12 面接部屋の中心で愛をさけぶ女騎士がかわいすぎる件 1
つい我慢できずに叫んだ僕を見て、ミライさんが眉を顰めました。
『え? なに? この人何を言っているの?』みたいな顔をしてますが、それはこっちの台詞ですからね。
「どうかしましたか、ハレイさん? これは面接ですから、私がどんな質問をするかは自由のはずですが」
「えっと、それは……そうですね」
しかし、あくまでミライさん本人はこのスタンスで続けるようです。この面接が就職試験なのかどうかは置いておくとして、彼女の言っていることにおかしなことはありませんから、ここは引き下がることにしましょう。
「じゃあ、せっかくですから、まずはハレイさんからにしましょうか」
「あ、はい」
気を取り直し、一呼吸おいてから、僕は『志望動機』を語り始めます。
予想外の質問ではありますが、もちろん、ここで慌てる僕ではありません。
「帝国に亡命する気になったのは、やはりチココさんからの話を聞いたのが大きかったです。この国は、どんな主義や主張、そして考え方を持つ人間でも皆平等に受け入れてくれる——それは、今の私、いや、私達にとってはとっても重要なことでした。その……王都では、『同性』どうしのカップルっていうのは、後ろ指を指されることが多いですから」
言って、僕はそのまま隣のカレンさんの手へ、自身の手を重ね合わせました。
淀みのない口調と、そしてごくごく自然な動作をミライさんに見せつけます。もしかしたら完璧すぎて逆に不審かもしれません。
「チココから話を聞いた、と言っていたけれど、彼女とはどこでお会いしたの?」
「言いにくいのですが……王都の下層区にほど近い宿街です。私は新人で、カレラお姉さまは隊長……すこし不潔な環境ですけど、二人で愛し合う場所はそう多くありませんから」
ライトナさんがどこまでミライさんへ報告を上げていたかはわかりませんが、ここは本当のことを言って問題ないでしょう。カレンさんと愛し合うのなら、僕は馬小屋でもどこでもオールOKですが、僕の今は女の子ですから。
「なるほどね、わかりました。それじゃあ次はカレラさん、お願いできるかしら?」
「は、はひっ!」
カレンさん、やっぱりまだ体が硬いままです。さっきの突っ込みで張りつめた空気をある程度壊れていて欲しかったですが、ミライさんがそれをほぼスルーしてしまったので、余計『ちゃんと答えなきゃ』とでも思っているのでしょう。
普段カレンさんはどちらかというと『面接する方』の役割が多かったはずですから、十数年ぶりの受験生の立場は、やはり緊張するですよう。
なるべく落ち着いてもらうよう、僕はカレンさんの手をしっかりと握りました。
あまり、効果はなさそうですけど。
「あ、あの、やはり自分が帝国を志望した大きな理由といたしましては、やはり、その、先程もハレイが申し上げたと思いますが……」
「ちょっと待って」
ここで突然、ミライさんがカレンさんからの答えを遮りました。
心なしか、カレンさんを見る目が鋭いような気がします。
「カレラさん、私はアナタの言葉を聞きたいのですが? たしかにハレイさんの受け答えは完璧でしたが、いくら同意見だと言っても、アナタなりの意見があるはずでしょう?」
「うっ……そ、それはそうですが」
「なら、もう一度最初からお願いします。では、カレラさん、志望動機から」
はあ、と溜息をついてから、ミライさんがそうカレンさんに訊いたのですが。
「…………」
なんなんでしょうか、この圧迫感は。
就職試験風の面接(?)をやり始めた時にも『おかしな人だな』と思いましたが、それに輪をかけて圧迫面接っぽいことをやるとは。
久しぶりに、思考回路の読めない人に会った気分です。
ちらり、とミライさんを見ますが、表情は至って真剣のままです。ふざけているかは不明。
「え、っと、私が御社を志望している動機は……」
そしてカレンさんはカレンさんで、がっつりミライさんの術中にはまっています。いつの間にか『帝国』が『御社』になっていますし、もうめちゃくちゃです。
