15 敵陣の只中で彼氏(彼女)自慢をする女騎士がかわいすぎる件 1
カレンさんの機転と勢いによって、強引にミライさんという強力な
螺旋階段を降り、赤い絨毯の敷き詰められた通路へ。
埃一つ落ちていないところを見るに、人が少ないと言っている割には意外に清掃なども行き届いているな、と内心、感心をしていると、
「ハル先生!」
「お兄ちゃん!」
そう、途中の道で心配そうな顔を浮かべたチココとナツに鉢合わせました。
彼女達に伝わっていたのは『ミライさんに僕達の目論見がバレた』ことだけで、事の顛末については伝えていません。
二人を安心させるべく、親指を立てて『何とかうまくいった』ことを伝えると、彼女達の顔が緊張から解き放たれるようにして、一気に綻びました。
「チココ、お礼ならそこにいるカレンにしておきなさいな。彼女のおかげであなた達の命は繋がったようなものなんだから」
「ミッちゃん……まさか、あなたが味方してくれるなんて」
「本当、なんでこうなっちゃったのかしらね……長いこと生きていると、思考もどんどん情に脆くなるみたい」
「そうだね。本当、それはお互いさまに……」
二人の会話を聞く限り、どうやら二人の見た目の若さと実際の生きている年齢にはかなりの乖離がありそうに感じます。ナツが生み出された背景からもわかる通り、もしかしたら、二人とも、死霊術を活用して生きながらえているのかも。
じゃあ何歳だと言われると困りますが――おそらくは、本当の意味で生まれた時から今まで、でしょうか。
そして、おそらくは
「カレン隊長、ありがとうございました。本当なんとお礼を言っていいか」
「いや、気にしないでくれ。私も、まさかこんなことになるとは思いもしなかったからな」
「……そういえば、どうやって
ナツが、真っ先に真っ当な疑問をカレンさんへと投げかけました。
「え、まあ、それはその……ねえ?」
「ええ、そうね。ほら、カレン? こう言っていることだし、二人にも説明してあげれば」
「えうっ、わ、私が言うのか!? あれを今ここで?!」
僕とミライさんの二人が話を振った途端に、カレンさんの顔が、火がついたかのごとく真っ赤に染まりました。
「い、いや、あれはただあの場の勢いというか、雰囲気に背中を押されたから言えたことであって、こういう場で改まっていうことじゃ……」
「あのね、ナツ、チココ。カレンさんってば、僕と三十までに結婚したいみたいで、逆プロポーズという荒業をミライさんの自室で――むがっ」
「うわあああっ!? 言いふらすなバカあああっ!!」
慌てて僕の口を塞ぎにかかるカレンさんでしたが、ほぼ全部言ってしまった今となっては、時すでに遅し。
「あらら、カレン隊長ってば……大胆」
「依頼にかこつけて何やってるの? お兄ちゃんと結婚するのは妹である私だけの権利なんだけど?」
「近親婚なんて制度、帝国や王都にもない! だが、依頼にかこつけてってところは何気に否定できないから反論しづらい……くっ!」
ナツの言葉に、カレンさんは苦い顔をするしかありません。
新人隊員のナツに行動を咎められ、反省するしかない隊長のカレンさん。何気にものすごくレアな構図ではないでしょうか。
「おしゃべりはそこまでよ、四人とも。会議室に着いたわ」
通路の角を曲がったところで、一際大きな扉が僕の視界に飛び込んできました。
扉の傍には、主人であるミライさんのことを待つキャノッピがいました。
「いる、会議室、集まった。いない、女王、なんとか、あるとか、用事」
「相変わらずね、我がクイーンは……いいわ。あの人には私からあとで伝えておく。キャノッピ、ご苦労様。
ミライさんの命令に無言で一礼したキャノッピが、僕達の横を通り過ぎていきます。彼女が味方になるということは、その配下であるキャノッピも味方という認識で間違いないのですが、共和国の一件から、どうにも彼女(?)は苦手です。
