8 久々の共同作業で張り切る女騎士がかわいすぎる件 2
「行くぞ、ハル」
「はい」
カレンさんの言葉を合図に、僕たち二人は同時に集団の中へと殴り込みをかけました。
圧倒的多数 対 人間たった二人――本来ならどう考えても不利な状況に違いありませんが、このことを忘れてはいけません。
僕もカレンさんも、それなりに規格外であることに。
「ハアッ――!」
嬉々とした表情を浮かべて、カレンさんが一足早く敵のど真ん中へと切り込んでいきました。
カレンさんが剣を一薙ぎするたび巻き起こる斬撃と衝撃波により、僕たちに群がろうとする敵があっという間に吹っ飛んでいきました。
カレンさんの剣を纏っているのは、本来なら【勇者】の魂の消滅によって喪失したはずの青い炎。
なぜまだ力が残っているのかはわかりませんが、カレンさん曰く『多分、能力だけ置いていってくれたんじゃないか?』とのこと。
でも、それなら説明のつかないことが一つだけ。
「ははっ、弱い弱い! これじゃあ準備運動にもならんぞっ! なあ、ハルっ!」
「そっ、そうですね……」
僕に背後を任せてまっすぐに突っ走るカレンさんは初っ端からノリノリでした。一応、罠だったり、闇討ちといった奇襲を警戒していたのですが、それすらまとめて吹き飛ばしているので、正直、今のところ僕の出る幕はありません。
もうカレンさん一人でいいのではないでしょうか。
「ハル、この後の道順は?」
「この後二手に分かれる道を右ですね。そこから梯子で下に降りて、後は大きな通路を真っすぐです」
そう言って、僕が手のひらから明かりがわりに出したのは、カレンさんが纏っているものと同じ、静かに煌めく青色の炎でした。
僕にもこれが発現したのは、ちょうどカレンさんと同棲生活を始めたあたりのこと。ちょうど食事を作ろうと魔法で火種を出そうとした瞬間、詠唱なしで、いきなり指先から蒼炎が迸ったのです。
カレンさんと精神的にも肉体的にも繋がることによって、本来カレンさんのものだった異能が、恋人である僕にも移ったんじゃないか――そんなふうにマドレーヌさんやライトナさんは言ってましたが、はっきりした原因はわからずじまいです。
まあ、そのおかげで僕自身もちょっと強くなったので、騎士としては喜ばしいことではあるのですが。
「ハル、足場をっ」
「了解っ!」
奥の採掘場へと続く深い穴へ躊躇なく飛び降りたカレンさんに向けて、僕はすぐさま炎を打ち出しました。
形は炎ですが、触ってもやけどしない、しかも、物理的衝撃を吸収してくれるクッションのようなものです。カレンさんは相変わらず身体機能の向上や剣にまとわせる方法をとっていますが、僕のほうはより色々な形で、この異能を活用していました。
名前は『願いの炎』。さすがに年齢を若返らせたり、時を戻したりといった反則的なことはできませんが、それでも便利は便利です。あと、使っても体内に戻ってくれるので、
傍らの僕が全面的に支え、それを受けるカレンさんがなんの躊躇いもなく思い切り剣を振るう。
敵陣のど真ん中に自ら突っ込んで荒らすだけ荒らして去っていく――近衛騎士団の『旋風』が、より凶悪な『暴風』となって、改めて戦場に戻ってきた瞬間でした。
「ふんっ――!」
青い闘気を込めた突きによって魔獣の壁を破壊し、僕とカレンさんは、ものの数分で、目的地である一番奥の採掘場へと到達しました。
普段は未採掘の原石から放たれる燐光によって採掘部屋内は明るいのですが、やはりほとんどを魔獣の餌になったのか、わずかに白い光がちらほらあるのみで、真っ暗闇に包まれていました。
【――ほお、たった二人で、この場所まで来るとは】
「あ、ところでカレンさん。ちょっとこれはやりすぎだったんじゃないです? ほとんど僕たちで倒しちゃって、カナメさんたちの仕事がなくなっちゃいましたよ」
「そんなこと言って、お前だって何気に道中ノリノリじゃなかったか?」
「それはカレンさんがいけないんですよ? カレンさんが、面白いぐらいに僕の思った通りに動いてくれるんだから」
【……おい、ニンゲンども】
「それを言ったら私だってそうだぞ。お前が面白いくらいに私のしてほしい通りに動いてくれるから、私もつい気分が高揚して」
「カレンさんが」
「ハルが」
「「……ふふっ」」
改めて最高のコンビであることを確認し、僕とカレンさんはお互いに笑い合いました。
普段の生活でも仕事でも、やっぱりカレンさんと一緒にいたい――そう、この時僕は強く思いました。
【いや、あの……】
「あ、ところで、この後も仕事って入ってます? もしないんだったら、たまには外食でもしません?」
「私はハルのいつもの手料理でも全然問題はないが……お前がそう言うなら。仕事はあるが、すぐに片付ける」
「えへへ、じゃあ今日はゆっくり過ごせますね最近、あっちのほうもご無沙汰だし」
「ばっ、だからそういうのは仕事中に言うなって……まあ、別にお前がしたいのなら、いいけど」
【我を無視をするな、ゴラアアアアッ!!】
と、さっきから微妙に僕たちの会話に割り込んできていた、魔獣たち主と思しき龍が咆哮を上げました。だいぶ魔法鉱石を体に取り込んでいるのか、鱗全体が魔法の鎧で覆われているかのように、様々な属性の光を放っています。
あと、人語を喋るぐらいには知能が高いです。
あまり見たことない珍しい種ですが、ここでは宝石龍、とでも呼んでおきましょうか。
「もう、なに? さっきから人の会話に割り込んできてさ。邪魔だから、ちょっと大人しくしててよ。はい、『待て』」
【ングアアアアッ!!】
ペットのごとき扱いを受けた宝石龍が、我を忘れて怒りの咆哮を上げました。
喉の奥から漏れている魔法光は、おそらくこれまで取り込んだものをエネルギー源としたブレスでしょう。
見た感じ、まともに喰らうと軽く体が消しとんでしまいそうなほどですが、
【死ねええええっ!!】
「――ふんっ!」
それは、僕やカレンさん以外の人たちにとっては、です。
【……は?】
カレンさんの剣の一振りによって、怒りの一撃があっさりと打ち消されたかと思うと、
「貴重な夫婦の会話を……邪魔、するなあああっ!」
【ンぐアッ……!?】
続けざまに振り下ろされた脳天への一撃で、あっという間に勝負は決してしまいました。
「……あ、やっちゃった。ハル、これどうしよう?」
「大丈夫ですよ。鱗が硬い分死んではないみたいですから、無理矢理起こして、それでカナメさんに戦わせてやれば」
【な、なにこのバケモノども……あぐっ】
自分のことを棚に置いて、この龍、なんて失礼な物言いでしょう。
まあ、それについては水でもぶっかけて起こしてから問いただすとしましょう。多分、他にも話したいことが彼にはある気がしていますし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます