4 悪の女幹部になってもすべてをあきらめた女騎士がかわいすぎる件

21 なぜか仲間と敵対してしまう女騎士がかわいすぎる件 1


 ついに決戦の時を迎えた王都側と帝国側。


 その場に選ばれたのは、帝国の国境にある通称『城壁都市』。帝国の全ての戦力、そして僕達の知らなかったが集約されている場所。 


 長らく小競り合いを続けてきた双方にとって、またとない舞台。


 しかし、


「え、えぇ……??」


 迎え撃つ帝国側と対峙した瞬間、王都側よりあがったのは、そんな困惑の声でした。


 僕達の目の前で総攻撃の準備を整えているのは、馴染みの顔が並ぶ第四騎士分隊でした。副隊長のマドレーヌさん、補佐役を務めるマルベリ、そして共和国出身の女戦士エナ、魔眼のアンリさん、以下百戦錬磨の隊員の皆さん……それまで同じ分隊の仲間として苦楽を共にしたはずの彼女達に向けて、僕は今、剣の切っ先を突き付けていたのです。


「アンタ、一体どういうつもり……? 理由によっちゃ、半殺し程度じゃ済まされないんだけど」


 眼光だけで数人はヤッてそうな視線を投げかけてきたのは、暫定で分隊を指揮しているマドレーヌさんでした。ブラックホーク所属を示す証である黒い鷹のシルエットが、彼女の着ている灰色の魔法衣ローブで、その存在感を主張していました。


「――というか、アナタもですわよ! そりゃあいつも好敵手だなんだと勝負を挑んではいましたけど、私、こんな形での戦いなど望んでいませんわ!」


「そうだよ、どうしたのさ! 私達、仲間でしょ? リーリャ様のことも守ってくれるって約束してくれたのに……どうして、そっち側に――倒さなきゃいけないほうにいるんだよ!」


 マルベリ、エナが続けて大きな声を上げたように、ブラックホークの面々に浮かんでいるのは戸惑いの表情でした。


 目の前の敵と戦うのが自分達の仕事――それは、彼女達も十分にわかっていて、だからこそ、近衛騎士団の正装に身を纏ってこの場に立っているわけですから。


 しかし、目の前にいる相手の存在が、『相手を絶対に倒す』という決意を揺るがしていたのです。


 それは、帝国側の最前線にいる二人の戦士――。


「ア~ッハッハッハ!! 王都? 近衛騎士団?? ブラックホーク??? ふん、そんな肩書モノ、とうの昔に忘れてしまったよ!」


 バサリ、と外灯を翻し、前に出た『彼女』が言いました。


 美しく靡く髪と同じ色の瞳に浮かぶのは、魔法文字ルーンで刻まれた【Ⅴ】の文字。 


「今の私は帝国近衛騎士団『十三星』、序列第五番目【剣闘士グラディエーター】のカレン! 王都よ、貴様らのような雑魚なぞ、一瞬でこの私の剣のサビにしてくれるッ!」


 そうです。今、王都の面々を大いに困らせているのは、本来なら、王都側で重要な戦力となっていたはずの、第四分隊長のカレンさんだったのです。


 一体何の冗談なのか、と彼女の姿をみた近衛騎士団の面々の空気が緩みましたが、カレンさんから発せられる闘気――十三星の称号を与えられたことにより、さらにその絶対量を増したそれが彼らを襲った時、認識が変わりました。


 彼女は本気だ、と。


 そして、そんなカレンさんの隣にいるのは、もちろんその恋人である僕、ハルだったのでした。


 もちろん僕にも、十三星所属であることを示す魔法文字が瞳に刻まれています。


「……カレンさん、ノリノリですね?」


「ま、まあな……」


 彼女だけに聞こえる音量で僕が言うと、『元』分隊長さんは、これまた僕にしかわからないように、一瞬だけ照れくさそうな表情を僕に向けてくれました。


「まさか私がアイツらと闘うことになるとは夢にも思わなかったが……これも乗りかかった舟だ。せっかくだし、存分に舞わせてもらうとするさ」


 はい、ということでもうお分かりだとは思いますが、僕とカレンさんは現在、帝国側についている状態にあります。


 簡単に言えば帝国側に寝返ったわけですが――もちろん、これにはちゃんとした事情があります。といっても、それを知っているのは、王都側で言うとエルルカ様、それにガーレス総隊長の二人だけなのですが。


 なぜ、こんなややこしい状態になってしまったのか――。


 それについては、時をさかのぼって順にお話していくことにしましょう。

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