第4話 道は自分で切り開け

『はぁぁぁぁっ!』


「ちょっ、前、前から来てるから!」


『分かってるで、ござるよっ!』


ブンッと織は大きく大きな刀を振り払い、

目の前の敵を薙ぎ払っていく。

そこで刀でありながら意思を持ち、織の初めてのパートナーであるファリアナが織に文句を叫んでいた。


「アンタ、反応遅すぎなのよっ!…ほらまた前から来てるぅ!違う、右からじゃなくて…だから前だって言ってんでしょ!」


織は目の前の敵を斬って、切って、叩き潰してからファリアナに反抗した。


『指示はありがたいが、さっきのは先に右からの敵を片付けて、その流れで前方の敵と対峙した方が効率がいいのではござらんか?

……それになんだかんだ言ってもやっぱり

ふぁりあな殿、重いでござるよ…はっ』


すると織の手にあったはずの大剣はいつのまにか手の中を離れ、少し光ったかと思うと

活発そうな少女に姿を変え、自分達の敵などお構い無しに…


『誰が…ダレが…重いですってぇ!!!』


『ま、待つでござるよふぁりあな殿、拙者が悪いが今は……ぐふぇぇ!』


使い手あるじの顔を全力で殴り倒したのであった。

戦闘中しかも緊縛した状況で突然に武装解除に近い行動をとるとどうなるのか?

答えは明白。そのまま敵の群勢に押し潰されるだけである。


『「あっ」』


二人の声が重なり、そして掻き消えた。


今回の依頼、タムの村の入り口に度々出現したの討伐クエスト。

簡単なはずなのにあっというまに雑魚モンスター達に取り囲まれリンチの様になった二人を見て、上空から見ていた織のサポート妖精ニックは目を抑えていた。


所変わってタム村の小さな食堂。ファリアナと始めて出会い、決闘したあの街を後にして何日か歩きこの小さなタムと呼ばれる村に行き着いたのであった。二人はしょんぼりとし、並んで座り対面に座っている少し目の据わったニックをチラチラ見ていた。

そこでニックが口を開く。


『お前、ホントサムライ辞めちまえよ!』


『い、いきなりでござるなぁ〜』


ヘラヘラと笑って見せたが、すぐに顔を引き締めた。少し前の戦闘で全然発揮されなかった直感を使ったのだ。


『はぁー。俺も色々な奴見たり、担当したりして来たけどお前は格別になんていうかダメダメだな。それにファリアナ、普通スピリードがしかも戦闘中に勝ってに人の姿とるか普通?後このクエスト普通の大人が20人くらいいれば片付くぐらいの難易度だったんだぞ?』


ニックは呆れながらさらに酷い真実を突きつけた。そして


『この前の戦闘のお前はどこ行ったんだよ?

なんとか流使えば楽勝も、楽勝だろ?』


すると今度は逆に織が目を見開き、胸を張り高らかに告げた。


『己の力量をはかり知ることもまた立派なサムライの力の一つでござるっ!』


「おお、なんかカッコいいなぁそれ!」


ファリアナも共感し、ふたりそろってうんうん、と頷いているとニックがとうとう椅子の上に立ち上がった。


『それじゃあ余裕でお前、サムライ失格じゃねーかっ!!!(怒)』


『ハッ、はいでござる!』


織も同じように勢いよく立ち上がったのだった。


『まぁもういい。終わっちまったことを言っても仕方ねーしな。それよりも大事なのはこれからの事だ。…』


席について、飲み物をあおって落ち着いてから改めてニックが切り出した。


『で、織。お前はこれからどうしたいんだ?

