太陽フレア

 私が太陽フレアを発生させようと考えたのには理由がある。

 一応、地震や大雨なども考えはしたが、彼の国もそこまでバカではないから、豪語するだけの耐久性は備えているだろう。

 そこで意外性を持たせるために特大の太陽フレアを発生させるのだ。

 流石に彼の国が太陽フレアに対しての耐性を持っているとは考えづらい。

 尤もそれは世界のどの国もだいたい同じだが。

 最も悲観的な予測では世界は19世紀初頭のような、電気も通信もない世界に戻るなんて話もあるくらいだから、太陽フレアはバカにできない。

 ただし、この方法には問題がある。

 世界が皆太陽フレアに対して耐性がないから、下手にやれば北総鮮国どころか世界中に影響が出てしまう。

 だから、解決策として、ある程度は能力によりバリヤーを張るつもりだ。

 世界を19世紀に戻すわけにはいかないのである。

 正直それくらい対応して欲しかったが、それで北総鮮国まで対応してしまっては元も子もなかった。



「将様!」


 若い男の声がドアのノック音と共に部屋に響く。

 北総鮮国のトップである太った男は彼を招き入れた。


「何の用だ」

「はっ、先ほど太陽で大きなフレアが発生したとの情報がもたらされました」

「それがどうしたというのだ」

「いえ、それが地球に到達するのがちょうどミサイル発射の日でございまして、停電や通信設備の故障などが懸念されます」

「ない」

「えっ?」

「我が国のミサイルはそのような米完日3国の妨害に屈するようなものではない」

「は、はぁ…」

「わかったら出て行け」

「は、はっ!失礼いたしました!」


 彼は急いで部屋を飛び出していった。

 男…金相雲は部屋の電話に手をかけ、怒鳴った。


「今すぐに声明発表を行う!」

『は、はい!わかりました!』


 電話先の哀れな男は、急いで声明発表の準備を行うことになった。



『我々は太陽面爆発などという米完日共の姑息なる妨害に屈することなく、予定通りの日に衛星打ち上げを行う!』


 部屋のテレビはNBAを映している。そのNBAは総鮮中心テレビの映像を流用していた。

 男の怒鳴り声が部屋に響くのはなんとも言えぬ不快感があった。

 私は画面を見ずに書類に向かっているので目に入って不快ということはないが、声だけでここまで人をイライラさせるというのは、やはりこの金相雲という男はある意味天才なのではないだろうか。もちろんほめてなどいない。


「チャンネルを変えてくれ。どうにも気に入らん」

「わかりました」


 私は秘書となった女に命令し、チャンネルを無害なアニメに変えさせた。

 秘書がつけたアニメの音声だろうか、「わーい!」とか「たーのしー!」とか無邪気な声が聞こえてきた。

 作られた声である以上少しイライラするのは事実だが、金相雲の金切り声に比べれば何億倍もマシであった。


「しかし、金相雲も大したものですね。まさか太陽フレアの責任を日本、米国、完国に押し付けてくるとは考えもしませんでしたよ」

「えっ?あ、あぁ、そうだなあ。全く、大した思考回路をお持ちのようだ」


 私は皮肉を言ったが、内心少し焦っていた。

 何しろ太陽フレアを引き起こしたのは私自身だったからだ。


「太陽フレアに関する国民の不安も高まっているようだし、会見をしたほうがいいかもしれないな」

「もし首相がその気であるなら、私は関係各所を回って会見の準備を行いますが」

「本当か、それなら頼めるか」

「はい」


 彼女は頭を下げると、私から会見に関する話をいくつか聞き出し、部屋を飛び出していった。


「さて、仕事も一段落したし、まずは会見の資料でも作るか。…征服への道は遠いな」


 私はアニメのエンディング曲を聞きながら会見用の原稿を自作し始めた。

 官僚に頼ることなく自分でこのようなことをすれば、支持率も上がると聞いた。

 それがアピールポイントになるとは、なんとも変なものだ。

 私は着々と原稿を仕上げていった。一応太陽フレアは人為的なものではないことを入れておく。どうせ冗談か皮肉として受け取られるだろうと考えたからだ。

 しかし、これが後に少しの騒ぎを引き起こすなど、私は全くこの時点では考えていなかった。

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