10 この年齢になって今更面接を受ける女騎士がかわいすぎる件 1


 一応、念のため、倒されたユーリのもとへ。


 カレンさんの突きをまともに受け、突き飛ばされ、そして建物の壁を突き破って――これだけの事実が一遍に起きたことを考えると、もしかしたらさすがに死んでるかも、と思いましたが。


「まだ息はあるかな……さすがは剣闘士グラディエーター、しぶといね」


 どうやら咄嗟に防御したおかげで、一命はとりとめていたようです。


 命だけは、ですけど。その他は骨折やら何やら、色々とヒドイことになっています。それだけ、カレンさんも全力だったということです。


「――ねえ、そこの付き添いの人達」


「「っ――」」


 先程より感じていた気配のほうへ僕が声をかけると、戦いの前にユーリの武器を持ってきていた少女二人が僕の前に姿を現しました。


 互いに身を寄せ合って震えている様子から見るに、どうやらものすごく警戒をされているようですが――まあ、それも致し方ありません。勝利を信じて疑わなかったご主人様が、僕らの、というかカレンさん一人の前に、やられたのですから。


「私達はもうここから離れるから、後はこの人のこと、お願いできるかな? 気絶しているだけだから、まだ死んではいないし――それじゃ」


 彼女の反応を待たずに僕がすぐにユーリの元から離れると、背後から悲鳴にも似た叫びをあげる彼女達の声が耳に届きました。無理矢理にされたとはいえ、今はユーリに心酔しているであろう彼女達ですから、そういうのを見てしまうと、悪いことをしてしまったかもしれません。


 ただ、こちらとしても任務は任務。それに、ちょっと早いですが、まずカレンさんは第一の目標を達成したことが出来たわけで――。


「皆さん、ただいま戻りました。こちらは概ね予想通りですが、そちらの様子はどうですか?」


「ああ。私も特に体調の変化とかはないのだが――」


 そう言いつつ、カレンさんが僕の方見ると、その瞳にはとある魔法文字が浮かんでいました。


「『Ⅴ』の魔法文字――と言うことは、これでカレンさんは正式に、剣闘士グラディエーターの称号持ちになった――そういうことでいいだよね、チココ?」


 僕の問いに、チココがしっかりと首を縦に振りました。


「ええ。十三星は基本的に実力主義なのですが、その方法は単純で、『決闘で相手に勝つ』――これで相手側にその称号が自動的に移るようになっているんです」


 ちなみに、僕も決闘で【教授プロフェッサー】であるライトナさんに勝ちましたが、そもそも十三世は女の子であることが条件なので、移行はしなかったようです。今は女の子なので、これから相手に勝利すれば僕も称号持ちになれるのですが。


「というわけで、少し邪魔が入ってしまいましたが――改めて私達の本拠地をご案内いたしますね。私達幹部たちの集まる『帝国城』へ」


 というわけで、ひとまず第一の関門を突破した僕達は、敵の本拠地、その中心部へと踏み込んでいくのでした。


 × × ×


 ユーリのとの戦いによって周囲に及んだ物的被害についての後処理を【門番ゲートキーパー】の木人形たちに任せ、僕達四人はチココやナツの住まいがあるという『帝国城』へと足を踏み入れました。


「おお、こ、これはまた……なんというか」


 帝国首都中心部を覆う水蒸気と煙を抜け、敷地内へ入った僕らをまず出迎えたのは、とんでもなく大きな城でした。


 王都にある城も大きいのは大きいのですが、騎士団やら他の公務をする部署なども敷地内にあるため、城自体というより、その他の建物も合わせて規模が大きいというぐらいです。


「……大きい、ですよね。無駄に。元々ここは十三星と国王だけが住む予定のところだったので、本来はもっとこじんまりとしていて良かったんですけど、『なんでもでかいほうがいい』という初代の声で、なぜかこんなことに――」


 歴史に残っている記述でも結構豪快なことをやらかしている帝国の初代ですが、この城にその性格や人間性がありありとわかるようが気がします。


 なんでもでかいほうがいい、っていうのはなんとも子供じみた考えですが、僕も男ですから気持ちはわかりますしね。


「おに――姉ちゃん、まずは私のお部屋にいこう? 邪魔にならないところで、二人きりで作戦会議、しよ?」


 と、ここでナツが甘えたような声で僕の腕へと抱き着いてきました。経緯はどうあれ、結局僕は帝国に来てしまったわけですから――ってあれ? いつの間にかナツの思惑通りになっているような気が。


「ナッちゃん、私の、じゃなくて私達の、でしょう? カレン隊長と私を差し置いて何をするつもりなの?」


「エッチなこと」


「エッッッ――?!!」


 即答。これはまた真っ直ぐに来たなあという感想です。ナツは本当に一貫してぶれなくて、そこはある意味尊敬に値します。


 近くでそれを聞いているカレンさんも、思わず驚いた声を上げましたし。


「エッ……って、お前は人の恋人の前で何を言っているんだっ!」


「私は別に、アナタとお兄ちゃんの仲を認めたわけじゃない。認識してなければ、何をしても問題ない——と思うけど」


 なにそれ、その『自分が負けを認めない限り負けじゃない』的な理論。それだとナツが僕とカレンさんの仲を認めない限り、たとえ結婚したとしても、こんなやり取りが続くことになるわけですが。