一応武器も手に入れたし、本格的に動くこともできるわけだが…それにそうなってくると、他の国に行ったりギルドに所属してみるのも一つの選択肢となるわけなんだ…』


ちなみに三人は大きく言えば、ダレイトリー皇国と呼ばれる国にいる。皇族達が代々国を治めており現在は高齢のダレイトリー18世が統治しているため、近々王位の継承が行われるとも言われている。

もちろん魔皇帝を倒す旅に出るということは仲間を集め、世界中を旅しなくてはいけなくなる。つまり今はまだまだ始まったばかりの所ということなのだ。


『うーん、拙者一人ではなんとも…ふぁりあな殿はどうでござるか?』


決めかねたので織はファリアナの意見を聞いてみることにした。


『そりゃあもちろん魔皇帝の討伐よ!逆にあたしなんかそれしかできなさそうだし…。』


確かに。とニックは思った。


『なるほど、ではそのように致そうか。拙者は元々なんでもいいでござるから。』


重要なことなので織には自分で出来れば考えて欲しかったのだが…

ニックは少し残念に思った。しかし


『ただ、何か人のためになるような本当の武士のような強さを持って弱きを助け、悪をくじく…何故かは分からぬがそういう事を一番に考え、これからやっていきたいでござる。』


ほぅと思い、ニックは織を見た。


(こいつ、案外考えてるじゃねーか)


アンタそれ本気で言ってんの?無理無理、偽善ぶってもなんの得にもならないわよなどとファリアナが笑い飛ばしているのを尻目にニックは少し感心したのだった。


「それじゃ、とりあえず確かこの国の中心のカラダッド?を目指せばいいわけね!」


ファリアナがそう言い、織も賛同して席を立った時、ニックが二人を制止する。


『いや、その前に少し寄り道して行こう。』


ニックは少し笑うとキョトンとしている二人にそう告げた。


ニックが提案し、案内した場所。それはタム村の鉱山のことだ。

タム村は村とつくだけあって人口も少なく、産業もこれと言って目立つものが無い田舎だが、鉱山から取れる珍しい魔晶石や、宝石の類は高価なものが多くカラダッドの貴族やダレイトリーの皇族に代々重宝されている。

その鉱山の一つを今回見て行こうと言うのだ



『すごい山でござるなぁ。何というかゴツゴツしていて岩とかが多い気がするでござる。』


「確かに。なんか普通の山とは違うわね。

少し魔力的なものも感じるし…』


二人は揃って上を見上げていた。

ファリアナが上は見えるのかと、少しジャンプしてピョンピョン跳ねている時にジャケットには収まりきらない豊満な胸がボールをついた時のように揺れていた。


“あっちの山もすげーぞ!”などと男共が歓喜してにやけた顔で見ていたことは言うまでも無い。


二人が驚いていたのも無理は無い。

標高はそれほど高くは無いが、周囲には木々があまり無く大きな岩や石が転がっておりどこかヒンヤリとした独特の空気が漂っていた。山というよりむしろ山脈に近く、存在感は有無を言わさせないものがあった。

