第14話 エンドレスハイバトル
『本当にすまないでござる…ソフィア殿。お疲れでござろうに…』
「何を言うのですかっ!私は貴方様のスピリードです。ピンチに駆けつけなくてどうするのです!…とは言え、わざわざ私を気遣って休憩時間まで待つなんて…ふふ。本当にあまい人なんですから…」
織の謝罪に対してソフィアはきっぱりと、それでいてどこか嬉しそうな声で応えた。
そうこうしている間に、体制を整えてたシールがこちらを睨んでいる。
「だ、大丈夫おねーちゃんっ!?」
「問題ないわ。…少し不意を突かれただけよ」
(まさか槍まで使ってくるとは。然もあの状況で…やはり侮れない。)
シールは妹に平静を装ってはみたものの、内心ではまったく落ち着かず、右の頬に汗が流れていくのを感じていた。
織も再度ソフィアを構え直し、ジリジリと距離を詰め始める。
「これからどうするおつもりですか?先程は隙を突いた攻撃でしたのでうまくいきましたが、相手ももう迂闊に飛び込んではこないでしょう。武術の心得がないのでなんとも言えませんが…」
姿が見えずともソフィアの心配そうな様子がひしひしと伝わっていた織。
それに対して織も同意を示すようにコクリと頷く。
『いや、ご指摘の通りでござる。それに先程の奇怪な行動…ならばひとまず人気のないところへ行くでござるよ。』
織はそう言ってまた狭い路地へと入り込み、人気のないところへ向かった。
確信はなかったが、付いてきている感じはあったので織はさらに速度を上げた。
程なく走ると織は広場に出た。
広場…といってもただの荒れた土地。
この前の騒動により破損した家や建物が手が回らず、そのまま放置されている場所だ。
『……ここなら…』
織はそう言って土煙を上げながら止まる。
なぜなら背後には-
「不意打ちは暗殺者の基本よ?」
ガンッ!
『まったくでござるな。』
振り向きざまに鎖が迫っていたのだ。
織はなんとか、止まった時の勢いをころさず、遠心力を用いて鎖を弾き返したのだった。
「おねーちゃん、ここなら…」
「そうね…」
少しの沈黙の後、姿をあらわにしたステッカが前の織を睨み続けているシールに声を掛けた。
それを聞いていた織は思わず声を上げる。
『やはり…拙者どうしても解せないでござるよ…』
槍の構えを解きながら、織は見上げる形で廃墟の屋根に佇む暗殺者の姉妹に話しかけた。
「…解せないってなんのことかしら?」
シールが重く対応する。
『お主らが人の命を奪うような者たちには見えぬのでござるよ。…先程にしても、あのままあの小僧ごと拙者に攻撃をしていれば全てが終わっていた。だが、それをしなかった。拙者が解せぬ点はそこでござる。』
織がそう言ったのち、しばしの沈黙が流れた。その間もシールとステッカはじっと織を見つめていた。
「別に…貴方に話す義理なんてないわ。貴方も頭が相当悪いのね?私はそう言う…明るい世界で生きているような奴の、そう言う…正義ぶったところが…」
「わ、私達も…やりたくてやってるんじゃ…な、ないんですっ!」
「ちょっとステッカ!貴女何を言って…」
苦虫を噛み潰したようなしぶい顔で織に怒りをぶつけようとしていたシールだったが、ステッカの一言で妹に強く反発しようとしていた。
「どうしてそんな…分かっているの?あいつと私達は住む世界がちがうのよ!?」
シールが急き立てるようにぐっと顔を近づけながら妹に迫る。
半ば…というかほぼ泣いているステッカもその性格からは考えられないほど真っ直ぐに姉を見つめ力強く言い放つ。
「たしかに…そうかもしれない。いままでだってそうしてた。でも…私は…いや、私達はこの仕事をしたいと思ったことは…人を殺めることに抵抗が無くなるなんてこと、い、一度も無かったよっ!」
「…っ…ステッカ…貴女…」
始めて見た妹の真剣な言葉にシールはたじろいでいた。
