情報海に落ちていた誰かのレビュー
『おマツリ少女とSCP!』
Title.私には眩しすぎました。 ☆☆☆☆☆
終わった後、ベッドにごろんと寝転がって「あーいいなー!」と叫びました。
軽くあらすじを書きます。
いわゆるVRフルダイブの『電脳潜行』という技術が発達した2026年の日本の高校で、鷲宮・C・鷹丸というバスケのスポーツ特待生でもある主人公が、チビ・無能・見栄っ張りという三拍子が揃ったポンコツ少女九鬼崎茉莉花と出会います。
鷹丸は、超嫌なやつです。いうなれば増長系プライド天元突破の俺様キャラ。なんでこんな奴の一人称で話が進んでいくんだと思いました。今では大好きですが。
で、茉莉花も、見た目は可愛いし話を面白い方向に賑やかしてはくれるんだけど、余計な行動が多すぎるし、本人が上手くやってるつもりのことが全部裏目に出る『無能な働き者』です。最初は、ちょっとイライラしました。
そんな二人が、ふとしたきっかけで電脳潜行し、深い情報海(オーシャンと読む。VR世界の通称)に潜む“SCP”を撃退します。
なんと、この世界では、ネット上のミームに過ぎないSCP(現実の怪奇サイトの創作物)がそこかしこにうごめいていて、大きな問題になっているという。
情報海での活動に意外な適性を見せた茉莉花は、全然ダメダメだった鷹丸を引き込んで、『SCP部』を作ります。
※この部創設のときにもすったもんだがあって、それはこの子たちが通っている高校の特殊さが関係しているのですが、そのことについて書こうとしたら文字数オーバーしちゃいました。本編で確認してください。
なんだかんだで癖の強い部員も集まって、茉莉花たちは情報海で起きる事件を次々と解決していきます。
そして最後は鷹丸が生徒会副会長(この子だけ名前が出てこない)に『今日の成果』を報告。これが、ある程度決まった一話の流れです。
その繰り返しがね、本当に楽しそう。こんな学生時代、過ごしてみたかったなぁって思っちゃいます。
授業が終わって、みんなで集まって、電脳潜行で情報海に入って、SCPを退治して、たまに浮上しちゃって大騒ぎになって、ホントにたまに喧嘩もして、すぐに仲直りして、秘密が明かされちゃっても、それでもお互いが大切な存在になっていて、最後には世界を救っちゃって。
ある程度生きちゃった人間からすると、この子たち、絶対に将来安泰じゃんって思います。世界を救ったからじゃなくて、かけがえのない時間を過ごせたからです。
世界を救わなくたって、ただ何となく過ごしていて気持ちいいなぁって日々を思い返せたら、それだけで青春って、パーフェクトなんですよね。
Title.あくまでSCPは添え物。でもそれがいい。 ☆☆☆☆
タイトルからして、オカルトホラー青春モノを想像していたら、ただの青春モノ、あるいは、ちょっとしたSFでした。そういう意味では、ややタイトルに偽りありです。
あの死んでも死なないクソトカゲ(SCP好きの人は分かっていただけるはず)も御してしまうようなヒロインは現実ではダメダメのポンコツで、走るのもままならない主人公がリアルでは何でもできる天才というギャップから生まれる面白さもいい。
Title.誰も読んだことがないのではと言われている伝説的作品 ☆☆☆
星が少ないのはなぜかって?それは、語り合えないから。
何故か、この伝説的な作品の話を語り合おうとすると、齟齬が生じる。茉莉花や鷹丸や電脳潜行といった、作品のキーワードとなるものや話の概略は一致しているのに、格エピソードの枝葉については言うことがバラバラになってしまう。
それぞれの胸の中で、この物語が大切に保存されているという証拠なのかもしれないが、やはり、寂しさを感じる。本当にみんな、『おマツリ少女とSCP!』を読んだのだろうかという疑問すら抱く。いや、ひょっとしたら読み物以外のメディアにも展開しているのだろうか。
そうやっていくと、実はこの作品自体、作中のSCPのようなネットミームの現実化なのではないだろうかと勘繰りたくなる。
ちょっと怖い感想になってしまったが、話自体はとても面白かった。作者の次回作にも期待したい。
ところで、この作者の名前を誰か知らないだろうか。
Title.いくらなんでも褒められ過ぎ ☆☆
私は、どうしてもこの作品が合わなかった。
まず、電脳潜行というSF要素からは、作者の未来に対する無邪気な楽天主義が伺える。この世界は、必ず今日よりもいい明日に向かっていると、心底信じている人の文章だ。私は、そういったオプティミスティックな思想には乗れないし、ライトSFとしても、やや設定の詰めが甘く感じる。
もう一つ、この物語最大の売りであろうジュブナイル冒険記的な、言い換えれば部活青春モノとしての魅力が、それほど感じられない。特にこの国のライトな創作メディアで培われてきたクリシェから逸脱するものではないからだ。それが良いのだという意見に異は唱えないが、これほどまでに絶賛を受ける作品には既存の枠を破壊し、新たなスタンダードを生み出すような驚きがあると期待していただけに、失望を感じた。
ただ、評価せざるを得ない部分もある。この作品には、これでもかというほど「好き」が詰め込まれている。
何の取り得もなかった小柄な少女が、もがきながら自分の生きる場所を見つけ奮闘する姿からは、人間が持つ可能性に対しての「好き」が。
何でもできる少年が、何にもできない場所で挫折し、這い上がり、本当に大切なものや人を得ていく描写からは、人間そのものに対しての「好き」が。
SCPが「好き」。SFが「好き」。友情が「好き」。青春モノが「好き」。ラブコメが「好き」。ボーイミーツガールが「好き」。物語が「好き」。
なりより作者の、『おマツリ少女とSCP!』の世界に対する深い愛を感じずにはいられない。
その一点でのみ、星を一つ加えている。
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