一向が今いるのは現在あまり使われていない入り口の一つで、観光用となっている。

それでもあまり多くは無いが取れる時には収穫があるので、立派な観光地として機能して、タム村を支えている。


『それにしても観光などとにっく殿も粋な計らいを…素直に感謝するでござる。』


『いや、別に…この世界の一端でも見ておいて損はねぇーと思っただけだ。』


尻尾を左右に振りながら、ニックは明後日の方向を向きながら返事をした。


入り口に着いてみると、何人かの人だかりが出来ていた。


『おい、じーさん!後つっかえてるからグズグズしねーで先進んでくれよ!』


『おお、すまんの』


声をかけた男は長身の男だった。右側には彼女だろうか?女の人が隣にいた。

じーさんと呼ばれた男は、白髭が似合う少し背の低いお爺さんだった。

そうしてカップルは奥に入っていった。


『そこなご老人。何か見ていたのでござるか?立ち止まっていたようだが…』


『い、いや少し懐かしくてな。ここで取れた物を少し…邪魔じゃっただろうか?』


老人は申し訳なさそうに聞いた。


「いやそういうわけじゃないのよ!?コイツデリカシーとかあまり考えないから…ちょっとアンタも弁解しなさいよっ」


『す、すまんでござる。』


織の親のようにファリアナが頭を持ち頭を下げさせた。


『そうだ…ここであったのも何かの縁。ご一緒しまいか?』


『よろしいのか?ふぉっふぉではお願いいたそうかの…』


こうして老人を、加えた四人は歩き始めた。

老人の名をウィルと言い、軽い話を交えながら坑道を歩いていった。


『まだお若いのに物腰がしっかりしておる。それに口調も…もしや召喚された人ですかな?』


『はは、まあそうでござるよ。拙者は雛方織。こっちの人は拙者の相棒のすぴりーど、ふぁりあな殿。で、こちらの犬はにっく殿でござる。』


ニックは軽く会釈し、よろしく〜とファリアナは挨拶をした。


『うぃる殿は何処いずこから?』


『いや、わしは少し中央の方から…まぁ老人の余生を楽しもうと言うやつですよ』


からからと笑いながら、ウィルは少年のように笑った。

そして織の喋り方などを深く尋ねた。そうして…


『実は拙者はサムライというものをやってるんでござるよ。まぁ立派なものではござらんが…若輩ものの剣客でござる』


『ケンカク?とは刀を持つ人ですかな?

さればかなり腕が立つのでは?』


ウィルが前のめりで聞いてくるので織は少し驚いていた。


『いや、凄くというほどのものでは…』


「まぁアタシのお陰が一番あるわね。」


『ほほう是非ともお力を見てみたいものですな』


そうこうしている間に、開けた場所にでた。

穴などはないのに薄く輝く神秘的な空間だった。


『俺も始めてきたがなかなかいい場所じゃねーか!』


鼻をクンクンしながら呟くニックを織は微笑ましく見ていた。

ウィルはと言うと…


『なるほど…ここで採れたものが、…』


えっ、と織はもう一度ウィルに聞き直そうとした時、突然壁の一部に亀裂がはしり、ガラガラと音を立て始めた。


『な、ななんでござるか!?』


「どーなってんのよっ!」


壁だけでなく、空間そのものも揺れ始め立っているため立っているのがやっとという状況に暫くしてなってしまった。


『まさかっ、崩落するのか!?』


ウィルがシワが刻まれた目の当たりを大きく見開きながら叫んだ。


『いやじーさんそれはありえねぇ。ここは深度も浅い方で崩落、崩壊なんてここ何十年どころか一度とも起こっちゃいねぇ!いや起こるはずがねぇっ!!』


ニックは首をせわしなく振りながら、周囲の状況を確認して反論したその時…

とうとうダイナマイトを爆発させたような激しい音がしてさらにあたりの澄んでいた空気は一瞬で視界の悪く呼吸しずらい土煙と化し、天井はまるで皿を落とした時のように散らばりむざむざとおちてきていた。


崩落が始まったのだ…


『やべぇこのままじゃ生き埋めだ…

ぼさっとしてねぇで脱出すんぞ走れぇぇ!』


体の小さなニックが先導して道を示し、一向は脱出しようと駆け出した。


『むぅぅ、くぅぅ…』


じーさん!とニックが叫んだ時にはウィルは派手につまずき道に転がった。どうやら目の前に落ちてきた、落石に怯んだ時に体勢を崩したようだった…


『うぃる殿ぉぉぉぉぉぉっ!!』


織が大きく切り返し、落石が大きいものから小さいものまで雨霰のように降る中を走りウィルの元へ駆け寄っていた。


「ちょ、アンタなにしてんのよっ早く来なさいっ!…あっ…」


ファリアナが叫んだ時にはすでに遅く、一際大きな岩がおちてきて織たちの最後の帰り道を絶望的なことに見事に塞いでしまった。


「織ィィィィィィィィィィィィッ!」


ファリアナが激しく狼狽えたようにその岩に駆け寄ろうとした時、後ろからニックに体当たりをされた。


『ひとまず、ここから出るぞ!いくらスピリードのお前でもタダじゃすまねぇ』


ファリアナも少し冷静になったのかニックを拾い上げ、大人一人ほどの大きさの光を目指して走り出した。


(またなのか?また俺はこうやって取り返しのつかないことを…)


ニックの悲痛な顔を確認できた者は誰もいなかった。




崩落して少し経っただろうか?

