第二十話「復讐の前夜戦へ、クレイジーヘッドvs疾風のジン」


「トレーニングルームに来なよ、復讐、したいんだろ?」




トレーニングルーム?復讐?その言葉の意味が何のことかさっぱりわからなかったが、次の言葉で彼の言いたいことが全て理解する事が出来た。




「やろうよ、前夜戦、そこで僕に君の怒りを僕に全てぶつけるんだ」




ジンは僕にだけ聞こえるような声でそう言うと、僕より先に部屋を出て、廊下を歩いていく。


僕は少しの間間隔をあけ、ジンに続き同じ道を歩いてトレーニングルームにへと向かっていく。




そこは地下だった、確かここに来たのはミゼッタとミラーストーンと特訓した時以来だ、もう一年になる。


逆に言えばここに来てからの思い出といえば、あの一年前しかない。


僕はあの悲劇があってからの一年はこれから会う奴にどう復讐するかの事だけを考えてきたのだ。


しかし前の僕ならとてもじゃないが奴に勝てる可能性は万一にもないだろう、僕と奴の力の差は歴然としている。


トレーニングルームに入った時には奴が壁に背をもたれながら立っていた、僕と眼が合うとニヤリと笑い、歩いてこっちにまで近づいてくる。




「やあ、よくきたね~」


「今から僕にぶっ殺されるのにずいぶんと緊張感がないんだな」


「いいね~その眼、本当にテンザーに似てきたんじゃないのか、いたぶりがいがありそうだよ」




テンザーは僕の方を向くと首を左に曲げ、ゴキゴキゴキと鳴らし、そして今度は右に曲げ、ゴキゴキゴキと鳴らす。次に片方の手にある指五本と、左手の五本を全て鳴らし、僕の元まで歩き近づいてくる。


ジンと僕はお互いに正面から顔を見合わせた、その距離わずか一メートル、どちらが先に攻撃をしてもその攻撃は通る距離だ。


体格は相変わらずでかく、僕は見上げるしかなかったが、ジンは見下すかのように下を向いている。そして肉体的にも、骨格的にも僕なんかに比べて何倍も太い。


だがこんな体格差があっても不思議と僕は負ける気がしなかった。


なぜならこの世界での僕は能力が使えるからだ、その能力をうまく使えば、目の前にいるこのくそったれを殺す事もできる。




「一つ聞いておく、なぜ僕をここに呼んだ?死に急いでいるのか?」


「フフフ、随分と自信満々じゃない~でもそれは違うな、ちょっとばかり事情が変わったね、天界全員の記憶から彼らの記憶を消すのには少々彼女も限界だったみたいだ、それで変わりといっちゃなんだが洗脳対象は君にする事にしたそうだ、実力も予想以上に跳ね上がった上に悪の波動も高い」




彼らというのはファイヤスターの事を指しているのだろう、だが彼女?それに洗脳?奴の言っている事はさっぱりわからない。




「まあ今のは独り言だと思ってくれ、こっちも君に理解させるつもりで喋っている訳じゃないんだ、敵にわざわざ分かりやすく目的を説明するだなんて馬鹿らしいだろ?でもこれだけは言っておこう、僕は君を気絶させ、テンザー様が住んでいるヘルルームにへと来てもらう」


「何が目的かだとかは知ったことじゃない、今から僕が全てを止めるんだからな」


「できるかな?君に」




薄ら笑いを浮かべながら煽ってくるジン、奴の顔を見るたびに怒りが沸いて来る。少しの怒りから体全体が筋肉で膨張し始め、モーションを悟られないよう、力をこめた拳を一瞬の内に奴の右肩にへとぶち当てる。


この距離なら避けられる筈がないと確信して打った一発だったが、不思議と彼は避けようとする素振りも見せず、流れるままにその攻撃が右肩に当たる。


そしてその当たった腕だけが空中へと吹っ飛び、地面に落ちる。


彼の右腕は見事に千切れ、その部分からは血の代わりに緑の液体がポロポロと地面に落ち始める。




「こんなんで済むと思うなよ…まだ僕の攻撃は…」


「フフフフフフッ…」




何故か笑うジン、その笑い声からは狂気のようなものを感じる。


気でも狂ったのかと思ったが、彼は目を見開くと同時に、ちぎれた腕の部分から黒いブラックホール空間を生み出す。


無くなった腕の部分は光が纏わり、無くなった右腕は元の状態にへと再生し始める。落ちている右腕があるにも関わらず、さっきまで千切れていたジンの右腕はすっかり元の姿にへと戻った。




「っな…」


「君が飛ばした腕を再生するのに別世界から3700本も犠牲にしちゃったよ、正確にいえば3724本なんだけど~その辺わかってやってるの?」


「くそったれめ、お前こそが本当の狂った頭クレイジーヘッドだ」




二撃目は顔を狙うつもりだ、顔をふっ飛ばせば、再生するのにも脳が消えているせいで能力を使えない可能性が高い。悟られないように視線は奴の心臓部にへと向ける。


そして二撃目、奴の背後に反復横飛びをするかのように、一瞬の速度で回り込み、地面を両足で兎のように高く飛び、勢い共に奴の頭部に向けて殴りつける。


しかし、奴は後ろを向くことも無しに、その速度を上回る手で僕の手首は掴まれる。掴まれたと思えば、今度は回し投げられ、地面にへと強く叩き付けられる。


体は三回地面から宙にへと浮き、口からは泡を吐きだしていた。


意識が朦朧とする、何も考えられない、体の細部までが動かない。




「確かに以前よりは強くなったが、元魔王の僕が相手なんじゃ仕方がない内容だね~」


「くぅ…くたばれぇ…」


「フフフ、いいねその目、段々テンザーに似てきたんじゃないか」


「ぶっころして…やる」




懸命に手を伸ばすもその手は届くこと無く、ジンに掴まれてしまう。


折られるのを覚悟して目を瞑った、僕はこいつに勝てない、そう悟った。


しかし、腕が折られる痛みも音も感じることはなくどこかにへと投げ飛ばされてしまう。


目を開けるとそこは真っ暗闇の中で、必死にもがくもその勢いは止まることはない。




「ジン!!!!」




僕は真っ暗闇の中で力一杯叫んだ。


だがその声は誰に届くこともなく、真っ暗闇の中にへと響かずに消え去ってしまう。

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