第六話「派遣先の社長に恐怖」


天の門(ヘブンゲート)の出口へ向かう途中、「おーい」と叫んでこちらに近寄ってきたのは僕っ娘美少女、ミゼッタだ。

「どうした?」とアレックスもミゼッタの登場に驚いて訊いたが、どうやら僕の身に何かあれば大変なので付いて行くという事だった。

ファイヤスターのメンバーは少しばかり嫌な顔をして、ミゼッタの方を見る。


「いいって、お前が来たら俺達の評価下がんだろうが!」


「へいへい、どうせ邪魔者扱いしてくると思って上司には黙って来てますよ~だ」


それを聞くとアレックスは溜め息をし、「そうかよ」と言って前を歩く。

アレックスは本当に評価だけを気にしてるんだな、ミゼッタは少なくとも僕より戦力になるはずだ。

全員でぞろぞろと門まで歩いていると、ミゼッタがじろじろとこちらの方を見回していた。

一体朝っぱらからなんなんだ。

ミゼッタはある程度僕の体を見回した後、にっこりと頷きながら、よく分からない何かに納得している、ていうか自己完結している。


「あの~ミゼッタさん?」


何も言わないので仕方なくこっちから話してやることにした。



「いや~似合ってるねって、その恰好」


「え?そうか?」


僕は改めて自分の体を見回す。

白と言えばカッターシャツで、ズボンは大体黒のスラックスだった僕にとっては中々斬新というか、違和感がある服だった。

サイズ自体はぴったり自分の体に合っている。

ようやく異世界の住人として、第一歩を踏み込めたって感じだな。

鏡を見た時は自分じゃとても似合わないなと思っていたが、ミゼッタはにこにこと笑い、「似合ってるよ」と言ってくれた。

お世辞だったとしても嬉しい。


「ははは、でもやっぱテンザーにそっくりだよなー、お前」


アレックスが口を開くと皆して僕の顔を見始めた。

「確かに…テンザーそっくり…」

「まあ似てるっちゃ似てますね…」



アレックスに続き、アクロスとミゼッタまで僕の顔を見てそう言った。

歩いてる途中僕の顔を見て、咄嗟にテンザーの顔でも思い出したのだろうか?いや、この三人は昨日ずっと僕と一緒にいた、何か少し変だ。




「何でここでテンザーなんだ?」

「まあ、こっちの話だ、気にすんな」

「そ、そうだよ、話すと長くなるよ」

「おい、流そうとするな…」

勝手に話を流そうとするのでアレックス、ミゼッタに渇を入れる。


「やれやれ、ここは僕が説明しましょうかね。急に言われて少々驚いたかもしれませんが、先程アレックスが遠矢くんとテンザーが似ていると言ったのは、あなたのその格好を見ての感想です。アレックスだけじゃありません、あなたの姿を見て、ここにいるメンバー全員がテンザーの姿を思い浮かべたはずです、彼も昔はその服を着ていたのでね」


そう言うと、眼鏡の真ん中部分を上げる動作でアクロスは言う。


「テンザーがこの服を?どういう事だよ、テンザーは敵なんだろ?これは天界(ヘブンゲート)にいる隊員の正装なんじゃないのか?」


「遠矢さん、着ていたのはまだ私達の仲間だった頃の話でして」


エルシーが口を開く、唯一まともだと思っていた彼女までまた訳のわからない事を言い出したぞ…。

「仲間…?」


「まあ端的に言うと、テンザーは元々守護の能力者達(ガーディアンアビリット)の一員、つまり我々の味方だったのです。しかし三年前、彼は天界から消え、いつの間にかその姿は地界の支配者の者へと変貌していたとの事…。まあどうしてそうなったかの経緯などは上層部の者しか知ってる人はいません。僕達は勿論彼と喋った人も滅多にいないのでね、本当に情報が少ない状態なんですよ」


テンザーが仲間?三年前?誰も覚えていない?

色々な情報が飛び交い軽くパニックに陥りそうだ。


「でも何か変だよね…守護の能力者達(ガーディアンアビリット)といえばスライザー隊長率いる最強のギルドのはずなのに、見たことあるって言った人を聞いた事がないんだよ」


