の胸を思いっきり叩いて楽しむようなドSプレイをしていた訳では無い、音が鳴ったのは僕の頬からだ。しかも痛い、これは間違いなく平手で彼女が叩いたのだ。夢とは言え彼女を見過ごすわけにはいかないだろう、僕の絶対的支配力アブソリュートディレクションの力を使い彼女を思い通りに操つってやる!
しかし僕の目前に立っていたのは水色の髪と鋭い瞳が特徴の短髪の女の子ではない。視界は妙に霞んでいた、ひょっとして現実世界に戻ったのか?
目に映るのは緑色の眼で、背中まで伸びきったサラサラで綺麗な青髪に、透き通った白色の肌を持つ超美少女。彼女が頬を赤らめ恥ずかしがっている処までは夢に出てきた少女と同じではあったのだが。
「何するんですか! ぶっ殺しますよ!」
言動までは同じじゃなかった、ていうか怖い。
というよりこれって……。
「不法侵入者! 一体何が目的だお前!」
「寝ぼけないでください、私があなたと今日から学校を共にさせてもらう者です」
「へ?」
「まだピンときませんか? あまり好きな言葉じゃないので使いたくはありませんが、あなたが能力を悪用しないか見張らせてもらうんですよ」
頭の回転が唐突に早くなる、彼女のビンタが利いたのかいつもより早く眠気が覚めたようだ。彼女が言っているのは昨日の総統が言っていた見張りというのが彼女なのだろうか。しかもよりによって女、更にとびっきりの美少女とは。手に汗が沸き始める、あまり女の子と話した事はないからあまり得意ではないのだ。しかしこれから数年はお世話になるかもしれない相手だ、ここはとにかく無心で挨拶をとっとと済ませよう。
「すみません先程は……あの、僕の名前は執行遠矢です、よろしく」
「別にいいですけど、以後気を付けてくださいね」
妙に彼女は大人ぶっていた、一つしか歳をとっていないとは言えここまで子供っぽくないとどこかに違和感を覚える。流石は総統が選んだ女だけの事はある。
「私の名前は雪月怜華よ、よろしくね、執行遠矢君」
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