妥協

「この度取り沙汰されておりますPEJIE社をはじめとした各日本企業合同のスパコンについて質問させていただきますが、リソースが不足しているとはいえ、国家規模のプロジェクトにする、具体的には国が支援する必要性はあるのでしょうか?」


 民衆党のベテラン議員が質問する。

 私は手を上げた。


「亞倍総理大臣」

「お答えします。第三者機関CTTGに依頼してリソース不足がどれくらいかを調べた資料をまとめたパネルがここにございます」

 パネルを提示するのは何も野党だけではない。

「現在国内にある、様々な研究に使用可能な汎用性のある19台のスパコンですが、うち16台の稼働率は97%を超えています。もう3台、『日本シミュレータ』、『獣』、『疾風迅雷Ⅱ』の稼働率もそれぞれ89.3%、91.6%、93.1%です。現時点ではこの程度ですが、2年後には研究が現在の2.9倍になるという予測が科学技術省によってなされています。勿論その研究というのは日本にとっても役立つものが殆どですから、有り体に言ってしまえば、研究ができなくなると日本が弱くなります。ここでこの新しいスパコン、『尭孝ぎょうこう』を登場させることによってその研究をカバーできます。これは間違いなく日本の更なる発展に繋がります。世界でも一位を目指せるスパコンということで、海外の注目も集めることができます」

「世界で一位という必要性はあるんですか?現在予定されている支援額はかなり大きいものですが。スパコンの性能をもう少し落とせば支援額も減らすことができます。二位じゃダメなんですか?」

「…二位じゃダメ、とは言いませんが」


 私は少し間を置いて言った。


「一位を目指さない者は二位だって獲得することができません。それに、研究をカバーできるとはいえ、尭孝の稼働率も75%を超えるという予想がなされています。今後さらにスパコンを製造する必要があるとさえ言えます。そのような余裕のない状況において、スペック…性能を落とすことは不可能に等しいでしょう。一位を目指すつもりでなければカバーできない。これが政府の見解です」



「なぜ皆あんなに妥協しようとしてくるのだ…」


 私は執務室でぐったりしていた。


「それが日本人というものなのではないでしょうか?自分の理解できないものはいらない、そういう人はたくさんいます」

「それが日本を弱体化させるということをわからないのか、あいつらは…」

「お世辞のつもりはありませんが、それは貴方が有能だからではないですか?」

「有能?」

「特異、とも言えます。要するに貴方の考えは日本では未だ少数派です」

「…そうか……」


 日本に転移してきたことは間違いだったかもしれない。

 私はそう思わざるを得なかった。



「国会中継、見てたよー。キミ、ダメダメだねえ」

「申し訳ございません、████様」


 民衆党の若手議員は頭を深く下げた。


「ま、流石にアイツのところにも有能なのがついてるということだよね。こっちもさらに搦め手を使うしかないかあ」


 女は立ち上がり、紙の資料を若手議員に見せた。


「!…これは」

「どう料理するかはキミたちの自由だよ。さあ、あのを叩き潰しておいで」

「…はい、有難う存じます、████様」


 若手議員の目は、女を崇拝するような目だった。

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地球の気候も太陽フレアも操れる魔王だけど日本で首相やってます キューマン @QmanEnobikto

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