「それなら…一体どうして貴女達は暗殺なんて…」
ソフィアが戸惑ったような声をあげた。
すると後ろから…
『それはそいつらの特性と持ち主の性格の所為なんだよ…』
『に、ニック殿!?』
サムライを導くサポート妖精、ニックが織達に追いついていた。
『どうしてここが…』
織が驚いて歩いてくるニックを見つめるとニックは鼻で笑って答えた。
『ったく…その嬢ちゃんに頭が悪いって言われても仕方ねーぞ…言っただろ?俺はお前のいる位置が分かるって…』
「…そう言えばそんな特技もありましたね…」
ソフィアも思い出したように呟いていた。
『なるほど。して、ニック殿。先程の話の続きでござるが…』
織が先へ促すとニックはすぐに少女達を見上げて口を開け、語り始めた。
『おう…実は最近噂になっててな。
『
『この世界…まぁ実際はダレイオリー皇国周辺の国とかで有名な暗殺集団だよ。…ソロのバケモノも存在するが…とにかくそいつらの仕事の達成率は驚異の九割越え。余程のことがない限り、失敗は無い。…だが少し前、公になるほど奴らがしくじった仕事があってな。そん時の担当が…』
『…あの者達と言うわけでござるな?』
ニックはそこで話を切り、コクリと頷いた。
見るとシールははぁと息を吐き、観念したように話し始めた。
「…そのチワワ君が言ったとおりよ。…あの時もそうだった。ターゲットは貴族の男ただ一人。でも私達のマスターは痕跡を完全に消すためにその家の人達を皆殺しにしようとしたわ。…それに反発してたからでしょうね。…失敗して捨てられたのよ。」
『だから
全てを聞き終えた織はまた少女達に問いた。
ステッカは目を伏せ、シールは自嘲気味に笑って答えた。
「影喰いのリーダー、実は私達の元マスターと繋がりがあってね…手伝ってリーダーの願いが叶えば私達を元の暗殺集団に戻れるようにとりはからってくれるのよ。それが私達の願い。」
そこでピクリと反応していきなり人の姿になったソフィアは口早く急き立てた。
「ニックさん…あの娘達の話しは矛盾が多すぎです。…貴女達もそこまで…気持ちではやりたくないと思っているのにどうして戻りたいなんて…」
すると突然、テンションの低い感じだったシールが始めて感情をむきだして、叫んだ!
「私達だって戻りたくないわよっ!!!
…でも私達はずっとその世界で生きてきた。
だからその生き方以外、分からないのよっ!私は特に分からない。…貴女のようにいかにもな感じで人を助けられる訳でもない。傷つけて、殺して…私達は明るい世界で暮らしてはいけないのよ!!!」
「…そんな…」
その目にはいつのまにか涙が流れていた。
妹は顔を伏せていたままだったが小さな雫が同じリズムで地面に落ちて溶けていく。
落ち着いた、静かな印象を受ける美しい紫色の髪のせいだったのだろうか。
織はそこで初めて彼女達の静かでは無い、心の底で揺れ動くアツイ何かを感じた。
シールとステッカは暫くした後、涙を風に流して改めて織へと向き直った。
「話しはここまでよ。…改めて貴方達にはここで消えてもらう。私達のこれからのため…はあああああぁぁぁぁぁっ!」
『こ、これは…』
シールとステッカは声を揃えて雄叫びを上げた。そしてステッカは鎖の姿になり、織の周りを建物ごと、全てを包み込むかのように鎖をありったけ張り巡らしていく。
ジャラララララララララッジャヤヤヤヤ…
キリキリと金属が擦れる音が鳴り響く。
織は気がつくと右も左も上もあらゆる所が鎖で囲まれていることに気がついた。これはまるで-
『リング…じゃねーか』
人が大きく動くには狭すぎて、人をなぶるのには丁度いい広さと奥行き。
おそらくファリアナは振り回せないと織は直感で思う程の物だった。
「どうかしら私達特製の処刑場は?一気にかたをつけさせてもらうわ…」
そうして今度はステッカへとチェンジした。
彼女の瞳にも何かが吹っ切れたのだろうか?
