12 祭りの夜の女騎士がかわいすぎる件 1


 ということで翌日、僕たちは早速祭りの準備に駆り出されていました。


 祭りは国や街にある大小の商会、もしくは冒険者ギルド(※ちゃんと王都にもあります)など含めての催しですので、近衛騎士団も協力しないわけにはいきません。そして当日は警備。


 休み? え、休みは……ない、ですよねぇ、やっぱり、うん……。


「道具もった、命綱つけた、もしものときの魔法も準備できた。よし、では副隊長、よろしくお願いします!」


「城壁の飾りつけんなんて、僕も本当はやりたくないんですけど……」


 僕たち第二分隊は、城の建物の周囲に飾る魔石燈の取り付けの担当のさせられていました。


 飾りつけは城全体、つまり下から上の隅々にまでわたるので、当然高いほうの場所にも設置が必要となります。


「ごめんなさい、ハル君! 私、高所恐怖症なので! 高いとこにいると今以上のクソみたいなポンコツになってしまうので!」


 まあ、分隊の中では僕がもっとも小柄で身軽なので適任ではあるんですが。


「魔石燈が結構重いから、強化も忘れずにっと」


 命綱があるとはいっても、ところどころ危ない突起物もあるので握力と脚力を中心に。落下については、風の魔法で空気のクッションを作れば問題ありません。


 頭にしっかり記憶している配置図をもとに、灯りを設置。この魔石燈は夜暗くなると発光するような加工を施されているので、点火する必要はありません。


「――いよっ、よっ、っとおっ!!」


 少し離れたところで、エナが軽やかな動きで城の外壁をぴょんぴょんと飛び跳ねていました。


 どうやら彼女も僕と同じく面倒くさい仕事を押し付けられたようですが、それにしてはやけに楽しんでいるような。


 しかも命綱つけてないし。


「ん? お、タイチョーじゃん! そんなに色々つけて重くない?」


「エナが身軽すぎるんだよ。ところカレン隊長は?」


「あのヒトは中でアネゴと一緒に内装。まあ、あのヒトなにげに体重いから、こんなところに昇ったら城が壊れちゃ」


 ――ズズンッ!!


「ま、まあそれは冗談だけどね」


 城全体を揺らす振動が。これ絶対カレンさんなんでしょうけど、相変わらずの地獄耳です。


 どこにいるんでしょう。


「ね、久しぶりにさ、ちょっと勝負しない? 内容は、この袋の中身を先に空にした方の勝ち」


 エナが、腰に提げた荷物袋を指さしました。もちろん、中に入っているのは魔石燈です。


 つまり、さっさと設置したほうの勝ちということかな。


「エナ、退屈だからたまには勝負したいって気持ちはわかるけど、一応、これも仕事だからふざけるのは……」


「仕事の中にもちょっとした楽しみを見出すのも時には必要でしょっ! じゃ、私が勝ったらタイチョーと一緒に祭りの警備に回るってことで」


「あ、ちょっと!」


 僕の制止を無視して、エナは城のてっぺんに向かってぴょんぴょんと跳ねていきました。


 僕にもちゃんと先約があるので、もちろん勝負を受ける気はさらさらないのですが、ああいう時のエナは大抵危なっかしくなるので追いかけていきます。


「よ、っと。へへ、さっそく一個目……って、あらら?」


「! あ」


 と、張り切って城の頂上付近へ上るべく足を踏み出した瞬間、エナが足を滑らせて体勢を崩しました。


 エナもすぐさま反応して突起に指をかけようと腕を伸ばしますが、ぎりぎりのところで手が届かず、


「――まったくもう」


「あ――」


 急加速で空を駆けた僕が、拾い上げました。


 空気を圧縮して塊を作って、破裂したときの力を使って移動するという単純なやり方ですが、これが最も早くエナのもとまで辿りつく方法でした。


「ほら、言わんこっちゃない。仕事と遊びはちゃんと分けること、いい?」


「う、うん。ありがと……」


 命綱をつけさせるため、いったん地上に降ります。


 強引に空中を移動したせいでこっちの命綱がなくなってしまいましたが、そちらは必要経費ということで。


「ご、ごめんねタイチョー……その、もう別のところの人なのに、迷惑かけちゃって」


「別にいいよ、慣れてるし。あと、所属が変わってもみんな大事な仲間なんだから」


「うん、そだね……へへ」


 はにかんで僕から目をそらすエナ。

 

 本来ならここから互いの間に微妙な間が漂って、むず痒いラブコメみたいな雰囲気が充満していくのですが、


「こぉおおらあああああ……!」


「げっ、おばさん!」


「お、ね、え、さ……じゃなくて隊長だっ!」


「いって……!」


 ごちん、という音が城内に響きわたりました。


 この人に大事に守られている僕に、そんなセオリーは通用しないわけで。


 カレンさんの『ハル探知』は今も変わらず健在でした。


「まったく、城の中からハルを監視してたら案の定……お前、これから単独行動禁止な!」


「ええ~!?」


 エナじゃなく、僕のことを監視しているのがミソです。いやあ、本当に僕はカレンさんに愛されてるなあ。……たまにちょっぴり重いときありますけど。


「あ、そうだカレン隊長。この後、ちょっとだけ時間ありますか?」


「ん? ああ。内装も大方終わっているからな。今日の夜だけなら」


「よかった。でしたらちょっとだけ、僕に付き合ってくれませんか?」


 祭りは翌日の夜……ですが、その前に済ませておかなければならないことがありますので。

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