「会議室に入ったら、それぞれの椅子に座って。場所は序列の数字によって決まっているから、カレンはそこに。ハルはまだ彼女の従者っていう扱いだから、その後ろに」
「わかった。では、後のことはよろしく頼む」
「ええ」
序列三番目のミライさん、そして、十二番目のチココに倣って、カレンさんと、その後ろに称号持ちの従者扱いである僕とナツが会議室へと入室しました。
会議室の中央で煌々と燃え上がる燭台を囲むようにして、円環のような形状の卓があり、それぞれⅠ~ⅩⅢまで数字の刻まれた椅子が置かれていました。
入口より奥側の中央にⅠ、Ⅱとあり、後はそれに近い順からⅢ、Ⅳと、左右交互に数字がふられているようです。
『Ⅰ』と『Ⅱ』、それからライトナさんの不在により現在は空位の『Ⅵ』を除き、その他は全員、ミライさんの呼び出しに応じて集まっていました。
「
「あ、ああ」
椅子に座ったカレンさんのすぐ後ろについた僕は、着席しているその他メンバーの姿を確認しました。
誰がどの称号を持っているのかはこれからの自己紹介で確認となるでしょうが、小さな女の子から、カレンさんよりも年上とも思える女性もおり、年齢層も幅広そうです。
「私はカレラ。元々は王都の近衛騎士団で、五つある分隊の内の一つ、第四分隊で隊長を務めていた。この度、とある理由によって帝国にお世話になることを決めた。皆、よろしく頼む」
「ふうん、コイツが新入り? あの脳味噌が筋肉と百合で出来てるようなバカ女と違って、こっちはわりとマシな面構えをしてそうね。年齢は大差ないみたいだけど」
まず口を開いたのは、僕やナツ、下手したらエルルカ様よりも年下と思えるような少女でした。『Ⅶ』の椅子に座っていますから、序列で言えば、ライトナさんのすぐ下。
「カナタ、喋りたいのなら、まずは挨拶から」
「わーってるわよ、うっさいわね。私は【
「【
まずはカレンさんの席に最も近いカナタと、彼女の向かい側にするリサがそれぞれ申し訳程度に会釈してきました。カレンさんを品定めをする
まあ、仕事中の緊急の呼び出しですから、なかなか歓迎しろというのも無茶というものでしょう。
後、この子たちは、今回の僕のターゲットではありませんしね。
まあ、予定通りに行動を開始しましょうか。
「あの~……お姉さま方、後ろから失礼してもよろしいでしょうか?」
カレンさんのすぐ傍にまで進み出た僕は、卓に座っている全員へむけて手を上げました。
この場ではあくまでカレンさんの従者でしかない僕ですから、こういう発言自体、本来はまずいことであるはず。
ミライさんやチココを除いた全員の厳しい視線が、僕一点に集中しているのが、そのいい証拠です。
「従者が主人を差し置いて、何を失礼するつもりですか? 下がりなさい」
チココの隣に座っている『ⅩⅢ』番目のメイド服姿の少女から叱責の声が飛びますが、それを無視した僕は、そのまま卓の上に飛び乗りました。
「……下がれといったはずですが、これは何の冗談ですか?」
「うるさいから、ちょっと黙ってくれませんかぁ? ねえ、十三番目の雑魚さん?」
「っ……!?」
僕とそう歳の違わないメイド少女が不快感をあらわにしてきますが、それに構わず、僕は、卓についている全員の顔を見回して、こう言い放ったのでした。
「正直ぃ、誰が誰とかどうでもいいので~、どなたか私に称号をくださいませんかぁ? 決闘が必要なのは知ってますから……軽く一捻りして、ぶっ潰してさしあげ――」
と、その瞬間、『ⅩⅢ』番目の少女が、目にもとまらぬ速さで、手にもっていた柄の長いブラシを僕のほうへと突き出してきたのでした。
「いい加減にしろ、この王都の雌豚。お前のような無礼者は、【
「あは、話が早くてとっても助かります。それじゃあ、私にさっさとぶっ殺されてくださいな?」
ということで、今度は僕がカレンさんに男(今は女)を見せるべき時が来たようです。
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