「スライザー隊長が?」


そう言えば僕とテンザーは同い年という話をここに来た時聞かされた。

だったら何でこいつらは同じ世代辺りなのに誰も知らないんだろうか。

能力が不老不死とかで永遠の十八歳とか言い出すんじゃないだろうな。


「まあ、なんとなくだけど分かった、、またジンさんとかスライザーさん辺りにでも聞いてみるよ」


「そうだね、僕達なんかよりその二人の方がよっぽど詳しいよ」


いつの間にか僕達は長い間立ち話をしていた、時間も時間なので、門を突き進み、歩きながら話すことにする。

門には門番と思われた、顔だけが外に出ているガチガチのシルバーの鎧を身に着けた、二人の男が立っていた。

二人は僕達を見ながら外を出る時にいってらっしゃいませ!と敬礼し、頭を下げる。それにミゼッタは応えるように「お疲れ~」と言いながら僕達は前へ進む。

門の近くには小さな建物が建っていたが、多分あそこで残りの門番が休憩でもしていると思えた。流石に正門を二人で護るのは少なすぎる。



歩くこと三十分が経った、少しくたくたになってた僕だったが、僕以外のj五人はなんともない顔で足を休める事なく前を歩いている。

僕より華奢な体格のエルシーさんですら何ともない顔をしていた。


「大丈夫ですか?遠矢さん、休みますか?」


おまけに心配までされてしまったようだ、おじさんなのに情けない。身体は十八のままだが、今思い返せばあの頃、僕は運動がクラスで最下位の実力を持つ腑抜けだったな。

勿論社会人になってからも運動は苦手だったがあの時より酷くはないはず、その影響が出ているんだろう。

「いや心配しないでくれ、ありがとう」

「本当に大丈夫ですよね?良かったら肩貸しますよ?」

「まあ、そうしたいのは山々なんだけどな」

横にいるエルシーを見ると、視界に写ると同時にドーンという効果音が表れるようなでかい胸がそこにはある。

目のやり場に困るって言うか…肩を借りると間違いなく接触するよな…あの大きいの。


「あの、どうかしたんですか?」


「いや、別に」


二十代後半のおじさんを気遣ってくれるのは嬉しいんだけどね、改めて若いってすばらしいなと思えてきた。

僕が若い頃はこんなシチュエーション一回も巡り合わなかったけど、今も含めてその若い頃と言えるのなら異世界(ここ)に来たのは願ったり叶ったりだ。


「ったく情けねえな、」


アレックスがそう言うと、一番後ろにいる僕のほうまで腕に肩を回してくる。

彼の肩はがっしりとしていて、あまり力を入れなくてもうまく歩けるよう僕を先導してくれた。


「目に見えるだろ?あの建物が、もう少しだ頑張れよな」

「あ、ああ、ありがとうな」


しばらく歩き、僕らは建物の中に足を踏み入れる。

流石に派遣先でこんな不恰好な姿を見られるのはあれなので、アレックスの肩から離れ、身なりを整えてから、眠そうな目をぱっちりと開き、社会人らしい振る舞いで構える。

建物内一階、フロントを真っ直ぐ進むと、受付カウンターがあり、女性が二人椅子に座りながらパソコンで何かをカタカタと打っていた。

僕達が室内に入ったのに気付くと「ようこそ!いらっしゃいませ」と受付の二人が順番に言い、パソコンの手を止める。


「あのー、僕達天界から派遣に来た、ギルド名ファイヤスターの者なんだけど」


「はい、ファイヤスター様ですね、少々お待ちくださいませ」


ミゼッタがそう言うと受付の人は電話で誰かを呼び出し、話していた。

ギルド名を言っただけで通してくれるなんて、天界とここは繋がりが深いんだなと関心した。


「今確認が取れました、六階にて社長がお待ちしております」

「ありがとね!」

「いえ、いってらっしゃいませ」

あ、ありがとね?初対面だよな…ミゼッタ…。

ミゼッタから出た予想外の言葉に僕は驚くしかない、聞き違いか?今ありがとねって聞こえたような。

天真爛漫乙女だからってもし社長にそんな口利いたらきっと怒ると思うぞー、僕の会社なら上司にそんな口聞利くと間違いなく首を切られるな…。

カウンターを抜け、奥に進んでいくと、二つのエレベーターが見えた。

まさにこれは僕が知っているエレベーターだ、間違いない。

能力者がいて、ここまで技術が発展していると僕達の世界の立場がないんだが…。

上矢印のボタンを押し、しばらく待つとエレベーターが一階に着く。

六人もいたファイヤスターのメンバーだったが、広い空間だったので入っても

全く狭くなく、後住人は入れそうである。


「いよいよですね、まあ遠矢くんもいる事ですし、多分簡単な依頼だと思います、安心してください」


アクロスは僕に微笑みかけ、励ましの言葉をくれた。

まあ実質無能力の僕にとってはそうじゃなきゃ死んじゃうんどな。


「おっと、ついたようだ!遠矢君しっかりね!」


お前が言うな!とミゼッタにつっこみたかったが、僕はこうやって他社に出向く事がそもそも苦手なのである。

ここはミゼッタに全部任せて僕は一言も喋らないでおこう、ていうかさっきから手汗が凄い。

チャリーンという音が鳴り、エレベーターが開くと三人くらいの社員らしき者がエレベーター前に待ち伏せており、「ようこそ!お待ちしておりました!」と言い、出迎える。


「おう、お疲れ、社長はいるか」


頭を掻きながら言うアレックスに驚きを隠せない、お前達ここ派遣先なんだよな?

