転勤

 缶ビールで晩酌を始める。くだらないバラエティ番組を見ながら、声を出して笑うけど全然笑えてないなと思う。


 妻と離婚したのは一ヶ月前。でも、半年くらい前から別居状態だった。原因は俺の浮気と性格の不一致らしい。というのも、俺自身は浮気はしてないし性格の不一致という曖昧な理由も納得できなかった。

 しかし、妻の意志は固くとりつく島もない。妻は幼い娘二人を連れて出ていった。


 何が悪かったのか、どこで間違えたのだろうか。


 結婚したのは8年前、妻は明るく社交的な女性で楽しい家庭が築けるなと思っていた。

 二人共地元で働いていたが、結婚してすぐに娘に恵まれたので妻は仕事を辞めた。一馬力は厳しくはあったが、家族を養っていくぞと俺のモチベーションはぐんと上がった。ごく普通の幸せな家庭だったと思う。

 数年後、二人目の懐妊が分かり安定期に入った頃に地方への転勤が決まった。期間は2年と短いが、地元を離れたことのない妻は良い顔はしなかった。単身赴任をする気はなかったので、大丈夫だと説得し身重の妻を連れていった。

 出産だけは地元に戻ったが、俺は早々に妻を呼び戻した。地方での、見知らぬ土地での仕事は想像以上に気を使った。仕事自体も忙しかったし、家に帰って食事を作るのも洗濯も掃除もしなければいけないのかと思うと妻には側にいてほしかった。俺の願い通り幼い娘二人を連れて妻は出産して間もないのに転勤地まで来てくれた。


 これがダメだったのかも、と少し思う。

 俺のわがままで出産という大仕事を終えた妻を落ち着く間もなく連れ出したのだ。さらに俺は来てくれた妻を労うことも感謝することもしなかった。とにかく自分のことで、仕事のことでいっぱいいっぱいだった。

 一方で妻もまた、見知らぬ土地での育児に疲れはてていた。知り合いもなく、頼る人もいない。それでも明るく振る舞ってくれていた。元来人付き合いの上手い妻は転勤先から戻る頃には俺以上に知り合いを沢山作っていた。


「転勤も悪くなかったと思ったんだけどなー」

 地元に戻ってからも転勤先の知り合いと連絡を取り合っていたようだったし、変にストレスを感じてるようにも見えなかった。

 所詮、男には分からない感情なのかもしれない。

 妻が何を考えていて、何がしたかったかも分からない。未練がないわけではない。

 でも、ただただ今は娘たちの笑顔が恋しい。

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30歳を越えました 生花円 @kapipan_taxi

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