第五話『ギルドへの参加』

「さて…無事辿り着いた訳だけど、この部屋には君の顔を見ただけで攻撃してくる人もいるから…なるべく彼らと合流しててね」


彼ら?と問いかけようとした時、人が溢れるだけの何も無い大部屋から四人のグループがこちらに向かって歩いてきた。


「よう、お前が遠矢だな」

目が合うと同時に、真っ先に話しかけてきた彼は、人一人なら一刀両断出来るかと思われるような大剣を持ち、高身長で、黄金に輝いた眼と髪が特徴のがたいの良い男だった。その鍛え抜かれた肉体からは、数ヵ所に大きな傷ができている。恐らく相当の化け物と戦われたと思われる傷だろう。


「見たとき一発で分かったぜ、俺の名はアレックス・ロドイネスだ。このギルド、ファイヤスターのリーダーをやっている。よろしくな」


「ああ、よろしく。僕の名は執行遠矢…」



「知ってるって、お前ここじゃ有名人だからな!お前の顔見てテンザーって勘違いする奴なんてここじゃいねえよ」


背中を強く叩かれ、緊張を解そうとしてるのが伝わるが、鍛え抜かれたその腕から放たれる平手は、ただただ凄く痛いだけだ。


「俺は風見…だ…」


「え?あ、ああ…よろしくな風見」


流れるように次の自己紹介をした彼は、低身長で僕と同じ黒髪と黒眼の男だった。特徴といえば普通ではありえないくらい大きい隈が眼の下にできている無口そうな男だ。


「ふーん、相変わらず硬いですねー風見君は。初めまして遠矢君、僕の名はアクロス、アクロス・バッドと言います。アクロスでも何でもお好きに呼んでください」


「ああ、よろしくアクロス」


風見の自己紹介を貶したこの男は、白髪に黒眼でボストン型の眼鏡をかけている、物で例えるとおむすびを逆さにした形のレンズと言っていいだろう。身長は僕と同じ百七十くらいの高さだろう。

アレックスとは別の意味で自信に満ち溢れた顔をしている、どちらかと言えばかっこつけ、ナルシストと言ったタイプだろうか。その証拠にこちらに近付いてくる時から今までずっと眼鏡を上げたり下げたりの動作を反復している。


「つ、次は私の番ですね、私はエルシーです!よろしくお願いします遠矢さん!」


「あ、ああ、よろしくエルシー」


最後に紹介したのは三人のむさ苦しい男の中、唯一混じっていた小柄の女の子だ。

紫がかった紺藍色(こんあいいろ)の眼と髪を持ち、低身長とはアンバランスと言われる程の大きい胸を持っている、これはエイ…いや、予想するのは辞めておこう。

男三人はスライザー総隊長と同じ青と白の二色に分かれた服、そしてズボンだけは総隊長と違い足元まで伸びた真っ白なズボンを履いている。女の方はミゼッタさんや怜華さんと同様の着衣だ。


「さて、自己紹介は終わったし僕は遠矢君について色々と上に話さなくちゃならないからね、アレックス、後は任せたよ」

「へいへい、お前も大変だな。後は任せておけ」


ミゼッタはそう言い残し、そそくさとあの非常扉から自信の能力を使って去っていく。


「そういえばミゼッタに聞いたんだけど、僕が来るってことで、真っ先に手を挙げてくれたのはあんた達だよな、その事に関しては礼を言うよ」


恐らく手を挙げたという事は、ギルドに入れてくれるという合図だろうと執行は勝手に話を進める。


「ははは、良いって事よ、俺だけの意見じゃなく、ここにいるメンバー全員が賛成した事なんだぜ」


「うん」とファイヤスターの他のメンバー全員が声を揃えて返事をする。


「それにファイヤスターが強くなるためにはどうしてもお前の存在が不可欠なんだ、こっちはお前が仲間になる事に大歓迎だ」


アレックスは力強く仲間に入れてくれると言ってくれた。世界を滅ぼした本人が天界にいると知っただけで嫌気がさすのがほとんどだろう、しかし彼らは僕を避けずに仲間に入れてくれた、彼らがいなければ僕はこれからずっと孤独だっただろう。


「感謝してるよ本当に」


「ふん、執行君、そんなに改めなくていい。僕達は情なんかで君を仲間に入れた訳じゃないからね、君の能力(アビリティ)、それこそ僕達が君を仲間に入れる決定打にへとなったんだよ」眼鏡を上げる仕草でアクロスは話している。


