第二十九話「12歳、執行遠矢(テンザー)物語」


妊娠から出産までは時間はかかるが、能力を使う事によっての出産までの日にちは数秒とかからない。できた子供についても時間を進行させる事によって大人の姿に変える事はできるが、せっかくの言語を覚える機会を人類の繁殖のために使うのはあまり賢い手ではない。それにこちらから旧人類を増やす事はいくらでもできたし、なんだったら子供の姿で生を授ける事だって容易な事だ。しかし欲しいのはそれではない。


多様性がある社会かつ新人類として研究を成し遂げたいのだ。そして旧人類の遺伝子が残ってるのはどれもこれも優秀な遺伝子ばかりである、戦争など起こさないだろう。優秀な遺伝を持った彼らの子供が社会を作るからこそ面白味があるのである。


自らの手でどんどん人類を誕生させていくパンクパンサー。旧人類同士の繁殖行動は盛んとなり、新人類となってどんどん人の数は増えていく。知識を与えずに子供を急成長させる訳にもならないので100人の子供を産ませた後、ジンの力を借りて異世界から旧人類の教師を連れてきてもらい教養を身に付けさせる。




一万年後、子供達は大人となり次の世代の子供を残しては死に、そして人類の数はとうとう5億人増え、理想の世界はほぼ完成した。


できるだけわしとジンは鑑賞せずに教育や社会を築き上げさせたが、いつの間にか彼らの間で能力社会というものが出来上がり、強い者こそ重きを置かれる存在へとなっていた。その中でも現在で最も強い素材を持つ能力者はスライザー・ファルク、最強の能力者ホーク・ファルクの息子であるため遺伝が彼をそうさせたのだろう。まだ十二歳であるため将来に期待である。




そしてホーク・ファルクの次に強いのは執行遠月、彼にも最近息子ができたようでスライザーのように恵まれた遺伝子であるため期待感は民衆の中でも膨らみつつある。名前が漢字なのは東洋の中でも日本と言われる国の遺伝子を使った事から、使用したものの名前が執行という苗字だった事もありこの苗字を使っている。彼の息子の名は執行遠矢、自分の能力が矢を使ってという事もあって酔った勢いでつけたそうだ。。




二人はすくすくと育ち、十二歳を境に能力者アビリットとなったスライザーは天の門ヘブンゲートでも一線を越える才能を見せつけ、二十三歳になった頃には小隊長を隊長となった。この年齢では凄いが、彼の才能からして昇格が遅い理由は基本ソロでモンスターを討伐している事からである。


そして十二歳を迎えた執行遠矢もまた、その日までに実力を備えるように剣術の訓練をスライザーから教わっていた。




「はぁ……はぁ……」


「まだまだだがやれる事は全てやった、同級生なら軽く数十人相手にしても負けやしねえ」


「へへ、その余裕も今のうちだ……能力が使えるようになったら絶対倒してやるから楽しみにしとけ」


「ったく、そんな減らず口が利けるならまだまだやれるよな」




尻もちがついている状態で頭部に木刀を向けてくるスライザー。


少し怒った目をしていたのでこれは本気だと思った。生憎僕は疲労困憊である、だが必ず十二歳を迎えた瞬間に能力アビリティを授かり、その際には今まで酷い目にあった分ぎったぎたのめっためたにしてやるから楽しみにしておけよ。




「ジョークだよジョーク、それよりもここまで僕に剣術を教えてくれた事には素直に感謝してるよ、ありがとう」




今まで教えてくれた先生であるスライザーに手を差し伸べる、これは本心からだ。僕は彼がいなければ間違いなくここまで強くはなっていなかった、もう少し意地悪い性格を直してくれれば最高なのだが。




「っふん、言うようになったじゃねえか、まあ手を握るのはお前が能力でも使って一発でも俺にダメージを与える事ができるまでのお楽しみにしておくかな」


「そう遠くない未来だけど本当にいいの?」


「馬鹿言え、一万年経ってもお前は俺に指一本触れる事はできねえ」


「いつかその言葉も減らず口になるのが楽しみだな」


「お前は……」




腕には相当自身があるようだ、だがスライザーに敵うとは僕もあまり思ってはいない。それよりも学校に入り、トップになる事がまず第一の目標だ。スライザーは先生であり、憧れの存在でもある。まずはギルドを作る事が目標、はたまたスライザーのようにソロで討伐するのも僕達にとってはロマンがある。スライザーは僕以外にも憧れは多く、いつも遊んでる事に対して妬まれたりはするが、それを誇りに思っていたりする。いつか僕に教えた事を後悔させないくらい誰よりも強くなる、それがスライザーに対する恩返しでもあるからだ。




「おし、そろそろいくか」




太陽が二人の体を照らした午前八時半、保護者の代わりとしてスライザーと学校へ向かう事にする。まず受けさせられるのは身長、体重、などの測定であり、その次に適正能力の診断と遺伝子の導入だ。能力についてはあまり親の能力が関与される事はない。実際にスライザーの親の能力は雷を体内から自由自在に放出させたり物に帯電させたりして戦う能力、一方のスライザーは本来の十倍の力を発揮できるとんでも能力だ。スライザーの生まれ持つ並外れた運動能力からしてこの診断はとても信憑性がある。




順番は周りいよいよ僕の番になる、父さんは召集がかかっているらしく仕事の代わりに来ていたのはスライザーである。診断を行っているのはパンクパンサー総統で、大きい機械の中に入れられるとそこで寝そべる姿勢にされ、そこでベッドは動き出して頭が円筒に向かって入る。


チクッと針のようなものが刺さった。次第に麻酔は回り、眠りにつく。




目が覚めた時には円筒の中から出ていた。目にぼんやりと浮かんだのはスライザー、そしてパンクパンサー総統が何かを言い合っている様子だ。寝起きのためにあまり内容は入ってこないがぼんやりと耳を傾けると、「何で能力が手に入らないんだ!」とスライザーの怒声が聞こえてくる。あまりにも大きい声のために聞き耳を立てる必要すらなかったが、ただ僕の聞き違いかと思った言葉を今スライザーが言い放った。




「こんな事何億人も見てきたわしでも初めてじゃ、だが仕方ないじゃろ! これが現実、初めての実例になるということかの~」


「何でよりによって遠矢なんだよ……」




二人共何の話をしているのか……いや、本当は薄々気付いていた。だが僕は今聞いたことを受け入れる事は当然できなかった、だって八年も楽しみにしていたのだ、この日を。




「遠矢君、君の能力は見つからなかった、すまんな~力不足で」


「くっそ!」




代わりに怒りを露わにしてくれたのはスライザーだ、僕も声に出して怒り叫びたかったが最後の最後で戸惑ってしまう。僕は能力者アビリットというものに4歳の頃から憧れていたんだ、立派な能力者になって父さんに親孝行する事も考えたいた。それをこんな簡単に伝えるなんて、僕の父さんは天界でも二番目に強い存在なんだぞ……。涙は出なかった、だが診察室から出た後、そしてスライザーと別れた後に布団に今まで溜まっていた涙でベッドを濡らしてしまう事となった。

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