7 久々の共同作業で張り切る女騎士がかわいすぎる件 1
本日の目的地である鉱山都市についた僕たちは、すぐさま所持品、装備品の確認をして、進軍の準備にとりかかりました。
標的である魔獣たちが都市内にある炭鉱の中をほぼ占拠してしまっているとのことで、もう数日は仕事が止まってしまっているとのこと。ここでとれる魔法鉱石は品質が良く、騎士団の装備の素材としても使われているので、早いところ供給を再開させたいようです。
「カナメ隊長、指示をお願いします」
「えっ……う、うう、うん」
隊長としてこういった作戦に携わるのは初めてとのことで、カナメさんはがちがちに緊張しています。副隊長なので、僕がかわりにやってあげようかとも思いましたが、そこはカレンさんに止められてしまいました。
「……懐かしいな。まるで昔の私を見ているようだ」
指示を待つ部下の視線にあたふたするカナメさんを眺めて、カレンさんがそう呟きました。もちろん隣は僕です。
「へえ、カレンさんにもあんなどうしようもない時期があったなんて」
「当たり前だ。私だって、初めから分隊長だったわけじゃない。剣の腕に自信があっても、人を率いるのはまた別の話だからな」
僕がカレンさんと出会ったときは、すでに『鬼の騎士隊長』として前線でバリバリ部下たちを引っ張っていたので、新隊長時代のカレンさんとは微妙にかぶってはいません。
緊張でがちがちになって、噛みまくりのカレンさん……そんなかわいい姿がリアルタイムで拝めないだなんて。僕、くやしいです。
「え、っと、まずは……タック隊員、でいいのかな? 先行してもらって、敵をおびき出し、それで……」
さきほどからカナメさんがちらちらと僕のことを見ていますが、ぐっとこらえて気づかないふりをしました。
これまでなにかと僕のサポートに依存しっぱなしでしたから、徐々にそこからひとり立ちさせなければ。
「敵をおびき出して各個撃破。数が減り、炭鉱奥にいると思われる主の守りが手薄になり次第、全員で突撃して殲滅……こんなところでいいか?」
「は、はいっ、そんな感じでお願いしますカレン隊長!」
「私は助っ人Aだと何度も言っているだろう。今日の私は下っ端なんだから、上手く使えよ」
といっても、今回、カレンさんはよっぽどのことがなければ作戦には参加しないようになっています。保険のような扱いなので、初めからカレンさんありきで作戦を組むことはできません。ただ、
「あ、あとハルく……じゃない、副隊長は、タック隊員の支援をお願いします。指示のほうは、その……」
「隊長がやってくれるんですよね? では、僕も今日は一隊員としてやらせていただきます」
僕のほうはきちんと参加するので、困ったときは僕を自由に使ってくれてかまいません。
それに今日はいつもと違ってカレンさんもいますから、たまにはかっこいいところも見せたいですしね。
×××
作戦指示後、カナメさんやカレンさんのいる本隊とは別に、僕とタック君は先に行動を開始し、いち早く炭鉱の入り口へとたどり着いていました。
厳重に閉鎖された入り口の奥からは今も、唸るように魔獣たちの鳴き声が響いてきています。
予想以上に繁殖のスピードが速いようなので、より用心してかからなければなりません。
「……副隊長、あれ、どうします?」
と、タック君が指さす先にいたのは、数匹の小型の
魔獣の中でいえば、ドラゴンなどは下手すれば人間並みの知能のを備える種類もいるので珍しいことではありませんが、その分だけ危険度が高くなるので、より気を引き締めなければならないでしょう。
ただ、それでも問題はないと思いますが。
「一、二、三匹か……タック君、アレ、弓で撃ち落としたりとかできる?」
「無理言わないでくださいよ……力いっぱい弓を引けば高さは余裕ですけど、その分だけ精度は落ちますし、的も動いてますから」
「そう。じゃあお願いできる?」
「え?」
タック君が怪訝な表情で僕を見てきました。多分『今の話聞いてた?』と言いたいのでしょうが、もちろん聞いています。
「狙いは適当でいいよ。三本同時、力いっぱい放ってくれればあとは僕がなんとかするから」
「……信じますよ?」
「うん。タック君にはいつも気をつかってもらっているから、そのお礼」
そう言って、僕はすぐさま立ち上がり、魔法の準備に入りました。
実は帝国での一件以来、僕の体にもちょっとした変化があり、通常の魔法をつかうのに、多少の準備が必要だったのです。
「副隊長……なんですかその青く燃える
「魔眼の一種ってとこかな……どう? かっこいいでしょう?」
本来この力は、今は亡き帝国の【
もちろん以前のような桁違いの異能は消えてしまっていますが、このおかげで、僕の使う魔法の威力が格段に上がりました。
「本当、アンタら二人って規格外だな……」
「それ、みんなに言われる」
呆れて肩をすくめつつも、タック君はすぐさま弓の向きを上空へと向けました。
放つ矢は三本。もちろん、同時に撃ち落とすつもりです。
「よし……いいよ、タック君!」
「了解っ!」
僕の言葉を合図に、限界まで張った弦から三本の矢が空気を切り裂くように飛び出していきました。
予告通り、三本とも狙いは大きく外れています。上空の翼竜も、まるでそれを馬鹿にするように見下ろし、ギャアギャアと鳴いていました。
次の瞬間には、矢がそれぞれの急所を刺し貫いているのに。
「よし、これでオッケーと。あれ? どうしたのタック君?」
「い、いえ、なんでも……」
風の魔法で矢の軌道を曲げ、翼竜の鱗を貫くように威力を高めただけで、そんなに難しいことをしたつもりはありませんでしたが、それでもタック君にとっては驚くべきとことだったようです。
「そうだぞ、タック。ウチのハルの本当の実力からすれば朝飯前……こんなことで驚いていたら困るというものだ」
「そんなもんですかね……って……」
と、さらにタック君が声の主のほうを見て、
「カレン分隊長、なんでアナタがこんなところにいるんすかね……?」
「気にするな。やばいと思ったが、抑えきれなかっただけだ」
「何をですか、何を……」
やはり予想通りカレンさんがついてきていました。口では『参加しない』といっても、僕もカレンさんも、互いにコンビを組むのは久々のことですから、一緒に
「大丈夫だよ、タック君。もともと作戦はカレンさんの戦力なしで立案してたから、僕らのところに戦力が増えても問題ないよ。それに、予想より、敵側の規模も大きいみたいだし」
「それはそうですけど……まあ、考えようによっては俺がより安全だからいいか……」
「そういうこと。僕とカレンさんで道は切り開くから、タック君はカナメさんたちの誘導をお願い」
「わかりましたよ、もう」
諦めたように大きくため息をつき、タック君が僕たち二人の後ろへとさがりました。ごめんなさい、タック君。このお返しは、いつかきっとさせてもらうから。
「……さて、久々に行くとしようか、ハル」
「はい。どこまでもお供します、カレン隊長」
そう言って、全身に青い闘気とやる気をみなぎらせた僕たち二人は、大量の敵が待つ坑道内部へ、正面から堂々と潜り込んでいくのでした。
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