「そういうことだ、お前の能力(アビリティ)今ここで見せてくれよ、ここに来る前にミゼッタに教えてもらっただろ?」


ノリノリに話してるアレックスに僕は言葉に詰まる、何せ僕の能力は決して役に立ちそうにない能力、落胆と同時に僕はギルドを即行辞めさせられるに違いない。


「えと…怒れる狂気(クレイジーアンガー)って言われたかな…今は能力を発揮出来ないんだ…怒った時には発揮出来るらしいけどな」


「なんだよそりゃあ、今怒れないのか?」


「いや、全くと言っていいほど僕は怒らないぞ」


そもそも怒るという行為自体を自由自在に操れる奴がいたら是非とも見てみたいところだ、そしてこの役に立ちそうに無い立ち位置から僕と今すぐチェンジして欲しい。


「じゃあ使いもんになんねえじゃん」


案の定の反応だろう、隠す手もあったが、まあどうせばれる事だろうし素直に言う事にした。しかし、リーダーがこの反応じゃ僕が除名されるのは時間の問題だろう。ただでさえ周りから遠ざけられてる中だ、孤独はどうしても避けたい。


「能力が何でも私は構いません、遠矢君はこのギルドに入るべきだと私は思ってます」


除名宣告が来ると思った矢先、助け舟を出してくれたのは唯一の美少女、エルシーだった。


「僕もエルシーさんの意見に賛成ですね、狂気、そして怒り…彼はひょっとしたらこの中でも最もポテンシャルが高そうな気がします」


「だあ~、別にギルドに入れないなんて一言も言ってねえだろ!それにキングドラゴンを倒すにはどうしてもこいつの力が必要だ、この人数じゃどうしても足りねえからな」


「キングドラゴン?」


「遠矢君はまだこの世界の敵について何も認識していない状態でしたね。キングドラゴンというのはドラゴンの中で最も強く、最も見つける事が困難と言われている伝説のドラゴン…どこにも存在しないほど珍しいという事が由来でキングドラゴンと名付けられました。そのキングドラゴンをもし僕達が倒せれば、ファイヤスターは間違いなく評価されプロのランクにへと昇格する事でしょう」


この世界の敵はもう一人の自分のみと思っていたが、それ以外にもいるという事は恐らくテンザーの部下だろうか。しかし、ここに来た時に天界(ヘブンワールド)、地界(ヘルワールド)に世界は分けられていると聞かされてはいたが、よくよく思えば地界に見張りの敵がいなければおかしい訳だ。雑魚敵なんかが見張りをしなければ、広大な地界の領土なんてあっさりと天界の住人に奪われてしまうであろう、そう思うと合点がいく話だ。


「まあそういう事だ、キングドラゴンを倒すためにもどうしても人数が必要なんだよ、そういう訳で遠矢、よろしく頼むな!」


「ああ、自信無いけど…プロに昇格するって事はこのギルド自体はアマチュアなのか?」


「ま、まあそういう事になる。今は所詮アマチュアギルド止まりだけどよ、俺もいつかは兄貴みたいに隊長格になって大勢を指揮するのが夢なんだよ」


隊長格がギルドの中で一番上の存在だとすれば、あの時コアラと現れたスライザーって男は総隊長と呼ばれていた。つまり全部隊の一番上、リーダーという事になる。

今思うとあのちびって発言は完全な禁句(タブー)だろう、下手すりゃあの場で僕は殺されてたかもしれないぞ。


そうこう会話が続いてる内に、後部からグギギと聞き覚えのある音が響き、精神的にやられていた僕の心を癒すのように、にこにこと満面の笑みを浮かべた美少女が出てくる。


「おっ待たせー!とりあえず上の方には報告しておいたよ!」


出てきたのはさっき報告すると言って出ていったミゼッタだ、その見た目の風貌とは真逆で彼女の能力は本当に恐ろしい、ボブサ○プが何人いてもあの扉は絶対に開かないだろう。その力強さに残念に思いもしたが、それがむしろギャップで逆に良いのではないか?というもう一人の自分が出てくる。


「遠矢君、とりあえず部屋案内するから今日は沢山寝て!明日は皆で派遣先に出かけるからね、沢山寝て体力つけなきゃ!遅刻厳禁だよ!」


派遣先、遅刻、その言葉を聞いた途端、執行の腹部からはぎゅるるという音が響いてくる。恐らく彼女の言う派遣は僕の思う派遣ではない、そうは分かっていてもトラウマを植えられたあの会社のせいでこの腹痛が止まる気配はなかった。


「じゃあ明日、六時集合ね、これ制服だから渡しておくよ。これ着て今日怜華ちゃんと来た天の門(ヘブンゲート)の入り口に六時集合ね!」


彼女から手渡しされたのはアレックス達が来ている服と同様、ここの正装だった。六時と言われたが右腕に付けてる時計はここじゃ使えないと思い、時間が分かる物を貸してくれと頼むも、部屋に行けば時計が用意されてると聞かされる。