織は目を開けると今の状況を確認した。

横にはウィルがうつ伏せで寝ていた。


(どうやら、岩と岩の間のわずかな隙間に入って助かったようでござるな)


『っうぃる殿!うぃる殿!起きてくだされ』


織は肩を揺さぶり意識を確認した。

どうやら外傷はなく意識を取り戻しつつあるのを見て安心した。


『むっ、うううう…ここは、わしらは一体どうなったんじゃ?』


『どうやら、間に入ってなんとか生きてるでござるよ…』


改めてあたりを見回すとギリギリだった。

高さはなんとか立てるほどで、奥行きも本当に大人二人が入れるほど。

注意して耳をすますとミシミシと岩岩は音を立てていた。依然として危険な状況らしい…


『ふふ。これが人生の終わりを迎えると言うことかの…』


ふぅーとウィルは息を吐きながら突然小さな声で呟いた。作業着のような服はやぶれ血が所々滲んでいる。そうしてさらに続ける。


『すまんのぉ…シキ殿はまだまだこれからだと言うのにこんな老いぼれのために明日への道を塞いでしもうて。今のわしには最早なんとか謝る事しか叶わんよ…』


ウィルの顔からは、諦めにも似た何か安らかなものがあった。そう、まるで思い残した、清々しい微笑を携えていた。


しかしサムライは老人の覚悟をさらりと受け流すように話し始めた。


『いや、まだ諦めるには些か早いでござるよ?』


『…?一体どう言うことじゃ?』


ウィルが不思議そうに体を起こして尋ねると織はゆっくりと立ち上がり手を少し横に広げて語り始めた…


『年の功という言葉があるように、人生を長く生きこの世を回してきた功労者であるあなたのような人を諭すのも恥多き事でござるが…』


『簡単な事。道が無くてどうしようもないなら自分で切り開くまででござる。………ファリアナぁぁぁぁっ!』


いつか見た光景を思い出し、織は夢中で右手に意識を集中させていた。ウィルは驚いたように固唾を飲んでいた。

すると、織の右手にスルスルと光の渦が巻き、絶望の闇を晴らすように光輝く刀身の姿でファリアナが顕現した。


「はぁぁヒヤヒヤしたわよ…余計な心配させないでよね!…後でぶん殴ってやるから!」


『いやぁ、すまぬな。後、勘弁してもらえぬか?まぁ今はなんとか上手くいってホッとした。…頼りにしてるでござるよ?』


織はニッと少し笑った。


「ば、ばか言ってないでさっさとやりなさいっ!』


そうでござるなと織はどこか声が上ずったファリアナを改めて構えた。そうして後ろのウィルに向かって


『うぃる殿、拙者の背中にしがみついてくだされ!後、目を瞑りなるべく身を屈めて。

…これからここを斬り抜けるでござるっ!』


ニックは言われた通りにするがやはり不安が取り去られないのだろか?焦った声でもう一度尋ねてきた。


『本当に出られるのか?どうやって!?』


しかし織からは答えが返ってこず、代わりにひどく落ち着いた声が、静寂の中を打つような…声が聞こえた。


『瞬華愁刀流 春型 -霞桜!』


ウィルは自分の目をひどく疑っていた。

先程までどうしようもなく立ち塞がる大きな岩がまるで紙を裂くように砕けて霧散していた。ただ単に似つかわしい大刀を一人の少年が岩に突き刺しているだけのようなのに…

あたりが明るくなってくるのが分かる。

少年は歯を食いしばり、力一杯岩に向かって突き立て、走り抜けていた。


(これが、サムライ。これが雛方織。)


あたりが完全に明るくなり、太陽と改めて対面したウィルは心の中で確信し、そっと覚悟を決めた。


(この少年なら、このサムライならば。

…きっと任せられる…)

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