第3話 その剣、春の日の如し

決闘が始まり、3分程がすぎただろうか?

両者一進一退の攻防を見せている。とくにスピード感溢れる戦いとは言えないが剣と剣が交差する独特の音が辺りに響いていた…


一旦距離を取り、体制を立て直した織はおもわず呟いた。


『しかし、自分自身も驚いたでござるよ。

初めて扱う方などでござるが、。さらに心なしか体がいつも以上に動く。こんな刀を振っておるの…』


「重い、言うなっ!』


すかさず、ファリアナのツッコミが入る。

スピリードの声は使い手には聞こえたるのだ。そこでニックはその耳を活かし、聞こえてきた織が抱いている疑問に答えることにした。


レゴなスターこっちに来る奴全てがお前のように元々戦士っていう訳じゃないんだ。そこでそういう奴らの救済処置として、まぁ個人差はあるがある程度身体能力や体の頑丈さが上がるようになってるんだよ。』


『なるほど。それ故この様なお…』


突然織は背中に寒気を覚え口をつぐんだ。

サムライの学習能力は意外と高いようだ。


構え直した織にニコライは迫りながら叫んでいた。


『おしゃべりしてていいのかよ?こっから先は本気マジで行くぜぇ!』


『くっ…』


ギンッ、ギンッバチィィィンと激しい音を立て二人は肉薄していた。辺りには刀から飛び出た火花が冬の日に降る粉雪のように舞っていた。防御一辺倒の織に対して、ニコライは小回りを活かして体を左右に揺らしながら撹乱しつつ、様々な角度からの斬撃を繰り出しそして織の間合いから離れる。俗に言うヒット&アウェーの戦法をとっていた。

そもそも、ファリアナの本来の使い手はニコライなのだ。しかも自分のオリジナルのスピリードなので性能は誰よりも熟知していた。


〈あの長さだ普通の剣に比べてかなりの重量はある。まあそんなことは俺がよく分かってる。だからこうして小回りを活かして攻めてるんだよ。クックク、この決闘チョロすぎるな。〉


まるで織はサバンナの草食動物のように、ニコライのハンターのような鋭い攻撃にただただ耐えていた。このままニコライにが攻めきって勝利を手にするのかとニックは歯噛みした。がしかし、異変は徐々に現れ始めていた。


『ハァ、ハァァ、ハァ……クッソ!なんでだ、さっきから全然攻めきれねぇ!それ……に、一発もまともに入ってねぇじゃねぇかッ!!』


ニックは改めて織を見てみると、確かにと、納得した。切り傷は肩や肘、頬に確実についてはいるがダメージというほどのものではない。


『はぁぁぁぁっっ………』


ニコライがもう一度、乱撃を繰り出した。

迫り来ているが、織は動じた様子もなく静止していた。もちろん構えは解いてはいない。


〈そうかアイツ………〉


ニックが何かを気づいた直後、決闘は進展を見せる。さっきよりも格段にスピードが落ちたニックの攻撃を織は大剣の先で少し重心をずらし、隙を生み出していた。


『なっ……………!?』


『おおおおおおおぉぉぉぉっ!』


織は右足を半回転させ後ろに引きながら、左足に体重を乗せ素早く左に半回転したかと思うと、遠心力に任せ両手から右手一本に持ち替えファリアナを振り払った。


『ぐっおおお…』


ニコライを後退させることに成功した時

ファリアナは織に尋ねていた。


「一体どうやったの?あたしはてっきり防御ばっかりで攻撃に中々移れないんだとばかり…」


『それは確かにあったでござるよ?だがいて言うなら、機会をうかがっていたんでござるよ。大剣を構えた事はないが、原理は単純。振り回すと逆に己が身が先に持たぬ故、んでござる。そうすれば相手が先にまいり、後からの遅い攻撃でも相手に届くという訳でござる。』


そうは言ったが織は何か違和感を覚えていた。


〈これほどの大剣、回転して力を加えたならかなりの重い一撃になったはずなんだが…あまり手応えが感じられぬ…〉


その違和感は的中したように、ニコライにはほとんどダメージがなかった。しかも不自然なことにニコライの辺りには


『危ねぇ、危ねぇ。しかしまぁやってくれたじゃねぇか。』


『不安は的中、でござるか…。だが一体どうやったのだ?さらにこの氷の粒は…』


流石に動揺していた織にファリアナが苦々しく語りかけてきていた。


「……それはあいつのアイレス、スピリードとしての能力のせいよ。

アイレスの性質は氷。おそらく、瞬時に氷の障壁を展開してさっきの一撃のダメージを軽減させたんでしょうね…。」


『ええっ!そんな物最早刀ではないではないか!』


「…あんた、あの犬の話ちゃんと聞いてたの?スピリードは特殊な兵器なのよ?」


そうは言ったがしかし、と反論している織を尻目にニックはとりあえず自己責任だと思うことにした。

今度もニコライから仕掛けて来た。スピードはさっきよりも遅いが何かを企んでいるようだと織は直感でそう思った。


「っ来たわ!でも攻撃パターンはさっきと同じみたいね…それならさっきと同じようにまず守りを固めて隙を伺えば…いける!しっかり見極めなさい。次は入れてやる《叩き込んでやる》わよっ!」


