第2話

「なんで帰ってこないのよ!!」


あたしはムカついて壁をけった。

ムカついてるのにアイツが居ないからこの気持ちが晴らせないじゃない!

何よ!家出なんてしたって、絶対見つけてやる。

学校に連絡しとかないとめんどくさいことになるじゃない。

ほんっとムカつく!!

あたしは机の上に置いてあったアイツのものを床に投げた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



「星ってこんなに綺麗なんだ。」


窓から見える星はとても綺麗に見えた。

いつもは殴られるからこうやってゆっくり星を見る暇なんてない。

部活から帰る時も急いで帰らないと行けないから見ないし、何しろ私の部屋に窓なんてない。

だって押し入れだもん。

この綺麗な星の下だったら正直に思っていることを言える気がする。


「ねぇ…。本当はさぁ、私のこと知ってるんでしょう?」


「そうだよ」


「やっぱりね。隠そうと思っても無駄だよ。癖が強いよ。」


「分かってて敬語使わないわけ?」


「使った方がいいですかぁ?」


「別に使わなくていいけど。

質問されっぱなしはそっちにしかいいことないから俺も質問していい?」


仮面かぶってるから表情は分からないけれど凄く笑っているように感じる。

ニヤニヤしてるようにも感じる。

それとも怒ってたりするの?

こんなに悩むのは仮面のせい?


「なんでそんなに笑顔で居られるの?家でいつも傷つけられて俺には誘拐されて…怖くないの?」


「…」


「都合の悪いことは黙るんだ。

俺は怖いよ。君が」


いきなり何を言うかと思ったら変な事言って。

そうだよ。私は怖くないよ。


「仮面とったら…?どうせ正体分かってるんだし。声も変えなくていいよ。」


「話そらすなよ。でも仮面は取らないよ。」


「なんで?」


「もしも君が思ってる人じゃなかったら怖いだろう?」


「怖くないよ。私は。」


こんなに綺麗な星の下でこんな不気味で変な話をしているのは私たちだけだろう。

私はなんにも怖くない。

もう感覚が麻痺しているのかもしれない。

あいつのせいで。

痛いという感情は残ってる。

友達と仲良くするふりをすることだって出来る。

けれど少し何かがたりない。

何かは分からないけれど。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



「皆さんに残念なお知らせがあります。」


朝からこんな話をしたくないけれど、と前置きをして先生が話し始めた。

かなえちゃんが入院をしたというのだ。

大きな病気で。

山の奥の病院にいるからお見舞いには行けないという。


「何よ。その嘘っぽい話。」


ポツリと言ったつもりだったが、みんなに聞こえていたみたいだった。


「みなみ先生は信じるんですか?その話。」


「大江さん。悲しいのは分かりますが、そういやって言うのは良くないですよ。」


悲しくないし。かなえちゃんの家やっぱりおかしいよ。

かなえちゃん殺されちゃったりしてないよね?

やっぱりあの赤い車に誘拐されちゃったのかな…。

ふと窓を見るとあの日見たような赤い車が学校の教師用の駐車場にとまっていた。

こんな車どこにでもあるからな…。

今日はかなえちゃんいないしなんか寂しいかな?私。

そんなに仲良くはないけどいないならいないで違和感があるな。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



今日はせっかくの休みなのにアイツを捜さないと行けないじゃない!

家出したまま死んでたらマジで迷惑だし。

このままずっと学校にいってなかったら教育委員会がきて暴力ふるってるのがばれてしまう。


「あのクソ女!」


「あらあら、お隣の姫野さん。どうされたの?」


「娘が家出をしてしまって」


「あらそうなの。そう言えば一昨日くらいに赤い車に乗っていたわね。8時ぐらいに」


赤い車?なにそれ。

誰か大人に遠くに連れてってもらったっていうの!?


「ありがとうございました。」


あたしはそう言ってその場からいち早く離れた。

何よアイツ。本当にめんどくさい子ね。

利用だけして殺したりしてないわよね?

もう捕まるのはごめんよ。

アイツのせいであたしの人生は狂ったのよ!

いや、低脳な警察と変なことを考えたアイツのせいでね。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



学校に行かなくていいし、彼といるのは楽しいし、いい人生だな。

って言うか私ってついてるなぁ。

やっぱり神様っているんだなぁ。

意地悪なこともするけれど実際こうやっていいこともしてくれる。


「ありがとう…」


ご飯も用意してくれて。

それも私が大好物なもの。

最悪なアイツとは全然違って、私は嬉しいよ。

怖くなんてないよ。

あなたが神様なの?

そう言いたいぐらいこの時間は私にとって幸せだ。

彼にとって幸せかは分からないけれど。

私は窓を開けて大きく息を吸った。


「ここの空気美味しい」


汚れがないような、綺麗な空気に感じる。

私もこの空気のように綺麗になりたい。

いい子になりたい。

私があんな事しなかったらあの人は優しかったのかな。

優しくしてくれたのかな?

それだったら私はこんな誘拐されたらこわかっただろう。

私はそんなことを考えて真っ青な空を見ていた。



つづく

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