17 彼氏を盗られる女騎士がかわいすぎる件 1
「
「そうねえ、今まではちょっと観察に忙しかったけれど、それももうなくなったから。これからは、もうちょっと参加できると思うわよ?」
そんな言葉で、ミライさんと気安く会話を交わすと、彼女は、マーメイとの僕の戦場となっている円卓へと近づき、そして彼女の席と思われる場所へと座りました。
円卓の奥側中央にある『Ⅰ』と刻まれた椅子のすぐ隣の『Ⅱ』の席。ミライさんの『Ⅲ』の席とは、『Ⅰ』を隔てて隣り合っている格好です。。
どうやら、決闘の行方を見守るつもりらしいですが――。
「マーメイ」
「はっ!」
座についた
やはり、十三星でも、
その証拠に、彼女がその場に姿を見せる前と後では、まわりのメンバーたちの体の強張り方が違いました。
女王の妹でもあるチココですら動揺をしていましたし、ナツに至ってはチココの後ろで小さく縮こまっています。
「これから決闘をするの? あの子と」
「はい、あの者の無礼な振る舞い、いくら新しい仲間の従者とはいえ、とても看過できるものではありません。ですので、これから皆さまに代わって鉄槌を下そうと」
「そう。それじゃあ死なない程度に頑張ってね」
「了解しました。殺さないよう手加減し、十三星の厳しさをあの女に刻み込んで――」
「いえ、私が言いたいのはそういうことじゃないの」
女王が妖艶な笑みを浮かべつつ僕のほうを見つめ、言いました。
「――死なないように頑張るのは、あなたのほうよ? マーメイ」
「は? それは、どういう……」
「ミライ、始めて頂戴。うふふ、こんなにも心が高揚するのなんていつぶりかしら……!」
ミライさんへそう指示を出すと、女王は、椅子の背もたれに身を預けて戦いの合図を待ちます。
本来なら、味方であるマーメイの方を応援してしかるべきなのでしょうが、なぜか女王のルビーのごとき真っ赤に燃える瞳は、相変わらず僕のほうを照準に合わせたままです。しかも、やけに熱い視線。
さっきのマーメイとのやりとりからもわかるように、どうやら彼女は僕のことを随分とかってくれているようです。ですが、なぜそんなにも肩入れするのか不明です。
僕と彼女が会ったのは、この場が初めてのはずなのに――。
「それじゃあ、女王がそう言ってることだし始めましょうか。ルールはさっき言った通り。この円卓から退場した時点で負け。生死は問わないけど、ほどほどに。それじゃあ、始め」
「「っ――!」」
ミライさんの宣言とほぼ同時に、僕とマーメイは同時に飛び出しました。
こういう状況の場合、まず初めは受けに回ることの多い僕ですが、今回は積極的に攻めることにしました。
マーメイの攻撃を最初に受けた時にわかりましたが、彼女の身のこなしはおそろしく早いです。魔法を使えるような感じはしませんが、その不利を自身の身体能力で埋めるタイプでしょう。
それに、もっているあの武器が非常にやっかいです。
ただの
「なっ、思ったよりも速――!?」
「ハアッ!!」
気合を込めた僕は、自身の魔法を込めた光剣をマーメイ目がけて振り抜きました。決闘の合図が開始される直前から今現在もなお、ずっと重ねがけを続けている
対応に遅れ、防御の空いた彼女の脇腹へ、横薙ぎで放った斬撃が捉えようとしていました。
ただ、おそらくこの攻撃はあの変なブラシで防がれるでしょう。彼女の反応速度から考えても、これぐらいの虚をついたぐらいで倒れるなら、十三星は名乗るなど程遠いはず。
ですが、それでいいのです。
それで、僕の思い通りになるのですから。
「くっ、させる、か――」
想定通り、マーメイが攻撃動作を中止し、緊急回避に入りました。僕の攻撃を完全に躱すことはできませんから、もちろん自身の武器を守りに回すはずですが、
「――と、私がお前の思い通りに動くとでも思ったか?」
にやりと口元をゆがめたマーメイが、次の瞬間、信じられない行動にでました。
なんと、防御に使わなければならないはずの武器を手放し、自身の体と腕だけで、僕の斬撃を受け止めたのです。
「えっ……!?」
もちろん、斬撃はそのままマーメイの体にまともに入りました。防御術式を完全に無視する『破魔術』も込めていますから、来ているメイド服にどんな防御魔法が張られていても、それは簡単に突破します。
彼女もさすがに苦痛に顔をゆがめていますが、しかし、口元に浮かぶ笑みはそこに張り付いたままです。
「どうした、そんな呆けた顔をして? 今度は私の番になるわけだが、よもや、それを忘れたわけであるまいな?」
「しまっ――!」
刃がどんどん体の中を通っていくのも構わず、マーメイは、一度手放したブラシを力の限り蹴りました。
彼女のあらん限りの膂力の乗った掃除用具は、コマのように高速回転しながら、復讐だと言わんばかりに、彼女と同じく僕の脇腹へ。
瞬間、強い衝撃と鈍い痛みの後、僕はそのまま真横に吹っ飛ばされました。
「んっ、んのっ――!」
