第二十八話「新人類誕生」
能力者、それは個々に与えられた誰しもが持っている才能である。ある者は飲み水を作りだしたり、ある者は炎を作りだすなど、この世界で与えられた個々の能力によって文明は築き上げられていった。この世界での能力は人類が誕生した時から生まれていたため、人類の誕生も能力も同じ600万年前、しかし何度も発展していった文明は戦争と共に崩壊し人類は何度も滅びかけた。ただ滅びたとはいっても生き残りも少なからずいるのだ。
古の人間の一人目、名はパンクパンサー。
彼は滅びかけた人類を再び復活するために一人で熱心に何度も研究を重ねたが、結局は数百年が経っても実績は生まれなかった。そして彼は一つ前の世界で滅びた人類の遺伝子を研究していた仲間の事を思い出し、古びた実験室で再生に励む事にする。
古の人間の二人目、名はジン。
前の世界で悪魔のように同族を殺し続けたジンは仲間を失っても尚、異空間の扉から連れてきた仲間と共に快楽殺人を続けており、前の世界では魔王ジンと呼ばれていた。彼もまたパンクパンサーと同様、滅びた世界で二番目に生き残っていた人類だが、パンクパンサーとは腐れ縁で時々研究を覗きにいっては自らの能力を行使して手伝いなどもしていた。
彼ら二人の共通点は現代の人類とは違い、肌色が多種多様で、パンクパンサーは肌も髪も薄紅色。ジンは橙色の髪と緑色の肌だ、ほかにも旧人類は生まれもった肌が様々かつ、ジンのように骨格がでかいものもいればパンクパンサーのような小柄の人類もいるという。しかしジンのような上半身が裸の姿は自分の生まれ持った筋肉をアピールしたいという事もあり、パンクパンサー含めほとんどの旧人類は衣服は着ていた。
二人の接点はまだその程度であり、時が経った頃にパンクパンサーの実験は成功を遂げる。ついに彼らにとっての旧人類が新人類となって誕生したが、彼が思っていた旧人類の姿とは遥かに異なった容姿をしていたのだ。その姿は旧世界の本でしか見たことの無いチンパンジーという生き物に近い、そして人類にしてはちょっと毛深すぎる。図鑑を開いてみた処、どうやらこの猿はアウストラロピテクスと言われ、人類が誕生した祖先だそうだ。アウストラロピテクスの誕生はめでたい処だが、最悪のタイミングか腐れ縁のジンと今日はこの部屋でコーヒーを飲む約束をしていた。急いで資料、そして誕生してしまったこの旧人類の祖先を隠そうとしたが、最悪なタイミングで扉が開かれる音が部屋に響き渡る。ジンにとってノックをして部屋に入る事は、泣いている生まれたての赤ん坊をうまくあやす事くらいに困難なのである。
「ようパンクパンサ~実験のほうはうまくいったかな?」
「ああジンか、実験はだね」
「ん~んんんん!? パンクパンサー、何だこの毛深い生き物は」
「ああ、これはだな」
「どこかで見た事があるな~異界に行った時に、確か名は猿とか言ったな」
「そうそう! 猿だよ猿、だがこれが俺達より前の人類の祖先でもある訳だ」
「僕達の~? 本当かなそれは~図鑑を見た事はあるけどこんなんじゃないような~」
疑いの目を向けてくるジンだった、さては信じてないな。
能力使う事にするか、見た事も無いような驚きを見せてやる、俺の実験は成功したんだ。
―――歯車の稼働
数秒の間でアウストラロピテクスの姿は豹変し、旧人類に近い姿となった。確かこいつは白人という人種、しかもオスである。生殖活動をするのならばメスも必要だ、だとするなら今度は東洋人の遺伝子を使うべきか。
「おいおい! 凄い変化したけどなんなんだこれは!」
「ふふっ、見たか? 驚くのはここからだ、ちょっと待ってろ」
直ぐに東洋人の女をアウストラロピテクスの姿で作り上げ、再び能力を使って旧人類の姿に変えてみる。乳が我らの世代の人類より膨らんでいたが、これは旧人類のメスの特徴であるようだ。そして男にも女にも陰毛というものが生えている、これも図鑑で見た通りの姿だ。男の方の男性器が生えているのは我らの世代の人類と同じだったが、男の方の旧人類が東洋人の女の体を見た瞬間徐々に性器が立ち上がる。興奮でもしているのだろうか、だとしたらチャンスだ、早速生殖行動を行ってもらうか。
「おい生殖……ああ、弱ったな……」
「どうしたのよ、もしかして生殖行動をさせるのか?」
「ああ、そうさせたいんだがこいつら言葉を知らないんだったな、どうせなら子供の姿で旧人類に進化させてから言葉を教えるべきだったか、大人の姿じゃ物覚えが悪いそうだ」
「はあ~ん、だったら僕ちゃんが殺しちゃおうか」
「よせ!」
全く、こいつの横暴っぷりにも呆れるばかりだ。しかし親が言葉を話せないのに生んだ子供が喋れるようになる望みはそう高くはない。本当にやり直すべきだろうか。
「ほらさっさと生殖行動を始めろよ~なにぼさっとしてんだ」
「やめろ、怖がってるじゃないか」
白人と呼ばれる男も、東洋人と呼ばれる女も体をブルブルと震わせ怯えていた。東洋の女の方は性器からだらだらと黄色い液体を垂れ流している、確か強烈な恐怖が襲った時に排尿をするような仕組みだと聞いたな。だとするなら今こいつらは恐怖しているんだ、ジンが入ってきた事は都合が悪い、滅びた世界ですらこいつは魔王と呼ばれる程の悪魔だったのだ。
「そういえば恥ずかしがるという習性をもっていたな、特に東洋の女は」
「ふふふ~そういう時は無理やりやらせればいいんだよね~」
指の骨をポキポキと鳴らし徐々に旧人類に迫っていくジン、こいつは本当にやりかねない。
「辞めてくれ、もしこいつらの子供達が成長した時に俺達二人を敵視したら困る」
「はあ~じゃあどうすればいいのさ~? このままじゃこいつらは一生動かんぞ?」
「二人きりにしよう……」
今この旧人類は緊張した状態にある、だとするならば俺達が関与するより勝手に展開を任せた方がいいだろう。まさかとは思うが、素手で殺し合いを始める訳はあるまい。それに男の方は女に好意を持っているのだ。
ジンと共に部屋から出て、しばらく外で散歩をする事にした。家に帰ってくる頃には女の喘ぎ声が外に聞こえるくらいにまで響き渡り、その声を聞いて思わずにやりと笑ってしまう。
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