14 祭りの夜の女騎士がかわいすぎる件  3  


 多分いるだろうな、とは思っていましたが、まさかこんなにも早くお目にかかれるとは思っていませんでした。


 あの姿、どの角度から見てもハルです。


 髪は橙がかっていますし、散髪していないのか、長髪を後ろで乱暴にまとめていますが、多分、僕を知っている人なら、一瞬なら僕と勘違いすることに違いありません。


「聞いたぜ。お前、あのイカレ女をぶっ倒したんだってなあ」


「イカレ女って……女王のことか?」


「ほかに誰がいんだよ。テメエのくだらねえわがままで、俺たちがどんだけ苦労したと思ってんだよ。なあ、お前だってそうだろうが!」


 目をくわっと見開いて、『僕』が声を荒らげました。


 彼の言う通り、僕もアスカさんに対して言いたいお小言の一つや二つあります。一つでもボタンをかけ間違えば、僕とカレンさんは永遠に結ばれることはなかったのですから。


 ですが、それもすべては終わったことで、今、僕とカレンさんとこうして手を取り合っている。いつもの日常を送っている。


 それで十分なのです。


「っと、オレとしたことがついイラついちまった……ま、いいや。今日はあくまでに『みんな』を代表してご挨拶に来ただけ。花火の方も回収されちまったことだし、面倒だからさっさと退散したいところだが……」


『彼』が、カレンさんのほうに目をやって、にたり、と笑いました。


「――それは無理な相談だ、ってんだろ? なあ、『カレン』さん、よお?」


「よくわかってるじゃないか。赤毛の」


 動きやすいようスカートの裾を破って、カレンさんが『彼』の正面に立ちました。


 僕も同じ気持ちですが、もちろんこのまま『はいそうですか』となるわけがありません。


 とっ捕まえて、色々と吐かせてやらねば。


「貴様、名は?」


「正式名称『素体番号1011』――ま、仲間内ではヒトセって呼ばれてる」


「そうか。悪党のバカのわりにはいい名前を付ける」


「ああっ……!?」


 挨拶で終わりじゃなかったのか、ヒトセの周囲を赤い炎がうっすらと包みました。


 外見はまるっきり僕ですが、中身はまったくの別人。生まれは同じでも、やはり環境次第なのだと実感します。


 これもカレンさんの教育しごきの賜物だなあ、としみじみ。


「ハル、剣を。一本でいい」


 頷いて、僕はすぐさま魔力を練って青い剣を作り出し、渡します。形状は『青い光を放つ棒』でも、性能は鋼や魔法鉱石で作製されたものを遥かに凌駕します。時間制限はありますが。


「それがお前ら『炎』ってわけか……はっ、ちったあ楽しめそうじゃねえか、なあ!」


「相手、随分やる気みたいですね……サポートはどうします?」


「いらん。それより念のため、周囲の住民に避難を呼びかけてくれ。大丈夫だとは思うが、被害が及ぶ可能性もなくはない」


「わかりました。では――」


「ああ。だが、ちょっとその前に、」


 ぐ、とカレンさんは僕の顔をぐいと引き寄せ、


「んっ――」


 その勢いでキスをしてくれました。


 時間にしたら数秒もない、ですが、しっかりとお互いの温度を確認するように、舌を絡めた口づけ。


 カレンさんの周囲をつつむ青い炎のきらめきが、さらに増していきました。


「――力をくれ、ハル」


「それ、キスする前に言うもんじゃないですかね?」


「気にするな。お前のことを好きな気持ちが先走っただけだ」


 いつもは恥ずかしがるくせに、たまにこういう時だけカッコよくなるんですから。


 カレンさんにはいろいろな意味でドキドキさせられっぱなしです。


「それじゃあカレンさん、ご武運を。愛してます」


「私もだ。……心配するな、すぐ終わる」


 見つめ合い、頷き合って、僕はカレンさんと別れて、まだ城に残っているであろう仲間たちのもとへ。


 ――ズッ!!!


 僕が離脱した直後、空が一瞬明るさを取り戻したかと思うほどの、


「……最初から全開かな。でも」

 

 相手も意外とやるようですが……それでもカレンさんの敵ではないでしょう。

 

 僕からキスを得たカレンさんは、正直ちょっと手を付けられないレベルで強くなるのですから。


 外壁をぴょんぴょんと飛んで駆けて、城内へと滑り込みます。一人一人に声をかけても効果は薄いので、城にある鐘とそれから拡声のための魔道具を使うつもりでした。

 

 城内の窓から漏れるのは、まるで花火でも打ちあがっているかのような爆音。実際はヒトセとカレンさんが戦っているだけなのですが、周囲の魔石燈が反射する光と相まって、遠くからだと本当の花火が打ちあがっているように錯覚するかも。


「――ハルさまっ」


「っと、姫様?」


 鐘のある場所へと続く階段を目指して廊下を駆けていると、ふと、寝間着姿のエルルカ様が僕の目の前に現れました。


「あ、あの、すごい音がしたので様子を見に来たのですが……」


「ひとまず説明は後です。ちょうどいいので、姫様も来ていただいていいですか? 城の設備をもろもろ使わせて欲しいので」


「わかりました。では、ひとまず急ぎましょう。……近道があります、こちらへ」


 すぐに状況を理解してくれたエルルカ様とともに、僕はもう一つのてっぺんである鐘のある場所へと急ぐのでした。

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