う~ん、ここはちょっと仕方がないですが、フォローを入れておくしかありません。このままボロを出されても困りますし。
「あの、お姉さま。そんなに緊張なさらないで。別に上手く答えようなんて思わなくても――」
「ハレイさん、今はあなたに訊いていることはなにもありませんが」
「いえ、私とお姉さまは一心同体ですから。お姉さまへの質問=私への質問にもなるわけです」
すぐさまミライさんから釘が飛んできますが、ここは無視で。
「ふうん……ハレイさん、王都ではまだまだ新人騎士の身分のはずなのに、随分と隊長さんを庇いなれてるのね? 口もお達者だし……さぞ王都でも将来を有望視されていたでしょうに」
そこで、ミライさんの『Ⅲ』の瞳が妖しく光りました。
「どんな壁や難題でも乗り越えられそうな、そんな優秀過ぎるあなたが、どうして
「そ、それはさっき申しあげたとおり……」
「それは表向きの理由でしょう?」
ミライさんが僕の答えを遮ると同時に、言いようのない威圧感が襲いました。
予想通り、ミライさんも僕達のことを警戒していたようです。それゆえの面接ということだったのでしょう。
「私が訊きたいのは、アナタ達がここに来た本当の理由よ。わざわざ
「本当の理由などありません。ユーリさんを倒したのも、ただの成り行きで、元々なろうと思っていたわけではありません」
「ふうん、そう。あくまでシラをきるのね」
言って、ミライさんが指をパチリと鳴らすと、その音に反応するように、建物全体を、ガランガラン、と大きな鐘の音が響き渡りました。
「! 今の音は……」
「気になる? これは召集を告げる鐘の音よ。この城に居る、王と女王を除いた十三星のメンバー全員を集めるための、ね」
「十三星、全員――」
そのことを想像した僕の背筋が、思わず凍りました。
十三星は王を頂点とした以下十二人の従者たちの総称です。ということは、つまり、今回は味方である
ナツを頭数に入れても、こちらが四で、あちら側は八。実力、戦力の両方から考えて、到底敵う相手ではありません。
「言っておくけど、これはブラフではないわよ。後、数分もすれば、下の中央ホールに、私の呼び出しを受けた全員が集まる。そうすれば、ここはちょっとした血の海ね」
「くっ……!」
途中までは上手くいっていたと思っていましたが、やはり計画自体に無理があったのかもしれません。
ですが、百パーセント白状するわけにもいきません。そんなことをすれば、おそらく帝国は即、王都へ『明確な敵対行動』を理由に宣戦布告をするでしょう。
そうなれば、全面戦争は避けられないでしょう。ですから、どうにかこの場を切り抜けなくてはいけない。
そう、僕が足りない思考をフル回転させていると、
「――ハル、もういい」
言って、カレンさんが、僕の名前を呼びながら、やさしく僕を抱きよせたのでした。
「あの、お姉さま……?」
「その呼び方も、ここではもう止せ。確かに私はお前の恋人ではあるが、お姉さまではないのだからな」
カレンさんの表情から見るに、どうやらミライさんにすべてを打ち明ける決心がついているようです。表情も、いつもの凛としたカレンさんに戻っています。
「申し遅れて大変申し訳ない。私の本当の名はカレン。現在、王都近衛騎士団第四騎士分隊の分隊長を務めている。こっちの子はハル。私の中では、騎士団内で最も優秀と思える自慢の部下だ」
「よろしく、カレン。あなたが素性を晒したということは、やっぱり、アナタ達には『本当の目的』があると言うコトでいいのね?」
「ああ、アナタが当初から勘繰っていたようにな。
この様子だと、おそらくカレンさんは本当に全部白状をするつもりなのでしょう。ミライさんからの尋問じみたやり方に耐え切れなくなった、というのもあるかもしれません。
しかし、ここからがカレンさんの力の見せ所でした。
「そこで、お願いをしたい――
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