Chapter.1 おマツリ少女との邂逅
1-1イカれたイカしたメンバー紹介
午後七時に差し掛かって、朝から街を覆っていた曇天が雨を零し始めた。
第二東京市
21世紀も序盤を過ぎようとしている世に、相も変わらず、人々が不完全な雨具である傘を差し始めた。
為す術もなく濡れそぼつ世界は、何も変わらず、ただそこにあった。
つい数ヶ月前に、滅亡の危機に瀕していたことなど、すっかり忘れたように。
だが、それは違う。
……らしい。
全知全能の神様だの、ハイヤー・パワーだの、暴走した電脳ネットミームだのと呼ばれている何かが、何かを起こし、それを曲者ぞろいのSCP部たちが何とかした。俺が知っているのは、それだけだ。
つまり、何も知らないということだ。
気になるなら、
ひょっとしたら、三十巻にも及ぶ長編漫画になっているかもしれないし、小説が書かれているかもしれない。四クールくらいのアニメ作品として放映されているかもしれない。
あそこでは、何でもできるし、何でも起こると聞く。きっと、見つかるはずだ。
とにかく、彼らは胡散臭い神様もどきが仕掛けたゲームに勝ち、人間の可能性や、勇気、高潔さ、団結心、その他もろもろ、自分たちがそこにいる意味を証明してみせたわけだ。
そして、2027年、6月某日の今。
今日行われるのは、SCP部とその仲間たちが織りなした、長い長い
―――何で、そこに俺がいるのかって?
知らん。
呼ばれたからいるだけの話。だが、まるでパーティの二次会から参加しているみたいで、身の置き場が定まらない。
エピローグでいきなり主人公たちの血縁者でもない新キャラが投入されたら、誰だって驚くし、受け入れにくいだろう。
まったく、なんで俺はここにいるのだろう。
本当に、なんで俺はここにいるのだろう。
―――俺に、一体何ができるのだろう。
『――――――!!!!』
……だ……なん……いこう……して……―――。
急に声が聞こえづらくなってしまってすまない! 伝え忘れたが! 俺は今! 押さえどころを知らない爆音が鳴り響くライブハウスに来ている!! 少し大声になるが! 勘弁してほしい!!!
ほんの十分前まで、俺の親世代のサラリーマンバンドが、アジアンカンフージェネレーションのコピーを披露していて、なかなかいい演奏だった。
が、今鳴っているのは、控えめに言って噪音だ。さわがしい音と書いて
そんな、がなり立てるような演奏をしているのがSCP部の部員たちなので、ここで紹介しておこう。
まず、パワフルではあるがフィルのたびにリズムがぶれているドラムを叩いているのが、上瀬総合の三年生
家庭の事情で男らしい名前をしているが、スレンダーな体躯とおしとやかそうな垂れ目が特徴の女性だ。彼女のお客さんもここに来ていて「お嬢」と声援を送っている。どう見てもヤクザにしか見えないが、俺は知らないふりを続けている。
次に、淡々とリズムを刻んではいるが、何の感情もない顔でベースを弾いているのが上瀬総合の二年生
小柄で名前通りの白い肌をした無害そうな女子だが、中学生のころから
このバンド二番目の問題児が、キーボードで不協和音を鳴らしまくっている二年生
特に何か問題があるわけでもなく、単純に下手くそなギターを弾いているのは、このステージ唯一の男子
こちらは特進クラス始まって以来の秀才と呼ばれていたにもかかわらず、掃き溜めのようなSCP部に入った残念な天才。今ではスポーツ科で、鷹丸くんとバスケをやっている。何をやらせても器用にこなす男も、楽器には悪戦苦闘しているようだ。
この四人は、それぞれにSCPを追う財団だとか要注意団体だとかの一員だ。
真白が財団の“Dクラス職員”だということは覚えているが、あとはいまいち記憶が不明瞭だ。お互いに反目し合っていた時期もあったそうだが、一年間を共に過ごして、今ではこうして仲良くやっている。良いことだと思う。
あと二人、ここにはいない副部長と部員を合わせて、上瀬総合SCP部。
なのだが―――
『―――!!!!』
さきほどから、マイクを通してとてつもない奇声を聴かせてくれている一番の問題児たる部長殿が残っていた。
真白よりさらに小柄な身体と、長いポニーテールが特徴で、松田先輩とはまた違った系統の美形と呼べる顔立ちをしているのだが、その長所をすべて叩き潰すほどにやることなすことめちゃくちゃなのだ。
通っていた私立高校をたった一ヶ月で退学になって上瀬総合に転がり込んできたのが昨年の
そんなナチュラルボーン・ポンコツ女子高生が今や、世界中の英雄だ。人生、何がどのようになるか分からないものだ。
ライブハウスのお客さんたちも、ほとんどがSCP部と関係のある人だそうで、ちょっとしたオフ会といった様相だ。年齢層は幅広く、未就学児を連れた母親から、齢70にも見える老夫婦もいる。
それぞれに
とはいえ、電脳世界で
世界を救った物語のエンディングテーマとしては多少ご愛嬌だが、悪くないライブだ。音楽にはうるさくとも、俺は素直に、そう思った。
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