迷いの色は一切ない。
『…アイツらこの逃げられんねぇ空間で鎌を雨、あられのように投げようってか?…対して織はリーチがあってやりづらい槍装備。…まずいぞ織!』
リングから逃れたニックは血相を変えて織に叫んだ。
見ると織の顔にも緊張がはっきりと現れていた。
「主人様…このままでは…」
急いで槍になり、織の手に収まったソフィアが焦りながら方針を聞いてきていた。
(ファリアナどのであればおそらくこれしきの檻、『波動』で一網打尽にできるが……こうなれば…)
『ソフィア殿っ!』
「は、はいっ!」
織は腰を屈めながら、足をひき、体勢を整えながら力強く言い放つ。
『一か八かの大勝負で、ござるよ!』
「…っはい!お怪我は私が直しますから!」
「どうやら、算段は整ったようね。それが無駄だとその身で知りなさいっ!!」
鎌の姿のままシールが叫び攻撃が始まった。
逃げ場は無い。引くこともできない。だが眼前にはさき程の倍以上の鎌が増え続けながら織へと迫る。ならばやるべきことは一つ、と織は-
『届け、この一槍ッッ!』
地を蹴り真っ直ぐステッカの元へ跳んだ。
ザクッッ…ザクッッ
『ぐ、ぬうううう…』
一つ、また一つと織の皮膚を髪を体を切り裂いていく!さらに-
「主人様!?後ろですっ!!」
ソフィアがはち切れんばかりに声を上げて主人の危険を知らせる。
『くっ…なあああ…』
弓のように、弾かれたボールのように鎖に反射した反動を利用してなんと鎌は
「無駄よ。私達はその反動した先の鎌の動き全てを把握している。読みきれないわっ!」
中はまるで当たりクジが風で舞っている抽選箱のよう。
増え続けた鎌がとうとう織をすっぽりと覆い隠そうとしていた。
『くっ…う…ああっ!…はぁ、はぁ』
鎌によって作られた風が赤く染まっていった。空中に飛び上がった織だったがとうとう地面に叩きかけられるように倒れこむ。
「主人様ぁぁ!!」
「もう、諦めてください。地面にももう、逃げ場は…」
ステッカも暗い表情で消え入るような声で言った。
しかしサムライはそこで立ち上がる。フラフラとガタガタと震えながらも。
しかし、そこで織の体が淡く光、みるみるうちに傷が塞がっていった。
「そんな…傷が…」
「あの金髪の能力でしょうね。」
しかし、鎌の嵐はまだまだ止むことを知らないかのように新たな傷を織に刻み込んでいく。
『厄介なモンでござるなこの檻は…』
「何、呑気に構えているのですか!傷は治せても永遠にとは…」
ソフィアの能力は『治癒』。
織の魔力を消費して傷を治す能力だ。どちらかと言えば自己修復に近い。だが魔力が切れればそこで終わりなのでずっと直し続けるのは不可能なのだ。
『承知しているでござるよ。…しかし、…やはりソフィア殿はファリアナ殿とは違う頼もしさがあるでござるよ。いつも助かっているでござる。』
「えっ…そ、そんな急に…あ、いやでもお役に立てて嬉しい、です。」
もしも人の姿なら顔を真っ赤にして目を泳がせていただろう。
それほどソフィアの声は上ずっていたのだ。
『それに手はあるでござる。今度は三回穿つのではない。正真正銘の一撃でござる!』
そう言って織はソフィアを顔の近くに沿わせるようにして構え、弓で的を狙うかのように鎌の攻撃を気にも止めず、照準を合わせていく。
いつぞや見せた
「血迷ったのかしら?動かなくなったわね。」
「そう、だね。…あんなに皮膚を切り裂かれてるのに…」
見立てどうり、織の体はどんどんぼろぼろになっていく。勿論服まで直せないので、徐々に皮膚が見える面積が広くなっていた。
たが、サムライの心は揺るがない。
痛みに耐えているのか?諦めたのか?それとも-
そして織はカッと目を見開き、血が滴る右腕に力を注ぎこむ。
胸を、背を反らして力いっぱい少女の右斜め後ろを狙って放った!
