第二十二話「運命のカウントダウンへ、天界上空巨大隕石の落下」
「ジンッ!」
目が覚めるとでかめの椅子に座っているのが分かった。何が起きたのか理解不能だったが、目前には五人の黒尽くめ片膝を屈ませ、視線を俯かせながら体を僕の方に全員が向けている。
「お目覚めになりましたか、テンザー様」
何を言っているのかがさっぱりだったが、この少し変わった大きい椅子に、今着ている普段と違った真っ黒に染まっている鎧の格好。
僕はこの姿を見たことがある、あの映像に写っていた時のテンザーとまるで同じ格好だ。それにこの五人も…ミゼッタと最後に別れた時に現れたあの五人の黒尽くめ、全員がそうなのだろうか。
「なあ、ここって…」
「「「「「ひいっ!?」」」」」
手を差し伸ばしたのと共に身構える黒尽くめの男達。この場所がどこかを聞きだしたかっただけで、決して脅かすつもりで言ったつもりじゃなかったが。今の僕はクレイジーヘッドという蔑称で呼ばれてる程邪悪に思われている。もしかしたら物凄い形相で彼らを睨んでしまったのかもしれない。いや、それより彼らが僕をテンザーと勘違いしている可能性の方が高いのかもしれない。
彼らと話していても埒が明かないと思い、この部屋から出ようとすると「どこに行くのですか…」と先程まで怯えていた黒尽くめの男が小声で訊いてくる。そしてその質問に「ちょっと外に行ってくる」とだけ言い残し、部屋を出る。何があろうと彼らが敵なのは間違いない、事実なのだ。無駄な戦闘はできるだけ避けなければならない。誰もいない閑散とした廊下を進み、二つの別れ道を右に曲がると、螺旋階段が見えた。下ることしかできなかったので恐らくここが最上階なのだろう。この世界の生意気な僕の事だ、最上階を自室に選ぶに違いない。
螺旋階段を降りる事約五分。偉く長い階段を下り続けると、ようやく鉄でできた床が見え始める。そしてその床から少し離れた位置に外の景色が写った、開いた扉が見えた。あそこが出口になっているのだろう。出口までは走って駆け抜けようとしたが、身に着けていた鎧が重く、中々うまく進むことができない。面倒臭かったが、鎧を全て外した後、扉を抜けて外に出る。そして出た先は崖になっていて、遠くの景色を一望する事ができた。だが何より遠くで目立っていたのが、地面に向かって落ちている巨大隕石のようなものだ。ここからでは巨大という表現を使うくらいの大きさにしか見えなかったが、その隕石が向かっていた地面には見覚えのがある物が確認できた。
―――天界である。
「あれが地上に向かっているというのか…」
ただ大きいだけではない、覆いつくす程の大きさだったのだ、天界全域を。あれが落ちれば天界は無事じゃすまない、それにあそこに住んでいる人間も…ミゼッタ、怜華…。不意に彼女たちの顔が浮かぶ。もしあれが落ちれば彼女達が死ぬ。ファイヤスタに続きあそこにいる全員が。誰も救えずに皆しんでゆくのだ。全員が死ぬ光景が脳裏に浮かんでくる。その映像では皆、誰一人残らず、生き残らないで血と一緒に地面に倒れていた。
「うっ…」
頭がズキズキと痛みだす、とても自分で作った幻とは思えない程に繊細にできており、気を抜けば地面に汚物を吐いてしまいそうなくらいのグロイ光景が見えた。このままじゃあ皆を救うことはできない。
敵に命を救われ、仲間が皆死んでゆく、僕の存在価値とはなんなのだろう。僕にあの隕石を止めることができるのだろうか、いや無理だ、不可能だ。
震えながらここでじっとその滅びゆく様を見ている事しかできないのだろうか。
『僕の言うこと聞くって言ったよね?』
ミゼッタの声が脳裏に浮かび上がる、あの時僕が引き返しておけば、ミゼッタの言うことを聞いておけば良かったんだ。そうすればファイヤスタの皆が死ぬこともなかった、誰も死ぬことはなかったんだ。こうなったのも全て僕とこの世界の僕が起こした責任なのだ、だったらそれを止めるのが僕の義務じゃないのか、でもどうやって。
