第2話 刀の出会いは合縁奇縁

やべぇ。

もうほんとやべぇよ。

金なし、仲間なし、もとより刀なし。

最初から詰みすぎだろぅが!


ニックはまたあの時の酒場の隅の方で頭を抱えていた。ニックが担当することになったのは、所謂日本のサムライで色々な意味で言葉が通じず、オマケにスピリードと呼ばれる特殊武装この場合サムライの刀がない。つまり【クエスト】と呼ばれる資金を稼いだり、それこそ冒険の旅に出よう!!と言うことができない状況であった。何もすることなくダラダラとアルバイト生活が2週間近く続いていた。


『…はぁ、しゃーねーなぁ。いい加減バトルなしの日雇いの労働とか内職じゃあラチがあかねぇーし。それに同僚あいつらに馬鹿にされるのもなんかしゃくだしな…

おい織!刀、探しに行くぞっ!』


そうして前方で接客していた、アルバイター雛方織に声をかけた。ちなみに酒屋のアルバイトをしているが、彼は一応主人公でれっきとしたサムライだ。すると彼の口から


『別にもういいんじゃござらんか?』


と放たれた。

は?聞き間違いか?とニックは織の顔を二度見した。


『おい、それじゃあ冒険とかは?魔皇帝との対決とかは?まぁ確かに自由にしてもいいとは言ったが、男ならこう、なんだ?目指せ天下!みたいなノリはねぇのか?』


ニックは驚いたが、取り敢えず暑く精神論を語ってみることにした。サムライには効果的に思えたからだ。だが…


『嫌でごさるよ!第一拙者、乱世の世には生まれておらんよ。』


真っ向から否定された。織はそれからさらに

続ける。


『拙者、ここへ来て初めてのことばかりでとてもいい経験をしていると思うのでごさるよ!反物屋の洗濯や日干しのあるばいとや、農場での家畜達の世話の手伝い、はたまた建築業など、剣の道一筋の身であった故、全てが面白く感じられて。それに見聞を広めることも立派な武士道の一つ。だから……』


『だから?』


『拙者、立派な“あるばいたー”になってみせるでござるよ。』


ニックは絶句した。気持ちのいい汗をかき、キラリと光る歯をのぞかせ、どこで覚えてきたのか親指を立てる仕草をしたサムライはとても将来有望な若者にしか見えない。だが、ニックは…


〈確かに、働かないよりマシだ。でもサムライがバイトに勤しむなんて、ニテド・コミナもびっくりなんだよっ!しかも誰しも一度くらいは戦ったりしてみるもんなんだよ特に男!時代の差か?あぁぁぁくそっ!〉


『つべこめ言わずに行くんだよっ!!(怒)』


その時のニックの声と顔はその場にいた誰しもを震え上がらせるほどのものだったらしい。


二人は酒場を取り敢えず出て、次の街を目指してみることにした。


『…でどーやって見つけるんでござるか?』


ムスっとした顔で渋々付いてきた織はニックに尋ねた。


〈確かに、勢いで来たけどどうすっかな?〉


ニックは頭を悩ませていた。スピリードは

特殊武装であり、強力なものだが驚いたことに擬人化し、意思を持つ武器だ。金で雇ったり、誰かから譲り受けて再契約したりまだ見つかっていないダンジョンなどから見つけるなど方法はあるにはあるが、今の自分たちにはどれも難しすぎる。


『確かに、その辺に落ちてるようなもんじゃねーしな。』


レゴナスターの空は腹立たしいほど青く澄み渡っていた。


『取り敢えず恥を忍んで助けてもらうか。』


ニックは同僚をあてにすることにした。だが先日あったようなエレナのように誰しもいい奴とは限らない。ニックの足取りは重くなる一方であった。しばらくして。


『この辺りもすごい賑わいでござるなぁ!』


またも織は目を輝かせていた。

サムライは案外新しい物好きなのか?とニックは思った。

少しして着いた街は、アイネと呼ばれる街だ。石造りの道路や家並み、ちょっとした噴水など前の街とは異なる景観で若干ではあるが、盛えているようだ。道行く人も忙しそうに動き回っている。そこで不意に、騒がしい声がして二人は近づいてみることにした。