 チココもそれについては溜息をつくばかりで、その姿はなんだか子育てに悩むお母さんのようでもありました。


「と、とにかくっ! これからのことは『四人』で考えよう、カレンさんが称号持ちになったのは結果オーライだったけど、僕の場合はどうなるかわからないし」


 四人というところをやたら強調しましたが、それはそれとして、今度は僕(私)について作戦を立てる必要があります。


 先も言った通り、称号持ちになるためには、『決闘』によって戦い、勝利を収める必要があります。それも一対一で、です。


 ユーリとの戦いを見た限り、他の十三星も同等かそれ以上の実力があるのは明らかです。そのため、決闘相手を選定するとき、『相性』が重要になってくるわけです。


 僕の戦闘スタイルは、肉体と技を極限にまで研ぎ澄ますカレンさんとは違い、全素質適性オールラウンダーである強みを生かした対魔法戦に絶対の相性の良さを発揮します。


 ということで、まず知る必要があるのが十三星のメンバー全員の情報なわけです。どんな相手でも勝つ自信がないわけではないですが、本来、この任務の最終目標は【女王クイーン】の打倒――と、そういうことから出来るだけ消耗するのは避けたいのです。


 そんなわけで、不満顔のナツをなんとか宥めたあと、僕達はひとまず、城の二階にあるというチココ兼ナツの二人部屋と行こうとしたのですが――。


「……あら、おかえりなさいチココ。随分と大所帯でのご帰還ね?」


 と、ここで、僕ら四人に声をかけてきた人物がいました。


 振り向くと、そこにいたのは、ギラギラとした光を放つ【Ⅲ】の魔法文字の刻まれた瞳を持つ漆黒の魔法衣の女性と。


 そして、そのわずか数歩先に、共和国の事件以来忘れることのなかった強敵の姿が――木人形のキャノッピがいたのでした。


「……お久しぶりです、【人形使パペットマスター】」


「固いわね。二人の時は『ミッちゃんさん』でいいわよ。私にも『ミライ』っていう自分の名前があるし、私とあなたとの仲なわけだから」


 闇に吸い込まれそうな黒髪に、エメラルドのような瞳――ローブと同じ色の三角帽子をかぶる姿は、まさしく『魔女』と形容するにふさわしい容貌でした。


 多分、十三星の中で、僕がもっとも相手にしたくないと感じている強敵中の強敵です。


 突然相対した僕の首筋を冷汗が伝いますが、それを見せないよう必死に隠します。


「――――」


 人形使パペットマスターの後ろに控えるキャノッピの人工の瞳が、やけにこちらを見ているような気がしますが、こればかりはバレないでくれと願うほかありません。


「それじゃあ、ミッちゃんさん。普段、研究所ラボからあまりでないあなたがここにいるということは……ユーリの敗北についても?」


「ええ。称号持ちは、一応、微弱ながら魔力的な繋がりがあるから――それで、そちらの大柄な女性が【新入り】の方?」


 パペットマスター、改めミライさんが物珍しそうな目でカレンさんを観察していました。チココやナツから聞き及んだところ、このような決闘で称号持ちが入れ替わったのは久しぶりらしいですから、彼女もそれで自分の領域から出てきたのでしょう。


「初めてお目にかかる。私は王都の騎士で、名を――カレラ、という。そこにいるチココの案内で、今後、この国でお世話になることとなった。以後、よろしくお願いする」


 一応、簡単にですが、カレンさんにも偽名を名乗っていただいています。十三星の人達は、総じて王都の騎士達の名までは興味はなさそうではありますが、念のため。


「ああ、王都の……最近ハカセがあっちでやられたっていう――もしかして、あなたが?」


「いや、すまないがそれに関しては存じ上げない。王都も広いのでな」


 ハカセを倒した張本人はカレンさんの隣にいる僕がですが、ここはシラをきり通してもらいます。いずれどこかのタイミングでバレるでしょうが、それは全てが終わった後です。


「ふ~ん……まあ、ここで話をするのもなんだから、後のことは『面接』で色々聞くとしましょうか。チココ、カレラと……それからその彼女の隣にいる可愛らしい女の子を、私の研究所ラボへ」


「え? 面接、ですか?」


 ミライさんの口からでた『面接』という不可解な単語に、カレンさんがそう訊き返しました。


 面接というと、考えつくのは、形式的に僕が受けた王都の入隊試験とかであるような『面接』ですが――。


「そうよ。私は一応、忙しい【女王クイーン】の代わりに国のことをやっている身ですから。新入りのことについて、色々と質問するのは、当然のことでしょう?」


 楽しそうな笑みをこぼし、ミライさんはローブを翻し、キャノッピとともに階段を昇っていきました。


 ついてこい、という意味なのでしょう。


「面接って――そんなこといきなり言われてもな……何を聞かれるんだろうか」


 就職試験前の受験生のようなことを言うカレンさんですが、実は僕も同じ気持ちになっていました。


 この面接――もしかしたら、今後の任務を占ううえで重要になってくるかもしれません。

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