16 祭りの夜の女騎士がかわいすぎる件 5
そして、いよいよ祭りの当日を迎えました。
本格的な催しが行われるのは、夕方以降、再び街が光に包まれるころですが、すでに街の方では王都の内外から訪れた多くの人たちでにぎわっていて、他の地域から来た出店、商人、観光客などの喧騒が、いたるところから響き渡っていました。
僕も王都に住み始めてから数年になりますが、この時期はだいたいこんな感じ。
ただ、例年と違うのは、そんな人込みの中でひときわ目立つ、鎧姿の一団でした。
「……ねえ、ハル君。めっちゃ見られてるんですけど」
「まあ、近衛騎士団でござ……ですからね。我慢してください」
姫様の予告通り、街中で監視する役を担う騎士の数が増大されていました。
ぱっと見た限りだと、およそ倍ほどです。
「しかし、驚きだな。副隊長とカレン隊長っていう近衛騎士団でも一、二を争うバケモノコンビから逃げおおせるヤツがいるなんて……」
「バケモノって……いや、まあ、否定はしないけど」
僕とカレンさん……というか、ヒトセと戦ったのはカレンさんですが、タック君の言う通り、僕がパートナーになってからのカレンさんが、敵を取り逃したのは始めてのことです。
昨日のことを姫様がどこまで上の方々に話したかは不明ですが、警戒のほうは強めているのか、普段はこの場に出てこないお義父さん、じゃない、総隊長のガーレスさんまで出張ってきていました。
ただ、今のところ、特に目立った騒ぎはありませんし、もちろんヒトセのような危険人物がこそこそとしている形跡も見つかってはいません。
そんなことが起こるような予感も。
「あれ? ハルじゃん、今日も仕事とは精がでますね~」
「メイビィ」
あらかじめ決められている巡回ルートをカナメさん含めた数人出回っていると、ふと、人込みをかき分けて僕のほうへ向かってくるメイビィの姿が。
「いや~、せっかくの休日だってのに、
いつもの調子で、メイビィが僕の背中にのしかかりました。騎士学校の教員も、騎士団に負けず劣らず忙しいようで、少しだけ体格が細くなっている気も。
「……どうかした?」
「ん~? いや、なんでも。大変だよね、お互いさ」
ぽんぽん、と僕の頭をなでるように軽くたたいてから、あっさりと降りるメイビィ。妙にあっさりとしたアプローチだな、と思っていると、ふと、彼女のすぐ後ろで一塊になっている騎士学校の生徒たちの一団が。
「あれ、メイビィのクラスの子たち?」
「ん。最小学年のクラスだけど、担任を任されてね。今日はあの子たちと祭りの見学なんだけど、その引率ってやつかな」
男の子と女の子、合わせて五、六人ほどでしょうか。きらきらとした瞳を持った、素直でおとなしそうな子たちです。
あの子たちも、いずれは裏でこそこそと策を張り巡らせて、いい表情でほくそ笑むような集団になってしまうのでしょうか。……そんなこと、ないよね?
「んじゃ、私はこれで。頑張りなよ、ハル。……なにを企んでるか知らんけど」
くすりと笑って、メイビィは子供たちの輪の中へと戻っていきました。
近衛騎士団の隊長クラスと親しげに会話する先生の姿に感動しているのか、小さな声ですが、先生すげー、とぴょんぴょんと飛び跳ねていました。とても微笑ましい光景。
ふと、僕の脳裏に思い出されたのは、臨時教員として短期間ですが担当していた特別クラスの生徒たち。当時の子たちとまだ多少繋がりがあるというナツの話によれば、いつもと変わらず仲良くやっているそうですが。
多分、マルベリの妹であるハウラでしょうが……姉とそっくりで本当に面倒見のいい子です。
そんなわけで、そろそろ頃合いかな。
「あの、隊長。ちょっと腹の調子が悪い、のですが……」
と、ここで僕たちとともに見回りのメンバーに加わっていた内の一人が腹を抑えた状態で手をあげました。
十中八九、トイレに行かせてほしいやつです。
「あの……えっと、あともう少しで一度城に戻るので、それまで我慢できませんか? ハルく……副隊長、そうですよね?」
「ええ。早足でいけば後十分ほどですから、それまでなんとかお尻を、その……」
「副隊長、お尻を、なんでしょうか?」
「っ……! それはその」
「……ハル君?」
隊員の言葉にちょっと顔を赤くした『
「ああもう! いいです、行ってください! そのかわり、すぐに合流すること、いいですね!」
「はい! ありがとうございます!」
半ばやけくそに許可を出してくれました。若干口調が元の人のそれになっている気がしているので、バレる前にさっさと抜け出すとしましょう。メイビィにはバレてたみたいですが。
カナメさんと、それからハルの姿に変わっているマルベリに頭を下げて、僕はさっさと人込みに紛れて待ち合わせ場所へ向かいます。
道行く人の流れに逆らって、中央の広場へ。
そこで待っていたのは、同じく仕事から抜け出してきたであろう私服姿のカレンさんでした。
「カレンさん」
「……時間ぴったりだな、ハル」
「そうですね。約束の時間から10分も前なんですけど」
仕事でも、私生活でも、それが僕たちの決まり事です。多分、これからもっともっとそれは増えていくでしょう。
「ところで、カレンさん」
「ん?」
「仕事はどうやって抜けてきたんですか?」
「マドレーヌに頼み込んで、許してもらった」
……薄っすら青あざ出来てますけど。
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