「くっそっ!」
下が見えないほど深くなった崖に飛び込む、ただがむしゃらに。前までの僕ならこの距離を飛べば即死だったが、今は怒っているのだ、僕自身の愚かさに。
靴裏が地面に触れ、その軌道を活かし、地面を勢い良く蹴り上げる。足元にあった岩は大破し、また地面を蹴り上げる共に次々と岩は大破していく。崖に落ちた痛みなどは感じない、ただただ地面を蹴り上げ、隕石の元へと突っ走る。
ただただがむしゃらに走り続けた、数分が経つが、未だにあの場所に辿りつけるとは思えない。どれだけ走ってもどれだけ走ってもなお、その隕石に届く気配は無いのだ。結局は無駄なのだ、無力なのだ。さっきまで必死に動いていた足も止まる。もはや何故自分がこんなにも必死に隕石がある場所に向かっていたのかが分からない。そこに着いたところでどうするというのだろう。死にたいのだろうか?それが一番の答えなのかもしれない。もう駄目なのだ、どう足掻こうと、どう叫ぼうと滅びるものは滅びる、そういう運命なのである。ファイヤスタの皆と同じように皆死んでいくのだ。ミゼッタや怜華、スライザー隊長にパンクパンサー総統。彼らがどんな能力を持っていようと所詮無力なのである。あの大きさの隕石は人間が動かせる許容範囲を遥かに超えているのだ。例えそれが能力者なのだとしても、それ程の力があるのにも関わらずテンザーと戦いにいかないということがありえるだろうか。僕にはどうする事もできない、滅びる運命なのだ、あの天界は。
それでも…それでもその足は気づけば地面を蹴り上げ、隕石が落ちる天界の方へと向かっていた。答えは未だに見つからないでいる、しかし例えその目的が皆と一緒に滅びるためのものだったとしても僕は構わない。止められなくても良い。僕は天界の元に向かい必死に走り続けた。
「クッソオオオオオオオオオオオ!!!」
喉が張り裂けそうなくらいまでに叫ぶ。例えいくら喚こうと無駄な事は分かっているのに、体が理屈に逆らい勝手にそうしていたのだ。
「止まれよおおおおおおおおおおおお!!!!」
その隕石の落下が止まることは当然無い、当たり前だ。しかし僕は叫び続ける。何度も何度も何度でも、少しの可能性がもしあるのならばそれに信じたかった。怒りを集中させ、念じるようにその隕石に向かって止まるようなイメージをしてみる、だが特に変わった様子はない。
「止まれ!!!!!!潰れろ!!!!!宇宙へ吹っ飛べ!!!」
何度も何度も声に出し、念じ続けた。そして視界に写る巨大隕石が崩れるのが分かる。少しずつ、ヒビが割れ、破片があちこちに弾き飛ぶ。隕石は中心が爆発するように割れると、遅れてだが少しずつ強度の向かい風が体に抵抗を与えるかのように打たれる。
「ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ」
天界の上に落ちていた隕石が割れる音が聞こえたのは、向かい風がこっちにまで吹いた時だ、かなりの時差がある。その轟音は鼓膜を破るかのように耳元から入り、体全身が突風によって吹き飛ばされてしまう。宙に浮いてしまった身体は、僕が眠っていた黒尽くめの男たちがいる建物の方面にへと飛ばされる。そして身体が止まったのは崖にぶつかった直後の事だ。この崖から落ちた時は痛みなど全くといっていいほど感じなかったが、今は死ぬ程の苦痛を感じている。今感じているのは『怒り』ではなく『喜び』だったのだから、能力の開放はなかった。
僕が…僕があの巨大隕石を止めたのだろうか、理屈は分からない。だが結果的に止まったのは事実なのだ。死ぬはずだった皆が死なずに済んだのだ、気づけ口許からは笑みが零れていた。
「やったよ、やったよ皆…僕が止めたんだ、あの隕石を」
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