この決闘は円卓から外に出て、床の赤絨毯に着地した時点で負けのルールですから、場外だけは絶対に避けなければいけません。
円卓へ向かって思い切り手をついて、その場で何度かバク転を繰り返して体勢を立て直した僕は、円卓の端、土俵際でなんとか踏みとどまることに成功しました。
そのちょうど後ろには、カレンさんがいました。
「……大丈夫か?」
「ええ、問題ありません。ちょっとあばら骨にヒビが入ったぐらいで」
「そうか、なら行け」
骨にひびが入った時点で、普通の勤め人なら即病院ですが、ブラックホークに所属している者からすれば、こんなものはかすり傷程度です。さすがに今は改善しつつありますが、昔は『腕が千切れるまでは普通に働ける』なんて格言まであったほとですから。
「っと、そうだ。その前にお前に伝えておきたいことがある」
「――カレン、決闘中の助言は禁止よ」
「それなら問題ない、私のはただの応援だからな」
注意してきたミライさんにそう言って、カレンさんは僕のほうへと近づき、ぽん、と背中を押してくれました。
「私のために全力で頑張れ。負けたら承知しないからな」
「――はい、わかりました」
やっぱりカレンさんにはすべてバレていたようです。仕事中も、カレンさんにばれないようこっそり鍛錬していたのですが、そこはやはり恋人の勘というやつなのかもしれません。
もちろん、実はカレンさんがずっと僕のことを見ていたという可能性も否定はできませんけど。
しかし、カレンさんの許可ももらえたので、これで僕もきっちりと決闘を終わらせられそうです。
「あ、それなら私からもちょっと一言いいかしら?」
と、僕が円卓の中央へと戻ろうとしたところで、さらにもう一人から声がかけられました。
振り向くと、そこにいたのは、
「えっと……なんでしょうか?」
「あなたの名前を訊いてもいい?」
「ハレイ、といいます。女王、これからよろしくお願いします」
「ハレイ……響きが良くないわね」
んー、と考え込む仕草を見せてから、彼女は僕に告げました。
「あなた、これからは『ハル』と名乗りなさい。そのほうが、あなたらしくていいと思うわよ?」
「っ……!?」
相変わらず僕のことだけを見続ける彼女の真意が読めません。
なぜ、僕の本名を知っているのでしょうか。もしかしたら、先程のミライさんとの面接とのくだりで話の内容が漏れていた可能性もありますが……それならなぜ、秘密裏に手を結んでいるミライさんと僕達のことをこの場でばらさないのか。
それに、どうして僕自身、こんなにも彼女のことを気になっているのでしょうか。すぐ近くにカレンさんが、僕の一番大切な人がいるのに、それを差し置いて。
「私の名前はアスカよ、ハル。
「それは、決闘に勝ってから言っていただけると嬉しいです」
「いえ、その必要はないわ」
「え?」
「だって、あなたはもうすでに私達の『一員』なのだから」
「?? それは、どういう——」
彼女は一体何を言っているのでしょう? 僕がすでに十三星の一員? 王を除いた女の子しかなれないはずの幹部に、僕が?
と、その時、僕の周囲が真っ赤な炎で包まれました。
魔法を発動しているわけでもない、そして温度も感じない不思議な紅の炎。
「焦がれなさい、ハル。私の愛の炎で、すべてを目覚めさせてあげるわ」
女王がそう宣言すると、それまでチココの魔法によってかけられていた精霊の偽装魔法が、みるみるうちに解除され、本来の姿である男の僕の姿が、十三星の全員の前で曝されてしまいます。
そして、左目のあたりに感じる、熱い痛みも。
彼女は、いったい僕に何をしたというのでしょうか。
「は、ハル――お前、なんだ、なんなんだその『瞳』はっ!?」
「え? 瞳、ですか??」
これまでに見たことのないような驚愕の表情で、カレンさんが僕へそう問いかけてきました。
元の姿に戻ったことではなく、今もじくじくと痛む左目のことを訊きたいようですが、それは僕こそ訊きたいことです。
「そ、そんなっ……面影が似てなくもないとは思ったけど、まさか、こんなことって……!!」
「おにい、ちゃん……?」
助けを求めるように、チココとナツのほうを見ますが、やはりカレンさん同様に、よくわからないことを言うばかりです。
いったい、僕の体になにが起こっているのでしょうか。
「うふふ、混乱しているわね。まあ、無理もないでしょうね。あなたは今まで、何も知ることなく、これまでの人生を歩んできたのだから」
言いながら、女王が僕のほうへ小さな手鏡を投げてきました。
自分の顔を見てみろ、ということなのでしょう。
「そんな、これはっ……!!?」
自身に起きた変化を視界に捉えた僕は、これまで生きてきた世界がひっくり返るかのような気分でした。
なぜなら、僕の瞳に浮かんでいたのは——。
「……お帰りなさい。十三星序列『Ⅰ』番目、【
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