13 面接部屋の中心で愛をさけぶ女騎士がかわいすぎる件 2
力を貸してほしい。
カレンさんの口からでたその言葉に、ミライさんの目が細められました。
「……女王の暴走を止めろ、ね。ふふ、それは面白いお願いね。どういうことか、詳しくお話を聞かせてくれないかしら?」
「もちろんだ。だが、その前に一つだけ確認をしておきたいんだが――」
「
椅子に座り直したミライさんは、天井から垂れ下がっていた紐を引っ張って、伝声管と思しきものを手に取りました。
「キャノッピ、さっきの呼び出しは間違いよ。【
『伝える、メンバー、そう、了解』
ミライさんが下のキャノッピにそう伝えたということは、カレンさんの機転のおかげで首の皮一枚繋がったということを意味します。
となれば、もう僕が出る幕はありません。後は、隊長であるカレンさんに全てを任せます。
「……この話を
「内情を全部聞かずに……その話だと、多分その前から帝国に行こうとは思っていて、チココの話はそのきっかけに過ぎないような気がするけど?」
「ああ、それは……」
カレンさんが僕のほうを見ました。
もともとカレンさんは何がなんでも帝国に行こうとしていた僕についてきてくれた形です。ここに来た本当の目的について、まだ打ち明けてはいません。
「それは僕からお話しますが、いいですか?」
「どうぞ。張本人の口から話したほうが早いでしょうし」
まさか、こんな形で理由を告白するとは思いませんでしたが……後はもうどうにでもなれの精神でいくしかないでしょう。
「帝国に行きたい――そう思ったのは、ハカセやチココと一緒に同行してきたナツがきっかけでした。僕にはそんな記憶全然ないのに、頑なに彼女は『お兄ちゃん』と呼び慕ってきますし、それに体質なんかも……父母はいますが、それはあくまで書類上で、多分、見たことも会った事もありません」
「自分は帝国で生まれたかもしれない――その秘密を確かめたくて、ここに来た、と?」
「ええ。正直、
結婚のくだりまでは説明する必要はないので、そこは省かせてもらいました。
というか、こんなところでプロポーズなんてしたくありませんし。
「なるほど、そう言うことね。じゃあ、もう一つ質問するけど……カレン、どうしてあなたは私に協力を仰ごうと思ったの? 私は敵――しかも、あなた達にとって最も障害となりうる、ね。にもかかわらず、どうして?」
「あなたが一番、
言って、カレンさんは前のめりの体勢となり、続けます。
「ミライ、逆にあなたは疑問に思ったことはないのか? 同じ十三星のメンバーで、しかも
チココの言う『叶わぬ願い』というのが、何を意味しているのかはまだわかりません。しかし、おそらくは王都よりも様々な研究がなされている帝国に身を置く、しかもその国の中枢にいる彼女からその言葉が出ると言うことは、それがまともなことじゃないことぐらい、ちょっと考えれば誰にだってわかることです。
ミライさんも、こうして話が出来るぐらいの人ですから、そのことがわからないはずはない。だからこそ、カレンさんは説得を試みているのでしょう。
「……そこまで言っていたのね。まったく、あの子ったら本当にお喋りなんだから」
困ったように溜息をついたミライさんが、また別の伝声管を繋ぎました。
「チココ、話はすべて聞かせてもらったわ。ナツと一緒にこっちへいらっしゃいな」
一拍置いた後、向こう側より『わかりました』との返事。彼女にもきちんと全てを打ち明けてもらう必要はありますし、ちょうどいいのかもしれませんが……。
「チココを呼んでどうするつもりだ? まだ私との話は終わっていないはずだが」
「いいえ、話はもう終わりよ。面接はこれで終わり。二人とも、ご苦労様でした」
言って、ミライさんは再び召集の鐘を鳴らしました。と、同時にキャノッピへ『やっぱり召集は本当と言うことで』と伝えます。
どうやら説得は失敗のようです。
僕はすぐさま剣に力を込めました。こうなってしまったら、後はもう戦うしかありません。全員が集まる前に、二人がかりでミライさんを始末して、後は正面突破でここから抜け出すしか――。
しかし、予め柄に添えられていたカレンさんの手によって、僕の行動はすぐに制止されてしまいますた。
「待て、ハル」
「カレンさん、でも……」
「今ここでそんなことしたら、それこそ全面戦争だぞ。それに、さっき言っただろう? 私の話はまだ終わっていない、と」
興味なさげにこちら側へ背中を向けるミライさんへ、カレンさんは構わず話しかけました。
「ミライ、こんなことをいきなり聞くのもなんだが……あなたの年齢を教えてはくれないか?」
いきなりの問いに、ミライさんの首がわずかに動きました。
「――肉体年齢でいえば十九歳よ。というか、いきなりレディに年齢を聞くなんて、あなた失礼ね」
言いつつも、ミライさんの体はすでにこちら側を向いています。
カレンさんがどんな意図でそんなことを訊いているのか、興味津々のようです。
「そうか、私は二十九歳だ。季節をもう一つ越えれば、私はもう三十歳になってしまう。『私はまだ二十代だから』という言い訳が使えなくなってしまう大台にな。だからこそ、その前にどうしても済ませておきたいことがあるんだ」
そう言いつつ、カレンさんは僕の体を自身のほうへ抱き寄せてきました。
この子は誰にも渡さない、とばかりに自分の胸を僕の顔に押し付けて。
「私は、この子のことが好きだ。この子はまだ十五歳で、私は二十九――十四もの年齢差だから、正直、騎士団の中でも後ろ指をさされることは多いが、だからといって別れるつもりなど毛頭ない。この子と別れてしまったら、多分、私は一生孤独のまま生涯を終えることになるだろうからな」
「年齢差はともかく、アナタ達が恋人同士だって言うのは疑ってはいなかったわ。で、それがこれまでの話と何か関係があるの?」
「あるさ。まだ話していなかっただろう? 私が帝国へ行くことを決めた本当の理由ってやつを」
僕をそばに置いたまま、カレンさんはある『告白』を口にしたのでした。
「私は、この子と結婚したいんだ。三十歳を迎える前にな」
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