『瞬、華…愁刀流……
ブンッ…シューバキバキバキバキッー
織の放った槍は見事に命中。
その間二つの音がしていた。
「おねーちゃん!槍が…そ、それに…」
「落ち着きなさいっ!狙いはそれている。…でも鎌を全て撃ち落としてくるなんて…」
一つは鎌を砕き突き進む破壊の音。そしてもう一つは-
バキバキイイイイイイイイインッ-
「そんな、まさかあの人…」
「鎖の檻を壊そうとしているのっ!?ありえないわっ!」
後ろにヒットした回転のかかった槍が張り巡らされた鎖を引きちぎる音だった。
流石のシールもこれには冷静さを保ってはいられなかった。いつのまにか鎌の嵐が止んでいた。
「主人様…これは…」
『はぁ…はぁ…いや、何、拙者は見ていただけでござるよ。張り巡らされた鎖は一つながりでござった。ならばどこかを巻き込みながら破壊すればこの檻は壊れるのではないか?…そう思い試しにやってみたんでござるがこの勝負、拙者の読み通りでござるな…』
織のその言葉に呼応するかのように、鎖のリングはとうとう全て引き千切られ、バラバラと落下を始めていた。
「うっ…ああああああ…」
「ステッカ!!」
鎖を一つ二つ千切られたところで実際はステッカにダメージは無い。だが今回は流石にダメージをくらったようでその場によろけてしまい、慌ててシールが駆け寄り体を支えた。
が…
「「えっ……」」
砂煙りを潜り抜け、傷が完全に塞がり服だけが不自然に破けたサムライが槍を突き立ていきなり二人の目の前に飛び出したのだった。
その目は間違いなく…
(こ、コイツ本気だわ…や…やられる…)
咄嗟にシールはステッカをぎゅっと抱きしめ目を伏せた。
死を恐れたことは無かった。
彼女が一番恐れたことは妹が傷つくこと。ただそれだけだった。
だがどういう訳かシールはいつまでたっても痛みを感じなかった。同じように目を閉じていたステッカと同じタイミングで目を開けてみると-
『せいっ!!』
バンッバンッ
「いっつ〜な、なんなの!?」
「ひゃうっ…」
織の両手チョップが双子の頭に同時に振り下ろされたのだった。
『バカを言うんじゃぁないでござるっ!!』
「「??????」」
二人は完全に混乱して顔を見合わせながら二人ともが全く同じ表情で織と自分達を交互に見ていた。
織は続ける。
『この世界でしか生きられないとか…人を殺めることしか知らぬだとか…そうじゃないでござろうっ! お主達はあの場であの小僧を巻き込まなかった。確かに街を荒らしてしまったかもしれぬが、誰も無関係の者を傷付けなかった!大事なのは、自分のやりたい事に向かっていける正しく強い心を持つ事でこざる!!お主達はもう既にそれを持っている。過去は忘れてはならない。だが、新しく歩み始めることは十分できるはずでござる!』
「「………!…それは…そんな…む、無理…」」
織は畳み掛けるように少女達に言い放つ。
『それはいわゆる“逃げ”で、ござるよ。誰しも、もちろん拙者も何か新しい自分になるのはとても怖い事でござる。』
シールとステッカは何も言わなかった。
ただ黙って目の前の男の言葉を聞いていた。
すると、織はにっこり笑ったかと思うと二人に背を向けて地面に降りた。
振り向きざまの最後にまた一つ。
『拙者が絶対に保証する…と言ってもお主らは信じないでござろう。だが過去の自分を忘れず、新たな道を模索してほしい。大丈夫、いざという時はお墨付きを与えた拙者も責任を持ってお主らに付き合うでござるから。』
「…っな、なんなよ貴方」
「わ…わわわわ」
赤面して慌てる二人をのこしたまま織はニックの元へ歩き出したのだった。
『キザな野郎だぜまったく。しかも素でやってるのがなおタチ悪りぃよ…』
「まったく主人様ったら…まったく…もう」
茶化すニックとどこかふくれっ面なソフィア。だが二人は直ぐに優しい笑顔を織に向けた。
『やはり、些かクサかったでござるか?…なにわともあれ一件落着。さて、ファリアナ殿もそろそろ………』
ピ、ピリリリリリリ、リリリリ
『む、電話でござるか?』
織は懐で鳴っている携帯に気づき取り出した。
『毎度、毎度思うけどよ…その携帯何でできてんだ?あんだけの攻撃受けてよく壊れねーよな。』
ニックは呆れたように軽口を叩いた。
ヒーローに休息はないと言う言葉を聞いたことがあるだろうか?