『おめぇが足引っ張ったせいで、落とせる城も落とせなかったじゃねーかっ!こんのポンコツがぁ!』


『べ、別にあたし一人のせいじゃないでしょ!?っていうーかそもそも使い手のあんたの力量不足なんじゃないの?』


『なんだとテメェッ!』


そういわれた男はポンコツと呼ばれたを殴っていた。少女は悶え苦しそうな声を上げていた。


『思い知ったか?所詮武器であるお前はあるじには勝てねぇんだ…なんだよその目は?』


少女は鋭い視線で男を睨みつけていた。赤みがかった茶髪に、それと同じ色の瞳。服装は硬そうなショートパンツに、胸の大きさを感じさせる白い中着。その上に長袖のジャケットを着ている、西部アメリカの服装のようであった。


『まだ、分かってないみたいだなぁっ!』


男がもう一度拳を振り上げ、少女の顔を捉えようとした時、その間に一人の男が割って入り拳を片手で受け止めたいた。


女子おなごに手を挙げるのは流石にまずいのではござらんか?』


〈あいつ、今さっきまでここにいたのに…〉

ニックはすこし驚いていた。何故なら…


『!?』

『誰だお前っ?』


飛び出していったのは織だったからだ。


感心している場合ではないとニックもとびだした時、ニックにとってあまり会いたくない奴に出くわした。


『っつ、お前…』


『…?お前ニックか?久しぶりだなぁ。っていうことはそいつが新入りか?』


『…久しぶりだなサガン。すまないな。そいつは俺が担当している新入りなんだ』


サガンと呼ばれたのは一言でいうと猿だ。だが体は大きくはない。小柄な猿だが、サガンは【ギルド持ち】だった。

ギルド持ちとは、自分が担当している者がギルド、つまりパーティのリーダーになったことを意味している。もちろんこの世界は召喚された者達だけではできていない。昔の転生者の子孫達が暮らしたりしている。サポート妖精の間ではギルド持ちになることはエリートである証でもある。(もちろんギルドを持たずともエリートはいるのだが)。

それ以前になにかと自分を馬鹿にしてくるサガンとニックは仲は良くなかった。


『なるほどねぇ。でも見たところそんなに強そうじゃないな。スピリードとか強いのかよ?』


探るような口調でサガンは尋ねた。迷ったが腹をくくり、ニックは口ごもりうつむきながら小声で言うことにした。


『……スピリードはその、無い。』


『は?スピリードが無い?ぷっくくくく

あはははははははぁぁぁぁぁなんだよそれっ!そんなの聞いたこともねぇよ!最近では最高のネタだな。まぁ


何事かと人が多く集まってきたが、サガンは構わず続けた。


、そりゃコミナ様もそんなやつしか送らないわけ…』


『黙れっ!』


ニックは今にも噛みつきそうな勢いで叫んでいた。


『おーコワイコワイ。で、どういう状況これ?……あー、またお前かよ』


サガンは冷たい目で少女を見ていた。

そして何を思ったか急に提案した。


『そうだ、いっそのことそいつ、お前にやろうか?使えないもの同士仲良くやれよ?

なぁんてな?ギャハハハハッ』


とうとう我慢の限界がきたニックはいつのまにか気づくと啖呵を切り、挑発するように薄ら笑いを浮かべていた。


『いいのかよそんなことして?こちとら刀もたせたら右に出るものはいないサムライだぜ?…まぁお前んとこのデク相手に刀なんてむしろ必要ないかもしれないけどな?』


『『あぁっ?』』


今度はその男も交えて、サガンはこめかみに青筋を立てていた。


『面白い。犬らしくよく吠えたな?なら決闘してみようじゃないか?俺のギルドの腕達者このニコライと、お前んとこのサムライで。目も当たらんねぇくらいの吠え面かかせてやる。』


『その勝負乗った!なら猿らしく、キーキー泣かせてやるよ?』


辺りの空気はむせ返るように暑く、熱気が溢れているようだった。視線がバチバチと交差していた。


『勝負は午後からだ。広場中央で待っておいてやるよ。逃げんなよ!』

『ふんっ』


そうして、サガンとニコライは去っていった。すこししてから織は久しぶりに口を開いた。


『確かに拙者も頭にきた故、決闘の件異論はござらん。しかし刀無しというのは…』


『すまん、俺も冷静じゃなかった。』


ニックは尻尾を落として反省していた。

仮にもギルド持ちとその構成員。織の実力も正直分かってないこの状況はとても危険であった。


『ふぅー、それにしてもこの娘どうするでござるか?』


その少女はどうやら置き去りにされたようだ。織が手を差し伸べると振り払い、すごい勢いでまくしあげた。


『別に助けてくれなんて一言もいって無いし。余計なことしてんじゃないわよっ!

