10 今度こそ離れ離れになるのでいじける女騎士がかわいすぎる件 1


 連邦は、北の王都、東の帝国(今は王都領)に並ぶ大陸のことを指します。


 特徴として挙げられるのは、おもに高い知能を持った魔獣や精霊、エルフ族やドワーフ族などの国がそこに集まっているということ。

 

 魔獣や精霊たちは、南の諸島連合しかり、王都の遥か北にある未開拓領域含め、それこそ世界中に散らばっているのですが、人間とほぼ同じ知能を持つ存在は、連邦に集まる彼らしかいないそう。


 ちなみに、人も少数ながら住んでいる、だとか。


「……と、いう認識でいいかな? タック君」


「まあ、そんな感じです。一応、俺もそこの出身ですから」


 先日別れたドラゴンから詳しい話を聞くため、僕たちは指定の時間ぴったりに、この前の現場から少し離れた草原にいました。


 メンバーは、僕の第二分隊からはカナメさんとタック君。そして、交渉役であるエルルカ様とカレンさんの計五人です。


【……先日はどうも】


 依頼主はすでに僕たちのことを待ちわびていたようで、姿を認めるなり首をぺこりと丁寧に下げました。


「どうも……って、だいぶ小さくなったね」


 僕たちと戦った時とくらべて、随分とスケールダウンしていました。


 羽を広げても、多分、鷹ぐらいの大きさしかありません。


【まあ、私も連邦あっちではそこそこなんで、このくらいの変化は……】


「あら、あなたが連邦の……こんにちはトカゲさん」


【ドラゴンです。お初にお目にかかります、エルルカ姫。私の名はシール。竜公国というところで武官をしております】


「ほう……それにしては弱いんじゃないか? 姫様の言う通り、ここはドラゴンからトカゲにジョブチェンジすべき案件――」


【いや、アンタたちが強すぎるんですけど……あの、お願いですから翼を触るのやめて! 痛いっ、強引に引っ張るのやめて! もげる、もげちゃいますからっ!】


 まあ、だからこうしてお願いに来ているのでしょうけど。


 カレンさんをまあまあと宥めて、本題へ。


「それで、トカ……シールさん、私たち王都にお願いとはなんでしょう?」


【どんだけトカゲにこだわるんですか……いえ、最近ウチの国の集落を荒らしまわっている人間どもがいまして……】



 以下、シールさんの長々とした前置きが続くのですが、要約するとこんな感じ。


・ それまで平和に暮らしていたはずの国で暴れ回っている人間たちがいる。

・ 本来なら自分たちで始末すべきところだが、あまりに強すぎて手が出せない。

・ 他の国に頼もうにも、自分たちの国のことは自分でなんとかしろと言われる。

・ 仕方ないので、竜公国から、地理的にわりと近い王都に、ダメでもともと助けを求めてみようか。あの帝国もなんかやったらしいし。


 となったそうです。


 で、念のため、力試しに僕たちを脅かしてみた、と。


 鉱山を乗っ取るつもりは最初からなかったようです。


【近衛騎士団の実力……想像以上でした。特にそこのお二方は……正直もう顔も見たくない感じです】


 今の僕とカレンさんが力を合わせて倒せないものは(多分)ありません。


 帝国最強である女王アスカさんすら、二人の愛と絆で打倒したのですから、そこらへんのごろつきが何人束になったところで敵ではありません。


「ところでトカゲさん、あなた方の国で暴れ回っているという人たち、結構な力がおありのようですが、詳しくはどんな人なのですか?」


 それは僕も気になるところです。


 シールさんぐらいの知能のあるドラゴンたちであれば、たとえ敵が強くても、知恵と、なにより数で押しつぶすことだって可能なはずですが。


【ええ、実はその、なんとも面妖な能力を使う者たちで……特に厄介なのが、炎を使うヤツで】


「炎、ですか? 魔法とかではなく?」


【ええ……口では説明しづらく……ああ、そうだ。ちょうどそこのお二人と似たような感じだったと記憶しています。色は青ではなく、もちろん赤っぽいですが】


「「……ふむ」」


 僕とカレンさん、声を発したのは同時でした。


 これは予感でしかありませんが、大元の『炎』の所有者であった『勇者』や『女王』が消えてしまった後も、なぜかその能力は、僕やカレンさんが使えるように、この世界に残っています。


 もしかしたら、僕たち以外にも、似たような能力者がいるのかも。


「それであの、姫様、どうされるおつもりで……?」


 カナメさんがおずおずと訊いてきました。


 このメンバーに入っている以上、依頼を受けた場合は、隊長として竜公国に行かなければならないでしょうから。それは気になります。


「そうですね……即決、というわけにはいきませんが、条件次第でその依頼、お受けいたしましょう」


【ほ、本当ですかっ!?】


「はい。帝国同様、他大陸の国と交流を増やしていくのはメリットも大きいですし、なにより、その『ならず者』の皆さんが王都こちらに来ないとも限りませんから」


 受けるとなると、では誰を派遣するか、という話になってきます。


 おそらく僕とカナメさんは確定。そして、


 予想通りの僕の隣から、すっと立候補の手が挙げられて――。


「ふっ、やはりここは私が行くしか――」


「あっ、カレン、もちろんあなたはダメですよ?」


「にゅっ……?」


 カレンさん、そんな変な声出しても姫様の決定は覆らないと思いますよ?

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