『イベリス』⑤
突然の質問に、成瀬くんは驚いたように目を丸くした。
その後、苦笑してこう言う。
「ははっ……何だ、北川気付いてたの?」
「あ、うん……何だか、貼り付けたような笑顔だなって」
不思議と、表情を作らない成瀬くんになったら、普通に話すことができた。
「恥ずかしいんだけど、オレ、笑うのが苦手でさ。他の奴らみたいに人当たり良く笑えないから、どうしても作り笑いしかできなくて」
「!」
意外だった。成瀬くんにこんな一面があるなんて。
あの仮面のような笑顔は、上手く笑えないから作り笑いになっちゃうだけってこと?
「で、何年もその作り笑いやってるから、今もその癖が残ってるんだよね」
カッコ悪いよね、って私に言う成瀬くん。
何だかこの話を聞いて、心の奥のつっかえが消えたような気がした。
「カッコ悪くないよ。私は、こっちの成瀬くんの方が良いと思う」
「え?」
「実は、成瀬くんのこと、いつも笑顔作ってるし何考えてるか分からなくて苦手だったの。でもね、さっきわざわざここまで来てくれたり、話聞いてみて、すごく優しい人だって分かった。
……って、ごめん。私、友達いないから、こんなに話すの久々で」
私が顔をあげると、成瀬くんと視線がぶつかった。
目を逸らせなかった。
どくん、どくん、と心臓が高鳴るのが自分でも分かる。
「ねぇ北川。あのさ、オレたちって友達だよね」
「え?」
「友達じゃん。だから、友達いないとか言うなよ」
成瀬くんの言葉に、私は泣き笑いの顔で頷いた。
ああ、そうか。成瀬くんのことが何故か気になっていたのは、もう最初から、心を惹きつけられていたからなんだ。
成瀬くんの素は私だけが知ってる。いつもの貼り付けたような笑顔の意味も、私だけが知ってる。
それが嬉しく思うのも、全部、心を惹きつけられている証拠なんだ。
私たちを見守るように、花瓶に生けられたイベリスの花が微かに揺れた。
--FIN--
花束 -short stories- RIRI @otheryao
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