17 祭りの夜の女騎士がかわいすぎる件 6
それぞれの鎧を脱いで、僕とカレンさんは街へと繰り出しました。
騎士団の中では超有名人な僕とカレンさんも、こうして手をつないで、喧噪のなかを走り出してしまえば、ただの祭りを楽しみに来たカップルにしかすぎません。
歳の差と身長差があるので、もしかしたら姉弟みたいに見られるかもしれませんが……とにかく、どこからどう見ても一般人でしょう。多分。
それぞれ勝手に抜け出してしまった形ですが、もちろん、仕事の方を完全に忘れているわけではありません。
「はい、カレンさん。あ~ん」
「? ん……うん、なかなかいけるな。ほらお前も」
「はい。……んむ、おいしいですね。噛んだ瞬間に肉の旨味がじゅわっと口に広がる感じで」
露店で買った一本の肉の腸詰を二人で食べ合いながら、目的もなくふらふらと歩きます。普段とはまた違った顔を見せる王都の街を、人目を気にせずいちゃいちゃと――。
『あっ、テメエ俺の財布……おい、そこの男誰か捕まえてくれっ! スリだ!』
早速、楽しい空気に水を差すコソ泥が。
「もう、せっかくのカレンさんとのお祭りデートだっていうのに」
「まあそう言うな。時間はまだたっぷりある……さっさと終わらせて来い」
「は~い」
カレンさんにぽんと背中を押されて、僕は行き交う人々でぎゅうぎゅうになっているはずの大通りを、流水のようにするすると抜けていきます。
標的は、人込みを強引に剥がしながら、人通りの少ない暗い裏路地へと突き進む男が。もうちょっとうまくやればいいのに、あれでは『自分がやりました』と言っているようなものです。
目立たないよう、僕は男の進路をふさぐように配置につきました。男を直接見ることはせず、ただぼーっと飾りつけされた街並みを眺める田舎者の少年のようなふりをして。
「わっ、とと!」
「ああっ! んだこのクソガキッ! ぶっ殺されてえのかっ、どけっ!」
「は、はいっ――」
怯むふりをして、怒声を上げてこちらに向かってきたスリの男とすれ違って。
その瞬間に、男の両手と両足、それにぎゃんぎゃんと躾のなってない犬のように騒ぐことのないよう、口の中に布を詰め込みました。
もちろん僕がやりましたが、一般の人には、突然男が手足を縛られて倒れ込んだように見えて不思議でしょうがないでしょう。
「……ん、んぐぐ~!!」
「え? なに? 離せこの野郎って? やだなあ、そんなことするわけないじゃないですか」
「んがっ……んおっ、んん」
「あ、そっちの物陰にいる人たちのこと? 大丈夫、寂しくないように同じ目にあってもらってるから」
どさり、と後ろでうつぶせに倒れ込んだ二つの人影が。
視線があまりにもそちらの方を向いていたので、バレバレでした。多分、あの二人のほうが指示役あたりなのでしょう。
「いやいや、三人とも運が良かったね。今日の僕は機嫌がいいほうだから、ケガせずになによりだ」
しゃがみ込んで、僕は男の耳元で一言。
「もうちょっと機嫌が悪い時だったら……どうなってたでしょう?」
「っ……!?」
その一言で完全に観念してくれたようです。はて、僕は別に脅かしたりなんてしてないのになあ。どうしてそんなに怖がってるのか、不思議だなあ。
「ハル、見回りの騎士に言っておいた。すぐに拾うから、そのまま転がしておいていいそうだ」
「よかった。それじゃあ、気を取り直して続きですね」
というわけで、僕たちは私服姿の警備としての見回りを再開しました。デートを楽しみつつも、騎士が周囲にいない時を見計らって悪さをする小悪党をしょっ引く。ほら、ちゃんと仕事もしているでしょう?
ちなみに今日の祭りは夜通し続きますので、必然的に徹夜で仕事です。
「ハル、その……今日の夜、なんだけどさ……」
「夜、ですか? 食事の予約なら、もうとってますけど」
「いや、そうじゃなくて。そのあとのことなんだが」
「そのあと……ああ、エッ――むぐぐ」
「わ、わかってるなら言わなくていいから! あらあらこんな時間からお盛んなのね、って道行く人に生温かい視線遅れちゃうから!」
そこらへんの男女二人組はみんなそんな感じだと思いますが。
しかし、カレンさんのやりたいことはこれではっきりしました。
「ふふ、大丈夫です。そっちの準備もぬかりないですから」
「そ、そっか。……なら、その、よかった」
俯いて、カレンさんは僕の腕にぴったりと体を寄せてました。
祭りは夜通し、今日は徹夜。もちろん、カレンさんと一緒です。
カレンさんとの夜のデート……今からとても楽しみです。
――――――――――
(※11月27日の更新は、午前11時を予定しています(予約投稿済み)。本編は一回お休みです)
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