“ぱたーん”の意味がよく分からなかったが、言われずともと織は思った。

〈それにしても、使う刀から直に指示を仰ぐとは…いささか珍妙な感じでござるな…』


そう思いつつも織はニコライとアイレスの初手を後方にいなしつつ、体制を立て直し、隙を見つけたため攻撃に転じ始めた。しかし、その直後織の背中に鋭い痛みが走った。


『ぐっっなに! ?』

「何事なのよ!平気?』


目を開けると、背中があったであろう場所に巨大な出現していた。大きさは織よりも大きく、周りの太さも太く先は大きな針のように鋭利に尖っていた。

織の背中は着物が盛大に破れ大きな傷が赤々とできていた。

その後もかわす度にどこからともなく氷柱が現れ、織の体を傷つけていき、気がつくと織は荒い息をする上げボロボロになっていた。


『見たかっこれがアイレスの真の実力、【氷の踊り場ダンスホール】だ。精々派手に散りながら踊り尽くせ!』


ニコライはアイレスを地面に突き刺すと、一斉に地面から出てきた氷の刃が織に襲いかかる。逃げ場などなく


『ああああああ、なん、のこれしきっ!』


まともにくらってしまい、ファリアナに体を預けなんとか立っている状態にまで追い込まれた。


『く、ハァハァ、フー死角なしの容赦のない攻撃。回避は不可能でござるか…こういう時はふぁりあな殿、どうすれば?』


血をしたたらせ、肩で息をしながら織はファリアナに尋ねた。すると


「ごめん。…やっぱりあたしのせいなのよ。

自分でもわかってるの。能力も大して凄くなんかないし、こんな大きさじゃ、誰とどのスピリードとやっても勝ち目はないことぐらい。あいつの言う通りあたしは役立たずのガラクタなのよ。そう呼ばれても怒る資格なんて無いわ。」


人の、少女の姿をしていなかったとしても織はファリアナが自分を責め、暗く沈んでいた事が分かった。織はそうしてこう声をかける。


『なにもふぁりあな殿一人の責任ではござらんよ。それに拙者思うに、この大きさこそ逆にだと思う思うでござる。


「えっ……」


『確かに小回りが利かないことや、どうしても速い斬撃を繰り出せないのは痛い事でござる。しかし、拙者も他の武器や人間も皆等しく人知れずなにかしら欠点を抱えて生きているもんでござるよ。だからこそ皆手を取り合い協力して大事を成していく。サムライと刀のように。いくら技量があっても第一刀が無くては侍は話にならぬし、刀も使い手がいなければどんな名刀でもただ朽ちてゆくのみ。

要はお主が拙者の刀である以上、決して一人ではござらん!と言う事だ。だからそう、気を落とすもんではないよ。』


ファリアナはただ聞き入るのみだった。今まで一度も言われた事がなかった、“一人じゃない”。契約もなにもしていないこの男に言われた事がファリアナの心に安らぎを与えていた。


