第十九話「最強のギルド、守護の能力者達への資格」

「さてそろそろか」




スライザー隊長が思い腰を上げた時には丁度お昼をすぎた頃だった、最近彼がクエストに行く瞬間どころか、運動すらロクにする様子を見せていない。


少したるみすぎでは、と思ったが彼がクエストに行くのは決まって守護の能力者達ガーディアンアビリットが召集される緊急時だけである。


そしてその守護の能力者達に選ばれる候補者が今年一年で二人も上げられたのは今までで異例の事だった。


まず一人目はジン様である、彼の能力そのものは空間移動というどんな壁をも通過する能力であり、入隊した頃には守護の能力者に上がるのは自然だと言われていた。


そして何より彼は私の直属の上司であり、、彼の評価が上がれば私の評価も上がることだろう、その点では凄く嬉しかったが問題は二人目にあった。


その二人目の事を知らされたのは今朝の事だ、噂自体はされていたが、まさか本当に彼が選ばれるなんて夢にも思わない。


なにせその二人目は…。




「まもなくS級のヘビーマンモスに遠矢、いやクレイジーヘッド一人で行く予定だ、お前も遅れないように付いて行け」


「………」




そう、二人目は執行遠矢、テンザーと瓜二つの顔を持った彼だ。


彼の能力、狂った怒り(クレイジーアンガー)はそれ程レベルの高くない能力である。実際この能力を持った能力者は天界に彼も含め八人所属しており、全員の中で飛躍的にレベルをあげたのは彼だけだ。


普通能力者同士のレベルにあまり差がつくことはないのだが、これは極めて異例のケースである。


勿論その中でも癇癪を起こしやすい人は五人程いたはずだ、そういう人達の方がこの能力を持つ者が多い。


だが、一年前までの彼は怒った事がないと聞かされている、その彼が天界で頂点にへと上りつめたのだ、何かよっぽどの事があったのだろう。


そして怒りの種と噂されているのは、私が直接聞いた訳じゃないが、天界に所属していない人達の名前が挙げられ、その人達が彼の仲間であり、殺されたからだと聞かされている。


彼はここに来てまだ日が浅いのだ、そんな人存在する筈がないのに…無理やりここに連れて来られ、精神的にもかなりやられているのだろう。


無理やり連れてきた私にとっても少しこの事に責任を抱いていた、そしてそんな非情になれない自分にもむかつきつつある。


この世界で生き残るには生半可な気持ちでは駄目なのだ、もっと強く生きねばならない。




「スライザー隊長」


「なんだ?」


「本当に彼でいいのでしょうか?彼はまだここに来て一年しか経っていない筈、ジン様でも選ばれるには早いと言われているのに…」


「パンクパンサー総統のご意思だ、俺達にどうこういう権利はない」


「………、愚問でした、失礼しました」




私はその場に立っているスライザー隊長を横切り、彼の元に行くことにする。


生半可な気持ちでは駄目だ、だからこそ私がこの眼でしっかりと見極めなければならない、彼が本当に守護の能力者にふさわしいのかどうか。






私は我が目を疑った。


およそ五十メートル先の距離にいる、全長平均八百センチメートルと言われるヘビーマンモスのその太い四本足がバランスを崩し、地面に倒れたのは一瞬の事だ。


ヘビーマンモスは目を大きく見開き、目を開けた状態のまま地面に寝転んでいた、それも彼が頭部を真上から叩きつけた結果がこれである。


その後もj瞬きは一切せず、地面に倒れたままの状態だったので死んだのを確認する事ができた。


一撃だ、こんな光景守護の能力者達と同行した時ですら見た事がない、ありえる筈のない光景だったが、彼はすぐさま敵の弱点を見抜いては全力でそこを叩いたのだ。


いや、ひょっとすると向かってくる敵全ての頭部を真上から叩いているのかもしれないが、それでも今この場では偶然にしろ、ヘビーマンモスの弱点を見事に衝いたのである。




「終わったぞ」


「あ…はい…」




こんなのを見せられたらこっちが動揺するしかない、一年前まで能力的に彼を戦闘に立たすのは辞めるかどうかの議論も行われていたのだ、それが今ではこれである。


私的に納得はしてなかったが、納得せざるを得ない結果を彼は出してしまったのだ。彼の守護の能力者達への参加を認めなければならない。


敵と遭遇してから倒すまでかかった時間、十秒。


これがクレイジーヘッドと呼ばれた彼の実力だ、このままいくとスライザー隊長と互角に戦える可能性もある。




「ねえ」


「なんだ?」


「あなた本当に執行遠矢なんですか?どうしてそんな風になったんですか…?」




今の彼には私の知っている彼の面影はどこにも無かった、愚かな質問だとは自分でも分かってはいたが、今の彼がどんな返答をするのかが気になり、ついこの質問をしてしまった。