織の電話はフーリ・ワン・ハードからのものだった。
その一報は新たな戦いを告げるものであり、そして織の心を、手にした携帯を落とすほど激しく揺さぶった。
「主人様?携帯を落として…そしてその顔色…何かあったのですか…」
織は目を見開き、ソフィアの方を振り向きもせずに覇気のない声で淡々と告げた。
『……ふ…ファリアナ殿が何者かに…
ニックとソフィアもその場に立ち尽くした。
ダレイオリーの雲は本当によくできている。
またも不穏な色に染まっていた……
-ダレイオリー皇国、南西部一の大きさを誇る海辺の廃ビルにて-
『テメェらは一体何様のつもりでこの場にいるんだ?あ?』
とある大広場。廃ビルの一角にある一番広い最上階の部屋。
廃…がつくだけあって照明やカーテン、椅子や机などが残骸へと姿をかえていた。
すぐ下に広がる海の波の音と割れたガラスがついた窓から差し込む夕日の光で部屋は満たされていた。
声の主は日の光が届かない奥であぐらをかいて座っていた。
『何様…か…我らは
相当な年季を感じさせるベテランの男が奥にある男に睨みをきかせた。隣に集まり控えている部下の男達もニヤニヤと笑っていた。
すると奥の男はやれやれと言わんばかりに手をヒラヒラと振り、嘲笑うかのように言い捨てた。
『そうかい。まぁ言葉を返すようだが先輩方、アンタらものぼせ上がるのも大概にするんだな。役不足だ。』
『貴様ァ…舐めた口を叩いてんじゃねーぞ!』
部下の一人が怒りの形相で奥の男に歩み寄ろうとした。その時、その隊全員のインカムに通信が入る。
『こちらA隊、こちらA隊。現在玄関フロアに対象到着。戦闘体勢完了。これより、幕を上げる!繰り返す、これから幕を…なっ…え…ば、バカ…うわああああああああっ…ザッザザザザザッザザザッザザザ…』
『おいA隊?A隊!!応答しろ…クソッ…おい、まさかB、C、どうなっている?』
インカムの声が途切れたのに焦った部下は慌てて隣の男な声を荒げる。
『だ、だめだ…B隊全て応答なし…』
『し、C隊なら辛うじて…おい、どうなっている!?状況を説明しろ!』
すると激しいノイズ音の向こうから今にも消えそうな報告がされる。
『ざ、ザザ…あ、ありえません。対象、信じられない…ザザ、ザ…ス…ザーッ…ドで動いて駆け上がっています。ぜ、全隊…ち………んもく……間近…意識を刈り取られて気絶させられていますっ!!ピーーーー』
ベテランさんの男も信じられないと言う顔だった。
現在集められたのは演劇隊の中でも上位に位置する手練れたちだ。だがものの数分とかからずにあっさりと片付けられてさらにその対象、サムライはどんどんこの、五階の大広場まで駆け上がってきているのだった。仕留めるどころか足止めすら叶わない。
『言っただろう。役不足だと。』
『…くぬぬお前たち構えろ!何、ここで打てば何も問題はないっ!』
この作戦のチームリーダーであるベテランの男が残りの部下四人に声をかける。
このままならおそらくD隊の全滅も時間の問題だとわかっていたからだった。
『………………。』
静寂に包まれた部屋。
あぐらをかいていた男もいつのまにかドアの方へ鋭い視線を送っていた。
ド…ドドドドドドッドドドドドドド…
足音が聞こえ始めた時、リーダーの男は指示を飛ばす。
『オーラヌ!奴が扉を開けたその瞬間先手を取り仕掛けろ。しくじっても問題はない。すぐに我らの連携で畳み掛ける。』
『了解!!』
そうしてオーラヌと呼ばれた男は扉近くに忍び寄りその時を待つ。
そしてついに-
