かなえ

れい

第1話

「じゃあね!」


家まであと100メートルぐらいのところで友達と別れ暗い道を歩いて帰る。

静かだな。

田舎に住んでて良いのか悪いのか…。

ブッ!!!

クラクションを鳴らされたが無視をして歩いていたら手を掴まれた。

わざわざ車を降りてまで私を怒ろうとするなんて面倒臭い人。

謝っとこう。


「ごめんなさ…」


謝ろうとしたら気を失った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



目を覚ましたが世界は暗かった。

手は椅子に縛られ足も縛られていた。

んっ??この香り…


「お目覚めかい?」


声は変えてるんだ。

わざわざそんな事しなくたって分かんないよ。

誘拐されても怯えない私って可笑しいのかな?


「なんで私を?」


「たまたまだよ。そこにいたから。だからだよ」


「そんなんだ。でも私を誘拐しても親は捜さないよ?だから身代金ももらえないと思う。」


親にいつも殴られる。

親は何かムカつくことがあったらすぐに殴る。

だから私の体の見えないところは痣だらけ。


「別に身代金が欲しいわけじゃないんだけど?」


「へぇ。じゃあ何で?」


「なんでだっていいだろう?そこにいたからだって。」


「それより目隠し外してよ」


「やだ。」


「そっか。」


「じゃあ仕事に行ってくるから大人しくしてるんだぞ?」


やっぱり仕事してるんだ。

でも私は逃げないよ。

だってここがいいもん。ここにいたらずっと…。

今日はいつ仕事終わるのかな?

早く終わらないかなぁ?

やっぱり忙しいのかな…?



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



「今日の欠席はー」


「先生!かなえちゃんがいませーん!」


かなえちゃん昨日大丈夫だったかな…?

別れたあとに渡すものがあったからもう1度道に戻ったら真っ赤な車から人が降りてきて手を掴まれていた。

でも誘拐だったら親がなんか騒ぐか…。


「連絡は入ってないみたいね。」


きっと大丈夫。

かなえちゃん誘拐されるほど可愛くないし。

でも今日なんでこないんだろう。

かなえちゃんの大好きな理科が2時間もあるのになぁ。


「えっと…今日の理科は理科室でするそうだからホームが終わったらすぐに移動するように。」


『はーい。』


よりによって理科の実験かぁ。

かなえちゃんかわいそう。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



まだかなぁ。やっぱり仕事って忙しいんだ。

私はその道に行けないし行く気はないから関係ないけれど。


「ただいま。」


すっと目隠しを取ってくれた。

彼は真っ白な仮面を被っていた。

この部屋は小さくて綺麗だった。


「紐は取ってくれないの?」


「とって欲しい?」


「うん。」


紐でぱちぱちと切ってくれた。


「あと、制服でいるの嫌でしょ?これ、着なよ?」


真っ赤なワンピースを渡してきた。

後ろに大きなリボンが付いていて、フワフワしたスカートのワンピース。


「可愛らしいね」


「そう?それは良かった。」


私は少し彼に近づいた。

やっぱりこの香り…。

いや、気のせいだよ。そうだよ。気のせい。


「ねぇ…」


「なんだよ。」


「私をこれからどうするの?」


「うーん。どうして欲しい?」


どうして欲しいって、別に何にもしなくてもいいよ。

ずっとここにいられるなら。


グゥー。


そうだった。昨日から何にも食べてないんだった。


「お腹空いた。」


「じゃあ、待ってて。」


ラップにくるまった暖かいおにぎりだった。

それはどこかしょっぱくて暖かくて甘くて涙が溢れてきた。


「なんで泣くの?」


「別に…何だっていいじゃん。」


「俺もあったなぁ。中高でサッカーしてたんだけど、試合で負けたあと親の作ったおにぎり食べたらなんか泣けてきて。」


「それとは違うと思うけど」


「そう…。まぁ、トイレとお風呂はあそこの部屋にあるから。」


そう言えば今日1回もトイレいってなかった。

家ではトイレとか使ったら怒られるから使わなかったし、お風呂とかも親がいない時しか入れない。

何でこんなに優しいんだろう。

こんなに優しくしないでよ。

もっともっと帰りたくなくなるじゃない。


「そういえば大江りかとは仲良くないの?」


「なんで?」


「何でもない。」


なんでりかちゃんのこと知ってるんだろう。

ほんっと変な人。




つづく

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