11 今度こそ離れ離れになるのでいじける女騎士がかわいすぎる件 2


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 細かい条件を詰めるため、シールさんを連れて王都に戻った、そのあと。


「なんでッ! なんで私は行っちゃダメなんだよ~……!」


 行きつけの酒場でカレンさんは荒れていました。まわりには、第四部隊の女性メンバーに僕を加えたいつものメンツに、それと後はカナメさん。


「ああ、もう。明日も仕事なのに、そんなに飲んだら障りますよ?」


「うう~……!」


 あの後、シールさんとともに竜公国へ向かうメンバーが選ばれたわけですが、


「この任務は第二分隊の仕事の延長みたいなもんだから、ハルとカナメは、まあわかる。隊長と副隊長、重要な戦力だから外せないのは。でも……」


 ぎろり、とカレンさんが睨んだのは、いつの間にかちゃっかり僕の腕の腕に引っ付いている空色の髪の女の子。


「なんでお前がメンバーに選ばれるんだ、ナツ!」


「む?」


 カレンさんがびしりと指をさすと、一心不乱に料理にかぶりついていたナツが顔を上げました。今までは『自称の妹』だった彼女ですが、書類上、今はもう僕の妹ということになっています。


「なんでって……私がお兄ちゃんの妹だから」


 違います。実をいうと、僕はともかくとして、まだ新任の隊長としてなれないカナメさんのため、第四部隊から一人だけ応援を入れることになったのですが、希望者の中からくじ引きで選ばれただけです。


「十回だぞ、十回。そのうち九回連続で私で、もう一回私が出れば私がハルと行くはずだったのに……」


(自分ルールよ、気にしないで)


 対面に座るマドレーヌさんがこっそりと僕に唇の動きで伝えました。


 というか、カレンさんはカレンさんで隊長として別でやること沢山なので、それをほったらかしになどさせられません。


 参加を姫様から許可されていないにも関わらずくじ引きの参加にこだわったので、カレンさんが出た場合は引き直し、という条件だったらしいのですが……。


「最後は妹の愛が勝つ、やはりこれ真理」


「くすん……まさか私がナツなんかに負けるなんて」


 いや、九回連続もイカサマなしでくじを邪魔するぐらいだから、相当な愛の深さだと思うんですけど。


 本当に能力使ってないのかな、この人。


「だ、大丈夫ですよ、カレン隊長……ほら、いつも一緒にいるよりたまには離れたほうが新鮮な気持ちが持続するって、よく――」


「腐っててもいい! 新鮮な気持ちとかいらない! う~、できればずっとハルと発酵していたいよお……!」


「えぇ……」


 ドン引き状態のカナメさんが僕を見ました。


 お前の嫁だろ早くなんとかしろと言わんばかりの目ですが……この状態になると僕も手が付けられないので、そのままくだをまかせて疲れて眠らせたほうが早いです。翌日にはケロリとして忘れてますし。


「でもさ、偶然とはいえナツがお供でよかったんじゃない? 多分、そいつらって、なんとなく帝国がらみっぽい気がするし。師匠もそう言ってた」


 マドレーヌさんの言葉に、僕は頷きました。


 マドレーヌさんの師匠で元帝国幹部のライトナさんの話によれば、姿形など微妙に違えど、女王のほぼ独断で行われていた試練によって、『僕』のような人間は、実は世界中に散らばっていたようです。


 元々の体が不完全なのもあり、大半は世界のどこかに消えてしまったようですが、もちろんアスカさんも全てを把握していたわけではありません。


「大丈夫ですよ、隊長。すぐに依頼を片付けて帰ってきてあげますから」


「んぐっ……ほんとうか? 私が寝て起きたら、ちょうど『仕事終わりましたよ』って言って私のことを起こしてくれるのか?」


「気持ち的にはそうしたいところですけど、それは物理的に無理ですかね……」


 あっちに行くの、数日後ですし。


 とはいえ、行くまで数日あるので、それまでの間に、離れ離れでも寂しさに耐えられるよう、今からカレンさんともっとイチャイチャしておきたい。


「あ、そうだアネゴ~」


 と、ここで、それまで相棒のマルベリと話し込んでいた女戦士のエナが手をあげました。


「あんたねえ……その呼び方やめてよ」


「えー? マドレーヌはこっちのがしっくりくる気がすんだけど。まあ、んなことよりさ、明日からのお祭り? だっけ、警備は誰が担当やんの? それとも持ち回り?」


「え、祭り、ですか?」


 声を上げたのはカナメさんでした。


「ん? そだよ。私も王都ここ出身じゃないからよくは知らないけど、毎年、なんかそういうのがあるんだって」


 要するに、今年も一年何事もありませんように、ということを願う行事のことです。開催中は多くの人々がにぎわって、街全体や城もきらびやかに飾られます。


 もちろん、近衛騎士団は警備の仕事につかされることになり、楽しむ暇などないのですが。


「くか~……」


 疲れたのか、その場ですっかり眠りこけているカレンさんを見ました。


 婚約者としての贔屓目もあるかもしれませんが、やはりものすごくかわいい。


 こうして酒をぐいぐいとあおって泣き上戸になるカレンさんもいいですが、カレンさんは笑顔が素敵なので、できれば楽しく笑っていて欲しい。


「カナメ隊長、うちも多分警備の仕事、ありますよね?」


「ええ、多分。机の上に……あの、まさかサボろうなんて思ってたりしないよね?」


「え? えへへ……」


 サボりはしないですが、やることはちゃんとやるつもりです。


 カレンさんとのお祭りデート……いい響きです。

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