なんでさっきからこんなにも偉そうなのだろう…。

ミゼッタが駄目、アレックスが駄目、少なくても後の三人はこの二人よりマシな対応ができそうだが、いや僕でさえもこの二人よりはマシだと思う。

まあここは会社じゃないんだし、何でもいいかと溜め息吐きつつ、ら見守ることにした。

社員に案内されるままに、社長室へと連れられ、コンコンと二回ノックをし、社員の一人が先に部屋に入る。

そして社員はドアを開け、どうぞお入りくださいといいながら扉横でおじぎをしていた。

開いているドアに僕達六人はぞろぞろと入り、社長室に入る。

ドラマでよくこういう光景を見るがここはj異世界だ、この部屋を見てると、ここはもはや異世界なのかどうかも区別つかない程に僕の知ってる道具が置かれていた。


「依頼していただきありがとうございます」


まずアクロスが僕達の前に立ち、僕たちは後ろでそれを立ちながら見ている。

ここはミゼッタでもなく、アレックスでもなく、アクロスが話すんだな。

あの二人が喋って社長が怒る姿を見たかったのは正直あったが、それを見るだけでも心臓に悪そうだ。


「うむ、よく来たな。君達に依頼するのはこれだ、資料を見てくれ」


そう言うと、一枚の資料が配られる、大きく注意と書かれた紙には目が真っ赤で、爪はライオンのように鋭く伸びていて、顔もライオンを思い出させるかのような迫力があった、特に目つきが鋭く写真を見ただけで殺されそうである。

その写真から感じる威圧感からして僕は感じた、上の連中は僕みたいな雑兵がいる事なんて構わず、簡単じゃないクエストを行かせたんだなと。

勿論行きたくないのが本音ではあったが、僕が帰る場所なんてどこにもなく何もする事が出来ない。


「それを君たちに言ってもらいたいんだが…ん、おいそこのお前、このクエストに行くのが不満なのか?」

「いや、そんな事は…」

何故か目を付けられた、まあ嫌な顔をしたのは事実だったが、こんなにも早くお説教されるなんて。

仕事をしていた時も何かと僕はいつも目をつけられる、呪われでもしてるならここの能力者達に直してもらいたいが…。


「いやーこいつ新人だからな社長、しっかりしろよ~社長の機嫌損ねるぞ」


お前が言うな!社長、今こいつは明らかにタメ口で社長さんに喋りましたよ!

アレックスの利いたため口を社長に無言のテレパシーで必死に送ってみたが、当然ながらそれは届くはずもない。僕はもっと役立たずの能力なのです…。


それを社長は「そうか、まあ新人なら仕方のないことだな」と一言でさらっと受け流す。えぇ…と心の中で落胆の声を思い浮かべた。

何で僕が目を付けられてこのアレックスには目が付けられないんだか、叱られるのはどう考えてもこいつのはずなのに…。

まあはっきり言ってこの世界は実力主義なんだろう、僕みたいなヒョロガリで弱そうな奴が何かを言ったところで所詮無駄なのである。

僕は初めて自分が勤めていた職場が恋しく思えた。

まあでもよく考えると無能が礼儀正しいってだけで社員として残れる方が異常なのかもな。


「いやーそれなら丁度いい、新人の君には朗報だがな、うちの私有地に最近ポテンポットが大量にうじゃうじゃと現れてな、邪魔で仕方がない、そのクエストも同時に入れておくから君は経験稼ぎだと思って最低百匹は狩ってくれよ」


「お、おう分かったよ」


僕はもはややけくそになり、社長にため口を利く事にした。

だが社長は別に何一つ表情が変わることがない、案外良い社長なのかもな。

後ろではエルシーがくすくすと小声で笑いながらも、かなりツボに入ってるらしく、中々収まることがなさそうである。


「では、頑張ってきてくれ!」


僕達は行きに来たエレベーターで一階まで、降り無事建物内を出ることができた。人と接する、自分より上の立場と接する事が嫌いな僕からしたら、ここが一番難関かもしれないと思ったが、無事それも乗り越えられた。後はポテンなんとかを倒すだけだ。そいつを倒すだけで何も言われないのなら今の僕にとってありがたい事この上ない。

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