どうせあたしなんか…』


そう言ってどこかへ走り去ってしまった。


難儀なものでござるな。

そう織が言ったのがどこか遠くのようにきこえた。



午後になり、決闘の時間がやってきた。

ニコライたちは先についており、透き通るような白い髪をもったさっきの少女とは違い線の細そうな少女が側に付いていた。その後ろにはさっきの少女も一応いた。


『どうやら、逃げずにきたみたいだな?

俺は丸腰だろうと手加減しねぇ。〈行くぞ、アイレス〉。』


開講一番。ニコライはそう叫ぶとアイレスと呼ばれる少女を武器に変え武装した。

片手剣ほどの長さで、西洋剣だった。軽いが攻撃力はある。持ち手のところとつば

の部分は青と白色だった。

広場はそこそこに広く、丸い円形をしていた


そうして織はゆっくりと切り出した。


『…流石に拙者も丸腰ではキツイため、やはり刀を貸していただいても構わぬか?』


すると、ニコライは笑い出しすこし構えを崩した。


『ははっなんだよその喋り方。刀を貸すったって俺は他のは持ってねぇし、そもそもお前

原理わかってんのか?いやござるか?』


ニコライは大声で笑い飛ばしたが構わず織は続けた。


『承知でござる。それに貸していただくのは無論殿でござる。』


えっ、

サガンまでもが、驚きを隠しえなかった。

なぜなら、スピリードの真の名は正式に契約したものでしかわからないからだ。


『バカなっ、ありえねぇ!』


〈なんで織のやつそんなことがわかるんだ?〉



『ふぁりあな殿!』


急に名前をよばれ驚いていたファリアナにすかさず織は続けた。


『拙者、確かに侍でござるが、いくら手練れでもやはり丸腰はなかなか骨が折れる。……ここは一つ、人助けをすると思って拙者に助力してはくれまいか?』


そうしてファリアナは考えていた。というよりも恐れていた。契約も名前をも知らない見知らぬ男に身をゆだねるのは。しかし、


〈どうなってんのよあいつ。しかも得体が知れないし、何が起こるかわからない。…でもなぜだろう?あいつなら、あのサムライなら…〉


ファリアナは半ばすがるような思いで、気がつくと手を差し伸べていた。


後ろでニコライが何かを叫んでいたが、ファリアナは気にしなかった。掴んだサムライの手は意外にも小さいのに力強く、何より暖かかった。ファリアナは頬が熱くなるような感覚を誤魔化すようにこう言った。


『し、しょうが無いから助けてあげるわ。このあたしに感謝しなさいよね!それと雑に扱ったら先にアンタを斬りふせるから…』


織は驚いていたが、ふっと笑うと改めてこう告げた。


『かたじけない。よろしくお頼み申す。』


刹那、二人は眩い光に閉ざされたかと思うと

次の瞬間、刀を携えた一人のサムライが立っていた。

しかし手にした武器スピリードは着物のサムライには不釣り合いな西洋の。一部始終を見守っていたニックはどこかの世界の“クレイモア”と呼ばれる剣に似ていると思った。柄と鍔は黒く、鍔の飾輪は細長く先は十字のような形をしていた。刀身は光を放つほどの白さだった。


一メートル前後の両手の大剣を前に構え、

一つ静かに息を吐いた似つかわしいサムライはニコライに正対し、名乗りを上げた。


『【瞬華愁刀流しゅんかしゅうとうりゅう】免許皆伝、雛方織。四季の理に従いおぬしを斬る!』


始まりを告げる風が吹き過ぎていき、ニックが抱いていた不安もどこかへと流れていった。

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