第三十話「危険な能力」


能力が使えないという事実を知ってから十時間が経った、虚しさというものが無くなる事は無かったが食べ物が喉に通るくらいには落ち着いた。朝から何も食べて無かったためパンを齧っては喉に入れを繰り返す。虚しさが漂う中でのパンはあまり美味しくは感じなかった、好物のブルーベリージャムを付けて食べなかったせいかもしれないが今はその気力はない。特に眠気が襲ってくる事は無かったが、再び眠りにつこうと思った時だった。コンコンと二回ノックの音が部屋内に響く。父さんはノックをする必要はなくカギを持っているはずだ、だとするとスライザーだろうか。


あまり気乗りじゃなかったが扉を開いて誰かを確かめると、そこに立っていたのはスライザーでは無い。




「おう、わしじゃ」




そこに立っていたのは自分より一回りも小さく、ピンク色の肌をした老人のパンクパンサー総統だった。




「総統ですか? 何で家に……」


「いやー正直すまんかった、お前に能力が無いといったのははっきり言って嘘じゃ」


「嘘……だと!?」




思わず怒りが沸き総統を睨んでしまったが、それを察知したのか頭を掻きながら総統の目が僕から逸れる。




「まあまあ、それよりもこれは安易に教えてはならんのだよ」


「何故ですか!? いいじゃないですか教えてもらって」


「落ち着け、これはお前さんにとっても重要な事だ、力を誤って使えば世界はまた滅びる」


「世界が滅びるですって……」


「うむ、それ程までに強力な能力をその年齢でお前さんは持っているのだ……」


「使い方は誤りません! 本当です!」


「お前さんがスライザーとトレーニングしているのはよく知ってるし、悪さをした事が無い健全な子供だというのも分かる、ただ念のために天界の管理下として君には見張りが一人と一週間に一回の面談をさせてもらう、場合によってはそれ以外の日にも強制的に面談をな、それと能力は君が入る学校では使わない事、それが条件じゃ」




つまりは自由を奪われる事と同一じゃないか。だがこれを断れば能力者として是認する事はないだろう、僕も馬鹿じゃないし総統がこの国の危険を考えての行動をしているのはなんとなくだが分かる。それに強力な能力、むしろ都合が良いじゃないか。




「分かりました、その条件約束します! ですから僕に能力を使わせてください」




「ふふっいいじゃろう、ついてこい、お前さんに能力をたっぷり使わせてやる」




何故か総統は不気味な笑みを浮かべる。何を企んでいるのかは知らないが能力を使わせてもらえるのなら文句はない、扉を開けて総統の元までついていく。街路をしばらく歩いていると一人の少女がぺろぺろとアイスを舐めているのが見えた、そして何故だか総統がその少女を指さし僕の方を見ている。少し短めの白スカートに水色のネクタイをつけている女性だ、食べているアイスは最近話題の歯が痛くないアイスで、アイスがあまり好きじゃない僕もお気に入りの物ではあるが。




「彼女を操るイメージをするんだ」


「操る?」




思わず聞き返してしまったが、ふと総統が言い出した言葉はそれだった。




「いいからやってみろ、そうだな、あのアイスを真っすぐ放り投げるイメージをするんだ」


「はぁ……」




意図が全くと言っていい程分からなかったが、とにかく言われた通りにイメージをする。この対応力に僕も十分正気じゃないと思ったが、次の瞬間信じられない光景を目の当たりにしてしまう。




「ひょえ!?」




そう叫んだのは彼女だった、なんと本当に食べているアイスを放り投げてしまったのだ。今時の女子じゃなくてもアイスを投げて遊ぶのは信じられないが、ひょっとするとこれが能力だとでもいうのだろうか。




「総統、これは一体……」


「ふむ、ばっちりじゃな、今度は能力だ、彼女の能力は重力感覚グラビティフィーリング、わしたちに二倍の重力をかけるイメージをするんじゃ」


「は、はい!」




アイスを投げた少女は僕達の方に手を向け始める。そして重力が重くなるイメージをすると、本当に体が重くなった気がした。気がしたというよりもなっている、確実に。




「こっちも大丈夫じゃの~もうよい、能力を解いてよいぞ」


「いえ、まだです総統、この能力がもし僕の予想通りなのだとしたら」




もし僕のイメージ通りに彼女がなるのだとしたら、ここで止まる訳にはいかない。何故なら僕はまだ一度も見た事がないのだ、異性のパンチラというものを。先程の少女の両手が今度はスカートを両手で握る、次の瞬間自分で自分のスカートを捲りあげるという何とも破廉恥極まりない行為を彼女はしてしまう。「おおっ!」っと思わず彼女の水色のパンツを見て関心してしまったが。恐ろしい事にこのイメージをしてしまったのは自分だ、まさかこんな悪用を簡単にできてしまうなんて本当に恐ろしい能力なのかもしれない。




「きゃあああああああああああああああっ!」




その後に聞こえたのは悲鳴だった、耳の中で響き渡り、気がおかしくなりそうだ。


だが良いものを見れたから良かった、総統も満更じゃない顔で首を横に振っていたが、もし今後使うのなら能力は正しく使うことにしよう。

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