〈こいつ、こんなボロボロでも人の心配をして励ましてくれてる。喋り方なんて古臭いし、こっぱずかしいけどなんだか凄く…〉


嬉しいな。


「ふ、ふぅんそれならあたしをしっかり使ってなんとかしなさい!あんたは一人じゃ何にもできないから、しかたなく、しかたなくよ?付き合ってあげるんだからっ!」


そうして織は笑い改めて叫ぶ。


『あい、分かった。任せるでござる!!』


ジャキとファリアナを構え直すのであった。


『向かってくるか…ならそろそろ最終局面といこうか!』


ニコライの前には三重、四重と氷の盾が展開された。どうやら自身に防御を固めておき、生成する氷のツブテで織を仕留めるようだ。


『行けぇぇぇぇーーーっ!!』


声と同時に地面、空中、右、左とあらゆる所から氷の槍のようなものが相手の体を刺し貫こうとまるで雨のように降り注いだ。死角はもちろんなし。回避は不可能だ。


『見せてやる。これが本当の剣術でごさる!』


そう言って織は刃の雨に


『うおおおおおおおおおおおおおお』


雄叫びを上げ織は駆ける、駆ける。

100と余の豪雨にも一歩も、ひと時さえも

怯まずに。

相手との残りの距離は約二メートル、そこまで迫りようやくニコライが、焦りを見せる。


『チィィッ、このまま押し切るつもりか!だが………』


そこでニコライは氷の障壁をさらに重ね厚くしていく。6、7重になったであろうか。


『この障壁でお前は必ず止まる。そこでこちらから攻撃して終了だぁ!』


ニコライは勝ち誇ったような顔で叫んでいた。対して織は傷を負って疲弊しているがその目にまだ光はあり、さらに


ギィィィィィィィィィィィィン、ズドォォォォォォッーーシューゥゥゥ。


二つの技は交差し、サムライの動きが止まる。そしてニコライが薄くほくそ笑み、この決闘に終止符を打とうとアイレスを振り上げた瞬間…


パリンッ、パリンッ


『なっ…』

『そんな、嘘だろ!』


ニコライだけで無く、同じように勝利を確信していたサガンの顔にも明らかな動揺が走る。


『言ったはずでござる。……一人では無理でも二人ならできると。世界が違えども、人が違えとも拙者は…こうして刀を振るうだけでござるよ。これが拙者の…』


パリンッ、パリンッ、パリンッパリンッ、

パリィィィィィィィィン


『ぐっぬぅぅぅ、ああああああ!』

衝撃に耐えられず、叫び声を残してニコライは視界からきえた。


瞬華愁刀流春型しゅんかしゅうとうりゅうはるがた霞桜かすみざくら。』


大剣一閃。氷が砕け、金剛石が飛び散るようなキラキラと輝く光の中で勝負は決した。



『こんなことがっ!あってたまるか。』


サガンは歯噛みしながら、人知れず呟いていた。

幸いにも織達がギリギリの所で寸止めしたため命に関わるような斬られ方はしていない。

丁度駆けつけた回復系魔法が使えるギルドメンバーに連れられて、気絶したニコライはこの場を離れていた。


『しかし、アレどうやったんだ?たかだか刀突き刺したぐらいであんな派手にならないだろう?』


ニックも少し原理がわかっていないようだった。


『霞桜のことでござるか?アレは“平突き”と言う所謂いわゆる突きの技でござる。

確かにただの拙者だけの技量ならあの氷の障壁を壊さなかったでござろうが…』


そう言ってチラッと織はファリアナを見た。


『なるほど、ファリアナの能力か…』


ニックはそこで得心したようだ。


聞けばファリアナの性質は【波動】と呼ばれるものらしい。なんでも、触れたものに振動にも似たような衝撃を与えるのだと言う。


『…クッ、なるほどな…たしかにそいつの性質なら確かに可能だ。だがニコライの時は』


サガンも相変わらず悔しそうな顔をしていたが、どこか納得したようだ。

ファリアナの能力は確かに強力である。だが魔法を中心とした戦いかたや、パワーだけで無く戦略や効率を考慮した戦いをするのであれば中々相性は良くない。

その点ならただの剣術である織の戦闘スタイルはとても合っていたのだ。


『さぁ、どうするサガンよ?お前んとこの奴は、俺の担当にあえなく、負けてしまったわけだが………?』


ニックはこれでもかと笑顔になり、追い詰めるようにサガンに問いた。

するとサガンは


『この借りはいつか返してもらうからな!

首洗って待ってろよーー!』


とお似合いでお決まりのセリフを吐きながら自分のギルド所へ走って行くのだった。





『あー本当に面倒だなぁー』

『言い過ぎでござるよ。おそらく聞こえてるでござる…』


次を目指して、街を出た二人は道すがらコソコソと小声で話していた。

何故なら後ろから、人の気配がずっとついてきているからである。


『じゃあ行くぞ?(ボソ)ハァーめんどい。(小声)…しっかし残念だったなぁ!アイツがそのまま付いてきてくれれば大助かりだったのに!』


ピクピク


『ほんとにござるなぁ!あんなサムライなら絶対手ばなしたくない所でござるよ!』


ピクピクピクピクッ


すると突然木の陰から少女が走り出てきて二人の前に回った。


『し、しょーがないわねぇ、特にアンタ《織》みたいなダメそうなやつ、私がいないともっとダメみたいだし、うん、…そうね力貸してやるわよっ!!』


〈おお、ほんとに出てきたでござる。

ニック殿は天才でござるな〉


〈だろ?〉


こうしてサムライは刀を新たな仲間にして、ほんの少しだけそれらしくなったのであった。

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