アレックス達にはお別れをいい、ミゼッタに案内されるまま非常扉を出て、渡り廊下を歩き、エレベーターで三階にへと上っていく。

着いた先は男子しかいない、番号が書かれた個室で、廊下を通るたび沢山の扉が見えてくる。ミゼッタの話だと女子は四階、男子は三階といった感じで分けられているという。


「じゃ、ここは男子寮だから僕が歩いてたら変に思われるからね、三百五号室だからちゃんと自分の部屋覚えててね、それじゃおやすみなさない!」


ミゼッタからは一枚のプラスチック製の番号が書かれたカードが渡される。普段僕という一人称を使ってる癖に中身はキッチリ女の子だ、能力も男勝りなんだからキャラ的に中身は男でも良いと思うが…。彼女に渡されたカードをロックセンサーに振りかざすと、ガチャという音がする。いくら異世界といっても技術的には何も僕のいる世界とは変わりがないのだろう。ドアを開くと僕の住んでいるワンルームマンションとほぼ同じサイズ、リビングだけでおよそ十帖の部屋だ、そして部屋のほとんどの空間を奪っているのは人が三人寝ても入ると思われる大きいベッドだった。風呂には入りたくなかったため、真っ先にベッドに倒れこむ。


仕事が終わり、異世界に来て、本当に一日かと思わせるくらいの情報量が脳内に入り、頭がパンクしそうだったが、ここに着いた時は決して空は暗くなかったし、少し長い一日を過ごした事になる。

ベッドから出て、風呂に入ろうと試みるも時間は十二時、睡眠もまともにとれなさそうな時間だ。

ミゼッタは沢山寝て明日に備えてと抜かしてたが…そんな事は出来る訳もなく、ここに来て気付いた事は僕が務めてた会社よりも圧倒的にブラックだという事だった…。風呂は諦め、ベッドに戻り、就寝に着く。こうしていつもより長い一日が終わった。


ドンドンッと扉の方からノックの音が聞こえる、その音があまりにも長く続いたのでベッドから飛び起きると、時刻はまだ五時、窓からは薄暗い空が見えた。ノックがうるさいので、ドンドンと鳴り続ける扉を開けると、強烈なパンチが顔面目がけて飛んでくる。


「いてて…何すんだよ」


「ご、ごめんね!いくら呼んでも出ないからこうしたらいつか起きるんじゃないかと思って…」



目の前に立っているのはミゼッタだった。まさか本人も殴るつもりはなかったと思わんばかりの顔で驚いていたため僕は許すことにする。


「なんだよ、まだ五時だぞ」


「いやーごめんごめん、目覚まし置き忘れてたからさ、僕のだけど良かったらこれ使って」


今更ながらに渡されたのは、僕の世界にいくらでもありそうな普通の正方形目覚まし時計だ。

彼女はこれだけ渡すと舌をペロッと出し、僕仕事あるからと言って駆け足でエレベーターへと戻る。男子寮に長居するのは彼女としても恥ずかしいのだろう、ひょっとしたら僕を呼んだっていうのも嘘かもしれないぞ。

しかし早く起こしてくれたのはむしろ好都合かもしれない。真夏に着た白シャツは完全に濡れていて、ネクタイとその上に長袖の黒服、そして足元まで伸びきったズボンは汗で濡れていた。クールビズだとしてもこの夏に長袖で寝るのは当然ながら暑い、まだ一時間ほど余っていたので急いで服を脱ぎ風呂に入る。


時刻は五時半、風呂に上ると、青と白の二色に分かれた服に、足元まで伸びた真っ白なズボンを着る。スライザー隊長を真似て、黒のズボンを履こうかと試みたが、あまり似合わない上、汗も付着していたため、ちゃんとした正装で行くことにした。

特に持っていく物もカードくらいしか無かったので、服が似合っているか確認した後に部屋を出る。部屋の外では同じ格好をした男がぞろぞろと廊下を歩き回っていた。エレベーターは行列ができ、仕方がないので階段で一階まで向かうことにした。


天の門(ヘブンゲート)の入り口前へ着くと、ファイヤスターのメンバー全員が揃っている。

この世界ではやる気じゃ誰にも負けないぞと心に収めてはいたが、まさかの三十分前に僕以外全員が到着しているとは思ってもみなかった。派遣、いや初クエスト、ファイヤスターの全員が門の出口へと向かうと、僕も彼らに続いた。


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