16 敵陣の只中で彼氏(彼女)自慢をする女騎士がかわいすぎる件 2
粛々とした雰囲気の中で行われている会議の最中に、このような煽り方もどうだろうかと思いましたが、無事、挑発に乗ってくれて、内心ほっとしました。
元の幹部だったユーリのことを見た時から、誰か一人は沸点の低い人はいるだろうとの見立てからの狼藉。
チココの隣、ということは十三番目ですが、正直、序列が本当に実力順なのかは不明です。
まあ、何はともあれ相手は決まりました。
あとは、決闘に勝利するだけです。
「貴様……名を名乗れ」
「私はハレイ。元、王都近衛騎士団の騎士。そして、今はそこいる新しい【
「下っ端の貴様に教える必要などないが……いいだろう。私はマーメイ。帝国
近衛騎士団十三星の十三番目【
管理ということは、多分、このお城のお掃除なども彼女が担当しているのかもしれません。普通に過ごして汚すのならまだしも、こんなふうにわざと失礼千万な振る舞いなら、そりゃあ怒るでしょう。
まあ、今回はそうなるように仕向けたわけですけど。
「
「断る。この称号と今与えられている仕事は、私の天職だ。初代様から代々続くこの王城を、昔と変わらずお綺麗に保つ……貴様のような、円卓の上に土足で乗るような輩に、この仕事が務まるとは――」
「ああ、いやいや私が言いたいことはそう言うんじゃないんです。仕事とか、天職とか、貴女の話は聞いてないですから」
言って、僕が円卓に掛けられた白いテーブルクロスをさらに汚すようにして足で踏みにじりました。
「タダで明け渡してくれたら、余計な怪我せずに済みますよ? って話なんですが、おわかり?」
「この、馬鹿にしてッ……!」
僕の挑発に完璧に頭に血が上っているらしいマーメイが、僕と同じく円卓の上に飛び乗りました。
「あれぇ? いいんですか、飛び乗っちゃって。汚れるのが嫌なはずなのに、自分ならいいんだ」
「汚れたらまた洗えばいいだけのこと。私が今やるべきことは、目の前にいる汚れの元を、
マーメイが手にもっていた長い柄のブラシを構えました。
なんの変哲もない、それこそどこの雑貨屋でも売っているようなただの木製の掃除用具ですが、それで僕と戦うつもりでしょうか。
僕はもちろん、自身の魔法剣です。貴重な魔法鉱石を原料とした鋼で、刀身はカレンさんの大剣よりももちろん細く短いですが、僕の
「そんな掃除用具でどう戦うの? とでも言いたそうな顔だな」
「やっぱりわかっちゃいます? 手加減としたほうがいいですか? これだと一瞬で勝負が決まっちゃいま——」
と、僕がさらにマーメイに対してナメた口を訊こうとした瞬間、
「――大丈夫かどうか、自分の体で確認してみろ」
マーメイの得物であるブラシの先端が、僕の側頭部を捉えようとしていたのでした。
「っ――」
速い――!
木製とは言え、素材自体は固く丈夫そうですから、直撃を受けるのは厳禁です。
僕はとっさに剣を差し入れて、なんとか直撃を避けますが、しかし、防御魔法の構築が不十分などもあり、僕はそのまま円卓の上から壁のほうまで飛ばされ叩きつけられてしまいました。
「いっつつ……」
「……私の攻撃に耐えるか。不意打ちにもある程度冷静に対処する――どうやら騎士という話は嘘ではないようだな」
円卓の上で、マーメイが、得意げな表情でブラシをくるくると回していました。
どうやらあれを棒術さながらに振り回すのが、彼女の戦い方のようです。
身体能力も、おそらくユーリに匹敵するでしょう。
やはり、そこは十三星というところでしょうか。
「……丈夫な掃除道具ですね。私も一応防御のときに刃を入れていたはずだったのですけれど」
目を凝らしてみても、やはりマーメイの持つブラシには、傷一つついていません。使い込まれてところどころ内部から黒ずんではいますが、年季が入っている以外は本当にきれいなものです。
「初代様の時代より代々、受け継がれているブラシだ。長い年月の間、染み込んできた城の歴史を象徴する代物が、そんななまくらごときに負けるわけがないだろう」
それだけの年月を、補修もなく、あれだけの乱暴な使い方をしても十分耐えうるということは、それだけの素材や魔法などが込められているのかもしれません。もちろん、日々のメンテナンスを怠っていないというのもあるでしょうが。
「ふうん、それじゃあその歴史も今日で終わりですね」
体勢を立て直した僕は、再び、マーメイのいる円卓へと跳躍しました。
同時に、魔法剣に自身の全属性の魔力を込めます。
「へえ……! なるほど、これは面白そうじゃない」
光剣を携えた僕の姿を見て、ミライさんが椅子から立ち上がりました。
「それじゃあ今から、カレンの従者である騎士ハレイと、【
その提案に、僕は頷きました。マーメイも同様です。
もちろんフィールド無制限、時間も無制限の生死を問わない
最終目標はあくまで女王です。そこまではなるべく力は温存しておきたい。
「カレン、従者であるハレイの主人として聞くけれど、あなたも、この条件で異存ないわね?」
「ああ、もちろんだ」
ミライさんの問いに、カレンさんは当然のようにそれを了承し、さらに続けました。
「こんな雑魚に負けるような、ヤワな鍛え方はしてないからな。私のハレイは、とても凄いからな。多分、この場にいる相手が誰であっても、負けることはありえないんじゃないかな」
「――――」
その言葉に、周囲にいる幹部たちの興味の視線が、僕一点に集中しました。
余計な一言を、とも思いましたが、得意気な顔で彼氏(いまは彼女)のことを自慢するカレンさんがかわいかったので、許しておくことにします。
「じゃあ、
「抜かせ。貴様のその
円卓の中心で互いにガンを飛ばし合い、ミライさんからの決闘開始の合図を今か今かと待ちわびていると、ふと、
「――あら? 久しぶりに顔出してみれば、随分と面白い余興をやっているじゃない? ねえ、ミライ?」
これまでの誰でもない、透き通った高い女性の声が響いたのでした。
いつのまにか開いていた、会議室の扉の前に立っていたのは、燃え盛る炎のような真紅のドレスを身に纏った、これまた炎のごとき赤髪の少女。
くすくすと笑いながら、こちら側へゆっくりと歩いてくる少女の称号を、ミライさんとチココが同時に呟きました。
「「
ついに姿を現した本当の標的の登場に、僕は、最終局面の訪れを否応なく感じざるを得なかったのでした。
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