バンッッ
扉が壊れんばかりに勢いよく開かれた。
そうしてオーラヌは飛び出す。
『かかったな!これで終わりだ!シャラァァァッッッ…』
『瞬華愁刀流-
ドバアアアアンッ
オーラヌはそのまま横の壁へと叩きつけられ気絶した。すごい威力だが手加減していたのかオーラヌの息はあった。
そこで織は初めて足をとめる。
『っ…奴の動きが止まった…今だ…行くぞっ…はあああ』
号令につられるような形で飛び出した暗殺団の一員達。彼らの連携もさることながら見事でスキがない。完璧だった。
このサムライ以外には。
『お、、俺は夢でも…はは見てんのか?-』
一人の男がかき消されながら、声を上げる。
織は一陣の風の如く全ての攻撃をかわしながら通り抜け刹那、一人一人の急所を突いて気絶させていった。少しの無駄もない精錬された動き。
そうして奥へと進んだ織は残りの一人を、見つめ静かに口を開く。
『ファリアナ殿は無事でござろうな?』
するとその男は静かに奥の柱を指差した。
そこには荒縄のほかになにかの魔術式が施された光の輪で縛られてくくりつけられているファリアナの姿があった。どうやら気絶しているようだ。
織はそこで胸をなでおろし、細かな分析を始める。
『なるほど。【心話】が使えなかったり、呼べなかったのは恐らくその光る輪のせいでござるな?』
そこで男は静かに笑い口を開いた。
『ご名答。今はお前たちの所で世話になっているマイビスが残していったものだ。スピリードや魔術的な物を一時的に封じる。外部の損傷に弱いがな。さらにもう一つ。これだ…爆殺の術式だ。』
『爆殺の術式だと!』
織は声を荒げた。
確かによく見るとファリアナの体にも何かの魔術式が浮かびあがっている。
『これは俺の意思で作動可能。つまりコイツの命は今や俺が握っている。調べてみるとお前が一番本気を出すのは恐らくコイツだ。そう、今からお前は俺と真剣勝負のタイマンをやってもらう。そのためのエサだ。』
かけているサングラスからもはっきりと分かるほど危険な目をしていた。
『拙者のいわば武器であるファリアナ殿を人質にとって真剣勝負とは異な事を。それにお主はそんな柄ではござらんだろう?【
タイエンはまたも笑って先を急かすように続けた。
『流石。なら話しは早いな。慣れていないとはいえ、相当な使い手だと聞き及んでいる。あの槍をここへ喚ぶんだな。』
しかし、織は腰に下げていた剣を抜いて相対した。
『どういうつもりだ?』
しかし、たいえは注意深く見るとその剣はただの剣ではなく、スピリードほどではないにせよ、魔力が練られたかなりの業物であることに気がつく。
『いや、これ以上拙者の大切な仲間を危険に晒すわけにはいかないのでな。今回はいつぞやの鉈とは違う。お主からも相当なものを感じる。だが!ファリアナ殿は返してもらうでござるよ。』
するとタイエンは指の関節や首をゴキゴキと鳴らしながら、静かに力を抜いたような構えを取った。
『アンタほどの腕なら問題ないだろう。こちらが武器を奪っておいてなんだが…後悔はするなよ?そして俺を楽しませろ。』
『それはできぬ相談でござる。そちらこそ、拙者の大切な仲間を弄んでタダで済むと思わぬことだ。』
織は今までで、この世界に来て初めて見せるほどのほとばしる怒りと鋭い殺気をこれでもかとたぎらせていた。
『『いくぞっ!!!』』
二つの闘気が激しくぶつかった。
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