私も彼の事はミゼッタに聞かされるしかなかったが、以前の彼なら少し考えてこの訳の分からない質問にも答えてくれるだろう、そんな気がする。


だが彼は…。




「お前に僕の何が分かる?僕は僕だ、お前がどう思っていようが今の僕が僕なんだ」


「………」




どうやら私の質問は彼の機嫌を損ねてしまったらしい、当然だろう。


私がどうかしていた。


私の中での彼と今の彼が全く異なっていた事から、私の勝手な思いを不躾にも彼に押し付けてしまったのだ、深く反省しなければならない。




「すみません、愚かな質問をして…」


「………」




彼は私を一瞥すると、ヘブンゲートへと向かい歩いていく。


睨まれた後の私の足は小刻みにも震えており、帰る最中の私と彼の距離は離される一方だった。






「十秒か…」


「ええ、それも頭部を一撃で、実力は間違いありません」


「頭部でも相当強固にできてるはずだ、まあいい、分かった、、この事はパンクパンサー総統に伝える」


「はい」




スライザー隊長は報告書に少し目を通しただけで、それを持っていこうともせずこの場を去って行く。


この結果だとわざわざ報告書を見せる必要もないという事だろう、彼が最強のギルドの一員にへと選ばれるのはまもなくの事であった。






僕がこの部屋に呼ばれたのはクエストに帰ってすぐの事だった。


アナウンスで呼び出した声主は声がしわがれていて、ベテランと思わせるかのような落ち着いたテンポで僕をこの部屋に呼び出した。


僕はその人と一度会ったことがある、いや人ではないか。


その部屋には大会議室と書かれていた、扉は人間以外も出入りできそうな大きさで作られていて、僕はその部屋をコンコンと二回ノックをする。


「入って下さい」という女性の声が聞こえた、恐らくこの声は怜華さんだろう、という事は部屋の大きさ的にも、総統含め二人以上がこの部屋にいるはずだ。


「失礼します」と言い部屋の中に入る、予想通り部屋の中には二人以上、合計十三人といったところか。僕の知らない顔も多く見えた。




「よく来たな、まあ座れ」




パンクパンサー総統に言われた通りに開いている席に座る。


長机の周りを囲んで座っていたのは怜華さんを除いた、僕も含め十二人である、その中にはスライザー隊長の姿も見えた。怜華さんはというと、壁側に立ち、紙下敷きに紙を挟んで何かを細々と書いている。


そして距離は離れているが、正面に座るのはパンクパンサー総統だ。




「悪いが今日のクエストに怜華を同伴させ色々と調べさせてもらった、お前も噂は聞いているだろうが、守護の能力者達はお前の力を欲している、これは全員一致で決められた事でな、拒否権は勿論あるがどうだ?守護の能力者達のメンバーの一人として天界を守ってはくれないか?」


「断る理由なんてありません、是非お願いします」




僕の答えを聞きパンクパンサー総統と他の人たちも大いに盛り上がっている、ロクにこの一年コミュニケーションを取っていなかった事もあり、こんな部屋なんかに入ったことはなかったが、面子を見るからに予想できるのは彼らは守護の能力者のメンバーなのだろう。




「ありがとう、勇敢な戦士が誕生してくれて私個人としても嬉しいよ、ではこれにてクレイジーヘッドの守護の能力者達の参加を…」


「ち~っす~うい~っす」




パンクパンサー総統の言葉の途中、ある男がノックも無しに部屋に入ってくる。


その顔を見た瞬間、頭に血管が浮き上がるのがわかった、しかし場所も場所だ。怒りを鎮め、できるだけ奴の顔をみないようにする。




「いや~皆さんお揃いで~こりゃあ大きな事件でも?」


「場を弁えろ、ジン」




体剣を背中に背負った男がギロリとジンを睨みつける、その眼はアレックスと少し似た、野生を生きる猛獣のような鋭さがあった。




「いや~冗談ですよ~冗談~えーっと、守護の能力者達でしたっけ?そのメンバーに入れるかどうかの話じゃないんですか?入りますよ僕は」




「たく、緊張感の欠片もないぜ」とさっきの体剣を背負った男がジンに突っ込みを入れる、さっきまで分からなかったことだが、僕はこの男の事が少し気になり始めた。姿格好といい、もしかするとアレックスと何か関係があるのかもしれないと思ったからだ。身内なら尚の事チャンスだろう、死んでしまった彼の事を色々聞きだせるかもしれない。




「では明日の夜八時、祝辞会を行う、急に呼び出して悪かったな、明日の集合場所は怜華に伝えてもらうから今日はもう帰っていいぞ、明日一日も仕事は休んでいい、ゆっくり休め」




パンクパンサー総統がそう言うと、場の空気が緩み始める。


席を立ち始めた守護の能力者達もいたので、アレックスに似た大剣の男の元へと向かおうとするも、ジンに肩を掴まれ、動きを止められる。




「遠矢くん、久しぶりだね~元気にしてるかな?」


「何のつもりだ?」


「おっと、この場ではあまり警戒しないで欲しいな、この空気を壊すのはお互いのためにも良くないことでしょ~?」




お前のためだろ、と言いたかったが、感情になればなるほどこいつの思惑通りだ、今日はもういい、こいつの事は無視して帰ろう。


肩に乗っかっているジンの手を振り払い、この部屋を出ようとしたその時、ジンが僕の元まで近寄り、耳元で何かを囁き始める。




「トレーニングルームに来なよ、復讐、したいんだろ?」




トレーニングルーム?復讐?その言葉の意味が何のことかさっぱりわからなかったが、次の言葉で彼の言いたいことが全て理解する事が出来た。




「やろうよ、前夜戦、そこで僕に君の怒りを僕に全てぶつけるんだ」 

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